2011年03月04日

独白




― 史(ふひと)独白

 もう本人も忘れてしまった遠い日々、必死に書き連ねたであろうノート1冊が、プリントすると、わずか10ページくらいに納まってしまう。そうして、凝縮してしまった日々の重みを、すでに遠く消えてしまった私の細胞を感じ、直すことさえかなわない。今の私にはいとおしくも、もう振り返れない想いを、他人事のようにながめては、ため息をつくのであった。





10-20’sぽえむによせて・・・

 これは私のずっと若いとき、あなたがこれから夢を追いかける年齢なら、私がその時期、こんなことを書き連ねていたことを知ってもらうのもいいと思ったのです。
 もう私には必要のないものだけど、同じくらいの年齢の人には、通じるものもあればと思ったのです。




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「詩人の魂」

「詩人の魂」 ―10-20’s(ティーンズ)の僕へ捧げる詩


もう私は詩人じゃない
もう私は詩人じゃない
もう私は歌わない
もう私は歌を詠まない

遠い遠い昔から 詩人は詩を歌に残してきた
世界中で どの時代も

喜びも悲しみ怒りも嘆きもあきらめも
詩人はどこかの誰かの思いを
ことばにして歌い続けてきた

その歌を聞いて 僕は育った
その歌を聞いて 僕は生きた
その歌を聞いて 僕は大人になった


まだ私には 歌うべきものがある
まだ私は 歌わなくてはいけない


けれど 僕の歌を聞く人は
けれど 僕の歌を聞いてくれる人は
次々と去っていった
僕の前から 僕の国から 僕の時代から

喜びも悲しみ怒りも嘆きもあきらめも
僕は僕の大切な人の思いを
ことばにしようと 歌い続けてきた

でも 僕に抱え切れないほどの思いを残して
大切な人は去った いなくなった 死んでしまった

僕の大切な人への思いは 溢れんばかりに出づるのに
その思いは 一つもことばになりやしない
その思いは 一つの声に出やしない

そして 僕は気づく 僕は詩人なんかじゃなかった


もう私は詩人じゃない
私は歌わなかった 歌えなかった
大切な人々が 私に歌い続けてくれたとき
私はそれをきちんと受け止められなかった

僕のまわりの詩人たちは
僕に この世を人生を愛を幸せを 歌い続けてくれた
数え切れないくらい 多くの詩人たちよ
その歌よ 詩よ 声よ

僕はただそのことばを思い出して 今は涙するのだ
僕はただその歌を噛みしめつつ もうボロボロになるのだ
そうしてようやく 大切だった人たちの魂にふれる
許しを願うのだ それは魂 まさに 魂となり
彼らは僕の記憶の中に留まっているだけ


だからこそ 私は歌わなくてはいけない
だからこそ 私は声を出し 詩をつくり
歌を歌い続けなくてはいけない

願わくば 彼らの奴隷となって
彼らのくれたものを 忘れずに
彼らのいくつかでも伝え残したい


僕は詩人をやめ 詩を詠まず ただ 彼らの魂を祈る
そのために 声を出す 詩をつくる 歌を歌う
そして 詩人の魂は 今日も生きる
詩人たちの知らないところで

詩人でなかった人
詩人をやめた人
詩人と気づかない人
そんな人々の中で
詩人の魂は生き続ける
永く 永く いつの世も どこでも
posted by fuhito at 17:10| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩Vol.6


0035 「雪」

君は 窓に額をつけて 外をみていた
ぼんやりとうつろな目でみていた
皆は不思議がってたずねた
君は答えた 「雪が白いから」
皆は笑った でも雪は白かった

君は白い息を吐きながら 外をみていた
曇ったガラスをぬぐってみていた
皆は何をみているのかとたずねた
君が答えた 「雪が舞っている」
皆は笑った でも雪は舞っていた

君は窓に額をつけて 外をみていた
ぼんやりとうつろな目でみていた
皆は不思議がってたずねた
君は答えた 「雪がやんだ」
雪がやんだ?
皆はもう 笑おうとはしなかった


0001 「別れ」

こんなにはやく別れの日がくるとは思いませんでした
いや、いつかこの日がくることは知りすぎていましたが
せめて卒業するまで待って欲しかったのに
あなたが安らぎとなって私の胸に眠るまで

確かに私たちに甘いものはひとつもありませんでした
あなたを愛せなかった私が悪いのかもしれません
でも 冷たい現実に情熱をぶつけあったこと
それが今の私たちにとって愛以上のものと思ってました

あなたは大人になって孤独に耐えていくのですか
私との思い出をすべてこわしてまで
悲しみをかくして一人立ちするあなたに
どんな顔をしてさようならっていったらいいのでしょうか


0002 「POPOへのオマージュ」

雨の中でお前は さよならもいわないで
車で連れられた 遠いところへ
今日という日がやってきて
おまえは約束どおり連れ去られた

家の中が広くなった ちっぽけな体が消えたばかりに
今はどこにいるのだろうか
かわいくて憎かったときもあったお前
今日はどんより曇った空の色 雨がさびしい

たった二年だったね 一緒に暮らしたのは
ぼくをうらまないで 仕方なかったんだ
お前は何もわからないかもしれないけど
やっぱり一番悲しいのは おまえだよな

そうだよ やっぱり これがお前にとって
本当の幸せなんだ さようなら
ぼくのことは早く忘れて 幸せに暮らすんだよ
幸せに暮らすんだよ ぼくのことは早く忘れて


0003 「POPOへのオマージュ(2)」

忘れよう 君のことはもう すべて忘れよう
思い出せば出すほど 悲しくなるし
いくら悲しんだって どうにもならない

忘れよう 君のことはもう みんな忘れよう
君を思い出せるものは 全部捨てて
いくら悲しんだって 君は帰ってこない

忘れよう 君のことはもう すべて忘れよう
昨日までのことは みんな夢のように
心の中にしっかりふたをして 君の 君の
幸せ信じて忘れよう


0004 「無題」

君は なぜわかってくれないのか
僕たちは若いんだ 子どものように
正直に生きよう 自分の心を飾らずに

君は なぜ信じてくれないのか
燃えればいいんだ 何も考えず
素直になろう 大人のふりをせず

君は なぜ顔をそむけるのか
さあ飛び出すんだ 自然の中に
すべて捨てよう 明日があるのだから


0005 「手紙」

いつの日からでしょう
こんな手紙を出す日が来ることを思い始めたのは
この日を恐れ出したのは
これがあなたの手元について あなたが読み終わったときに
私はもうあなたに笑顔を返せなくなるのでしょう

さようなら 愛する人よ
私はこの街を去ります あなたに二度と会えないように
あなたとの多くの思い出忘れて 私は旅立ちます
行くあてもないのですが そして いくらか心が休まったら
嫁ぐでしょう

許してください もしあなたが私を信じられなくなったら
三年間はあまりにも長すぎました 私たちにとって
身が離れて 心も離れた
あのころのすべてだった愛が こんなはかないものだったとは
どうして考えることができたでしょうか

わかってください 去年、二年ぶりにあなたに会ったとき 
私にとっては 初めてのデートでした たぶんあなたにも
そんな幼い私たちに何がわかったでしょう
たった一つだけ確かなのは あのころの情熱は消えてしまったこと
もう別れることしか残されなかった

許してください もしあなたが私をまだ愛していたのなら
今の私には愛せる人は一人もいません 世界中に一人も
二度とこんな苦しい思いをしたいとは思いません
幸せだったあのころを忘れること
それが幸福なのではありませんか


0006 「今ごろ君も」

今ごろ君も寝られないでいるのかな
あの月の下にある 小さな街のかどっこの家で 遠くはなれて
君の顔もおぼろげだけど 忘れやしない

今ごろ君は何をしているのかな
物干し台にあがって 冷たい風をあびながら こちらを向いて
やっぱり僕と同じこと 思っているのだろうか

今ごろ君は何を考えているのかな
長い髪に手をあてて 切っちゃおうなんてだめだよ
君は変わらないでほしい 遠い君と これ以上離れないように

また会える日がくるか それさえわからない
あれが最後の君だったかもしれない
列車の窓に両手かけて 顔を上げなかった
負けず嫌いの君の涙を見ることは なかったね


0007 「教えてくれ」

誰か教えてくれ おれの生きる道を どうやればいいんだ
この大切な青い瞳を こんなふうに過ごしていいのか
教えてくれ おれのぶつかるものを

これではいけない おれの生きる道は もっと苦しいはずだ
ぎっしりつまった毎日 その一瞬を燃えなければ
教えてくれ おれが飛び出すところを

平凡を捨てろ おれはおれなんだ
人がどう思おうとも この想いを大事にしよう
何もできずに年老いてしまわぬよう
教えてくれ おれのやらなくてはならないことを


0008 「空まわりの空」

どこか狂ってるんだよ おれたちは
今日の次に今日がくる いつまでたっても明日がこない
それなのに一年はあっという間に過ぎてしまう
それなのに一年はあっという間に過ぎてしまう

なんで狂ったのだろうか おれたちは
夜の次に昼がくる 新鮮な希望に満ちた朝がこない
それなのに 一日は あっという間に過ぎていく
それなのに 一日は あっという間に過ぎていく

どうして狂ってしまったんだ おれたちは
現実はいつまでもそのままだ 夢は空の向こうに
何もできずに この世は終わりを告げてしまう
それなのに おれたちは 終わったことさえ知らない
それなのに おれたちは 終わったことさえ知らない


0009 「森の中に見つけたもの」

ある日 僕は 森の中
深くて誰も入ったことのない森の中に入りました
中には 僕が見たことのない 珍しいものがいっぱいありました
お日さまも照らさない闇だらけ
その中にこんなにすばらしいものがあるとは思いもしませんでした

森の住民は僕を見に たくさん集まってきました
人間というものに好奇心をもった住民は 僕を取り囲みました
何も周りには見えなかったけど そんなふうに思われました

僕は僕に呼びかけ お前たちは何者かと尋ねました
美しい音色が耳にささやきました
見たことのない鮮やかな色が飛び散りました
どこまでいっても果てのない森の中 何も見えないのに
とてもとても明るいのです

彼らは教えてくれました
心の音を 心の色を 本当の愛を 知を まことの真実を
真っ暗な森の中
その中にこんなにすばらしいものがあるとは思いもしませんでした

森から出て 僕は考えました 目の前にあるものを
人間というものを
森には青い空も 萌ゆるような緑はなかった
けれど心の目で眺めているとわかるんだ
森の中を流れていた小さな川の流れの中に
昔の僕がいたことが


0010 「おまえの家」

まっくらな空の下 僕は一人帰る
疲れ果てて 足取りも重くふらふらと
いじわるな雪に 足をとられまいとして
ああ 家はまだまだだ

人っ子一人いない街の中 僕は一人帰る
信号機が ちょうど赤になっちまって
地面をこする風に 顔をあてまいとして
ああ 家はまだまだだ

ああ おまえはどこにいるのか
どうやって捜せばいいのか
どんなにおまえが遠くにいても
おれは 今すぐに会いに行きたい

ああ おまえはどこにいるのか
いつになったら会えるのか
顔も見たことのないおまえに
いつか会える日がくるのだろうか

おまえよ おまえよ 答えてくれよ
今こそ おれのそばにいておくれ
もし この世界に生きているなら
もし この世界で出会えるのなら


0011 「夜行列車」

ぼんやりと空が明るくなってきて
夜明けだよ 長い夜は終わった

お日さまがあんなに赤く輝いて
夜明けだよ 新しい朝が来た

僕は今日から一人で生きていくんだ
希望を胸にみなぎらせ 精一杯
列車は走る 青い海を横にみて

誰もまだ 雪が降ったのを知らない
夜明けだよ 長い夜は終わった

どんよりと街は曇ったままだけど
夜明けだよ 新しい朝が来た

僕は今日から一人で生きていくんだ
寂しかた昔を振り捨てて今日から
列車は走る あの陽が傾くまで


0012 「マフラー」

バス停から今日も一人歩く 星も出ていない空の下 風は冷たい
長い長いマフラーを首に巻きつけ 肩をつっぱって夢を見る

赤信号にとめられて横をみると 澄みきった目がある あなたがいる
マフラーにすがってふるえながら ヘッドライトを浴びてまぶしそう

ほんのささやかな幸福にひたり こわばった頬がとけはじめる
赤が青になって マフラーが軽くなり ふっと寂しさが
あなたがいたら


0013 「手紙」

冷たい風に眠気も吹きけらされ
今日もぼくは 門に立つ
たった一枚の手紙 あなたの―
もう無駄なことかもしれないけれど

去年の今ごろは 何でもなかった手紙
あなたの文字がまた大人びてた
どこにいるのか あなたは―
今はもう あなたの便りを待つだけ


0014 「お別れ」

あなたはどうしてそんなに明るく笑えるのですか
まだ 幼かった頃のように
僕の心の中は悲しみで染まっているのに あなたは―
雨がやんだらお別れですね 僕と―

あなたはどうしてそんなに明るく笑えるのですか
はじめて出会った頃のように
僕は現実に苦しみ 疲れ果てたのに あなたは―
雨がやんだら さようならですね 僕と―


0015 「おねえさん」

いつもは待ちあこがれる春だけど
今年は桜が咲くのが悲しい
おねえさん 都会は冷たくないですか
夏の休みには 笑顔で戻ってきてほしい

いつもは味気ないねえさんの料理が
今年は不思議に心を温める
おねえさん わがままはいいません
夏の休みには いっしょに海で泳ごうね

いつもは世話ばかりかけていたけど
今年は青空に 白い雲ぽっかり
おねえさん・・もひとりぼっちですね
夏の休みには いっしょに暮らせるよね


0016 「今、再び」

その名が心に響くのはなぜ 日が経つごとに 大きさを増して
今も忘れやしない あの毎日を あの頃のあなたを
そのときは なんとも思っていなかった
ただの無意識な行ないが 年がたつにつれ
あざやかに思い出となっていく その流れに翻弄されて

久々に 先日 その頃のことに触れるとは思わずに 足を運んだ
今も忘れやしない あの毎日を あの頃のあなたを
すべてはじめて見たように 新鮮味あふれてた
この場所にあなたと もう何年前なのか
その甘い日々の感触が 手に指に蘇ってくる


0017 「夜汽車」

汽車は走る 暗闇の中を
座るところもない客室を出て
冷たい外気に触れながら
人家のあかりを遠くにみつつ

汽車は走る 静けさの中を ガタゴトと刻む音とともに
長い夜は一人ぼっち 擦れ違う貨物列車が心おどかす

汽車は走る 暗闇の中を ゴーとトンネルつんざく耳に
小さな駅を通過する 駅員さんがホームに一人遠くなる


0018 「停車場」

雨にうたれて あなたを待つ
停車場の小さなホームで 赤さびたレールが光る
レンガ造りの石炭置場は 雨に塗り替えられてゆく

ぼうっとかすんで あなたが見える
線路を隔てたあっちの方に 息をはずませかけてくる
「遅れたかい」なんて わざとらしく
コートを脱いでかぶせてくれた

あの頃は幸せだった 待てばきっとあなたに会えた
だけど今は もう雨に打たれて いくらぬれてもあなたはいない
雨は降るけど あなたは降りてこない 遠い遠い空から

停車場の小さなホームで 赤さびたレールが光る
レンガ造りの石炭置場が 雨に塗り替えられてしまう


0019 「君のこと」

デパートのおもちゃ売場で
ピンクのかわいいうさぎのぬいぐるみ
君みたいねっていったら ほほえんで
あなたもいるよねって
シンバルたたくチンパンジー

そのとなり、ベビー用品場で
愛らしい赤ちゃんのベッド
買っておこうかっていったら はにかんで
いらないわよ こんなもの
あなたにはちょっと小さすぎる

いつも毎日 君は この調子
素直じゃないところが 君の素直さ

そうさ 君は幼いまま
昔からちっとも変わっちゃいない
チョコレートかじって ブランコこいで
青空に夢を追いかける
腕にしがみついて 体をよせて
夕焼けの赤さにみとれてる

暗い帰り道 買いものぶくろ手にもって 見上げたら
夜空に輝く星がとてもきれいだったね


0020 「LOVE」

忙しい毎日が明日をよぶ
わずかだけど 一番幸福なとき
それは 夢が頭の中をかけめぐるとき
疲れたときには赤い古びた辞書を
本棚の隅から取り出して単語を調べよう

ラブー LOVE(エル オー ブイー イー) どうでもいいけど
I fall in love with you  ウォーウォーウォー
ウィッツ ユー YOU(ワイオーユー) あなたと
オンリー ユー YOU あなただけ―

一日じゅう 家の中に閉じこもり
わずかだけど 一番幸福なとき
それは 胸の中のあなたがほほえむとき
想い出の二人には赤い古びた辞書を
目をつぶってねらいをつけて単語を調べよう

ラブー LOVE(エル オー ブイー イー) どうでもいいけど
I fall in love with you  ウォーウォーウォー
ウィッツ ユー YOU(ワイオーユー) あなたと
オンリー ユー YOU あなただけ―

LOVE YOU あなたを
LOVE YOU 愛しています


0021 「白い恋」

白い恋を雪の道に走らせて
電話BOX やさしい声を つるつるに凍った道を急ぐ

10円玉を片手ににぎりしめ
電話BOX やさしい声で
髪をなぜながら ダイヤル回す

お久しぶりですね 覚えてますか
私です あのときの雪の妖精

東京に来たら必ず寄れと あなたがくれた紙切れあてに
もう 5年もたったのですね 覚えてますか 私の声を

あなたは孤独な旅人 吹雪の夜に凍えて私の家に来て
体が直ったら すぐに出ていった

それから一日たりとも忘れやしません ずっと愛しています
あなたは何もしてくれなかったけど
二人で話したことも覚えています

今 すぐに会いに行きます
私はあなたの白い恋人


0022 「スバルスリップ」

雪道でスバルがスリップ走れない
オイチョット オシトクレ
三人連れの学生がめんどうくさそうに
車に近寄ったら ビュー

そのまま行きゃいいのに 止まって
スンマセン タスカリマシタ
何にもしてない学生さん 照れくさそうに
コートのすそは ビッショビショ

さてはスバルめ タイヤが雪とばし
オイチョット マットクレ
気前のよいおっさんは 千円札にぎらせ
車にのってドアしめ ビュー

そのまま行けずに 止まって
スベッテスリップ ハシレナイ
三人連れの学生は 走り出している
おいこら 待たないなら 千円返しゃんせ


0023 「港町 ブルージィ」

あなたへの想いを振り切れず この港に来ました
冷たい海風 髪は潮に染まりゆく 月のきれいな夜でした

哀愁のせて汽船はいく あなたの国に帰るのでしょう
一人港に取り残されて 波の音もない夜でした

にぎやかな港町の帰り道 私の故郷 思い出の浜辺 海の香
遠くひかる灯台の光が あなたの面影をにじませます


0024 「失恋」

やみそうな雪の清らかさ 音も立てず 窓の外
冷え込んだ外気が 頬を切りつける

埋もれた田んぼを追うていくと どこからか空になる
つかみようがない 白い空間 目がうつろうだけ

ぼうっとした広がりに 空しく心の穴に風が吹く
もう何も聞こえない 髪が凍えるよう 雪片を払いつつ歩く


0025 「長い一日に」

せまい部屋の中で一人 ギターを片手に
何も考えずに弦を押さえる もう何日たったのだろう
とても長い一日が 何の味気もなく過ぎてしまう

幸せの過ぎたあとのさみしさ ただ昔にもどっただけ
それなのにギターの音色は悲しみさそう
とても長い一日が 何の味気もなく過ぎてしまう

話したくはないけど 会いたいんだ
見つめられたくはないけど 抱きたいんだ
未練はないけど もう一度 あなたの笑い声を聞きたいんだ

色あせたように 一人
つまらない自分が 一人
忘れ終えるころの君だったはず
でも 体いっぱい君だらけなんだ


0026 「年上の女(ひと)」

信じていました あなたへの愛を 私の愛するたった一人の人
たとえそれがはかなく壊れても よかったんです 愛したままなら
それなのに あなたの後ろ姿 私にはただ あこがれだった
自分で愛と決めつけていただけ

誰にもいえない あなたへの愛が まさか内から崩れていくなんて
たとえそれが報われず終わっても よかったんです 愛したままなら
私にはただ あこがれだった 愛という名に甘えていただけ
自分で愛と決めつけていただけ

ああ祈り捧げます 神よ
どうしてもうひとまわり早く
私に生命を吹き込んでくださらなかったのですか―
年下嫌いのあの人の恋人となるために
あの人は振り向いてもくれない ぼくはいつまでたっても子供のまま

目の前にぼくがいるのに
いつも孤独な顔してさびしそうに微笑んでいた
あの人は気づいてもくれない
ぼくが何をいっても ほほえむだけ ただやさしい笑顔をこぼすだけ
いくらがんばっても 拾えない僕 ああ・・・


0027 「初恋 雪解け」

雪が解け始めるころ
僕の心は凍ったまま
あなたが卒業していくのに
春なんかくるわけない

雪がお日さまに照らされて
暖かい日ざしがやりきれない
僕の気持ちで少しでも
春風を呼べないのか

出会ったのは 去年の今ごろ
あなたに取り付かれた僕
遠くからながめてるまに
別れのことばもなく お別れ―

あこがれたまま 何もできずに
一日また一日 暦がめぐる
どんなに短い時間でもいい
自分をあなたにぶつけてみたい

いつでも疲れた顔 ただながめる
一日また一日 暦がめぐる
あなたにとってなんでもない僕
僕にとってすべてのあなた

出会いもなく お別れ― 初恋の雪


0028 「晩秋」

すっかり忘れてたよ ごめんね
今ごろふせぎこんじゃって 顔をふくらまして怒っているのかな
それもかわいいよ
落ち葉でも拾いながら ロマンチックに
一人晩秋に ひたっているのかな

もうすぐ着くよ ごめんね
今ごろ退屈しちゃって 怒る気もしないほどくたびれたのかな
それもかわいいよ
温かい地面の上に 落書きしながら
一人晩秋に ひたっているのかな


0029 「テニスコート」

誰もいないテニスコートは 朝の静けさに包まれて
いやおうなしに僕を苦しめる
初めて会ったのは ここ 想い出の場所
そして いま 悲しみの場所

あまりにも早すぎたゲームセット
あなたが駆けていたのが 嘘のよう
白いユニフォームが跳ね回り
そんな日があったみたい・・・だったよね

凍りついたテニスコートは
白線もさびしく土にかき消されて
いやおうなしに僕を苦しめる
初めて会ったのは ここ 想い出の場所
そして いま 悲しみの場所

あまりにも早すぎたゲームセット
あなたがネットの横にいて
ラケットで乱れた髪をなぜていた
そんな日があったみたい・・・だったよね

でも私には 離れれば離れるほど 近づくよう
離れれば離れるほど 近づくよう


0030 「ターンテーブル」

汽笛の音は変わってしまった
投炭場も忘れられ 給水塔も壊れかけ
そして―
機関車の中は 昔どおり真っ黒だけど
プレートはもう輝かない
ターンテーブルが
赤くさびついた音を立てて回る

汽笛の音は聞こえない
投炭場は炭もなく 給水塔の水は枯れ
そして―
機関庫の上は 昔どおり青い空だけど
黒煙はのぼらない
ドラフトの響き
油にまみれた音をたてて回る


0031 「やりきれないときには」

ワォワォワォー 誰もいない野原で叫ぶ
ワォワォワォー 夜の月に向かって叫ぶ

石を投げられるだけ 空に飛ばして
草をむしれるだけ 散り舞いて
何となくやりきれない
この気持ちを 体を地面にたたきつけ
夜露にぬれる

ワォワォワォー 誰もいない野原で叫ぶ
ワォワォワォー 夜の月に向かって叫ぶ

夢も希望も何もかも根こそぎ砕かれて
わずかな幸せまで すべて奪われて
どうしようもなくやりきれない
ただこうして 星をみあげる 目を閉じる


0032 「ただ一度だけ」

ぼくがマッチ棒のように小さくて
四角箱にぎゅうぎゅうにおしこめられて
誰の目にも止まらなくても・・・いい
そのときがくるまでじっと していても・・・いい
一度だけ あなたに燃えられたら それだけで・・・いい

ぼくがマッチ棒のようにはかなくて
わずかの数秒で灰になってしまって
何の役に立たなくても・・・いい
すぐにあきかんに捨てられても・・・いい
一度だけ あなたを燃やしたら それだけで・・・いい

一度だけ あなたと燃えられたら それだけで・・・いい
それだけで・・・いい


0033 「星の瞳」

星がきれいだわと そんなロマンチックなことを
君が思っているなんて 気がつかなかった僕
君を笑わせようとして いきなり振り向いた

君は驚いて 目を大きくして 肩をこおばらせた
僕は見つめられて その大きな瞳に吸い込まれて
何も言えなくなった
(星がきれいだね)

君はあの輝く星 夜空にぽつんと はなれてひとつ
そのさびしさ隠すように まばたき光る
いつからあの星は輝いているのだろうか
君のその澄んだ瞳の中にも 星がきらめいていた


0034 「おやすみ」

君は長旅に疲れて いつの間にか
すやすやと 眠りに落ちる
とてもあどけない寝顔がかわいい
僕の胸に抱かれて
窓の外が明るくなるまで おやすみ

鈍行列車 車内はいつの間にか
人はまばらに
とても静かに二人をつつんでくれる
僕の胸に抱かれて
夜明けの終着駅まで おやすみ


0036 「The eyes of Ice Doll」

君は冷たい人 どんなに近づいても知らんぷり
高慢ちきなお嬢さま 血も涙もない
愛も情けも― 人間さえも知らないんじゃない?
目を合わせたくないほど キライな君
見てるだけ 考えるだけで 腹立たしくなる君
でも その澄んだ汚れのない瞳に
見つめられると 動けなくなってしまう

君は冷たい人 何をしようともおかまいなし
高貴なお嬢さま 笑顔も微笑みもない
悲しみも悩みも― 自分さえも知らないんじゃない?
声も聞きたくないほど キライな君
見てるだけ 考えるだけで 我慢できなくなる
でも その澄んだ汚れのない瞳に
見つめられると 動けなくなってしまう


0037 「旅立ち」

旅立つ日は知らせませんでした
別れを心に感じたくはないから
帰ってくる日はないでしょう
二度とここには来たくないから
昔のことはすべて忘れて
これからの旅のことを考えましょう

海は荒れ模様 曇天続きとなりそうです
ここを遠く離れれば あなたも遠くなるはずです
そう思って 旅立ったのです
でも 私には 離れれば 離れるほど
近づくよう―

長く続きすぎた偶然
それは運命という神のいたずらだったのでしょうか
出会いのない人間に 別れなどあるわけないのです
昔のことはすべて忘れて
これからの旅のことを考えましょう

古い都で降りて どこかの寺で心鎮めて 
神に祈りながら 体をからっぽにしましょう
そして あこがれの小さな離れ島で
一人こっそりと暮らします
でも こんな私が夕暮れでもみてしまったら大変です
日は二度と昇らないのですから―


0038 「曇天模様」

空が晴れてくれないのなら
飛びだしたい 雲の上に
この明るい太陽の光を
さえぎられて たまるものか
朝は 朝らしく来てほしいよ
新鮮な風に送られて

ゆううつな天気が続くなら
飛び込みたい 海の中に
雨の音ばかりで 外にも出られない
たまるものか
空は 空らしく輝いてほしいよ
この海のような青さで


0039 「旅に出てみませんか」

一人 旅に出てみませんか
あてもなく さすらいの―
見知らぬ街を歩いたら あなたの心も
澄んでくるでしょうか

何かを求めなくても
きっと何かに出会えるでしょう
見知らぬ人しかいなくても
あなたは人目を気にせぬ 穏やかさを
その中で感じるでしょう

一人 旅は時間を忘れるのです
ただの道がひどく親しげに
古びた店がとてもなつかしく
すれ会う人でさえも 恋しく思われるでしょうか
初めてだからこそ 清らかになれるのです

ごつごつとした一番大きな幹に
あなたのイニシャルを削っておきなさい
石ころが 砂ぼこりにまみれた雑草が からっ風たちが
あなたを癒してくれるでしょう


0040 「ひびき」

操車場から列車のひびきが
眠れず夜を明かしてる 僕の耳に
暗く染みとおった部屋で
天井の木目を数えては うとうとと

はだか電球消し忘れてた
もう朝だろうか
時計の音だけ妙に
重い頭にはらだたしい

しょぼい目は おぼろげに
部屋の中を見回す
カーテンのすきまから
うすい 光がさしてきて

ふとんもかぶらなかった
枕に顔をこすりつけて
すっかり体は冷えている
起きる気もさらさらなく

ねむりたい 今はそれだけ
目を閉じる 今はそれだけ
どこかの犬が吠えてる


0041 「帰り道」

果てしなく続く道は
緑の風に香おって
青い空にもっくり雲

遠くの山はかっきりと
あのふもとまで行くんだよ
そう思えていた 幸せだった日々

青さに目が慣れて
動かぬ雲に飽きてきて
退屈しのぎに草をむしる

照りつけた太陽に
喜んで汗ぬぐう旅人などいない

今 僕は 砂ぼこりもたたない
白い道を行く
すれ違う人もいない
笑いあう友も去った

一本 まっすぐの道を
旅をやめた者たちが帰る
荒い風に くだ巻いてみても、な


0042 「コーヒー豆とランプ」

おだやかな日ざしが頬を赤らめ
コーヒー豆の芳ばしい香ほりに
屋根の雪がうめいては 氷柱が落ちる
なつかしい歌に引かれ ひとりでにすわってた

カウンターから一番離れたテーブル
マスターの顔も 甘いミルクコーヒーも
聞こえてくる曲さえ あの頃と同じ

古びた棚にグラスがそろったみたい
マスターの髪も白くなったのね
いつかのように 目の前のコーヒー豆
指でつぶして 目を閉じる

あざやかな過ぎ去った日の想いに
頬を涙がつたうのね
マスターの顔も 甘いミルクコーヒーも
聞こえてくる曲さえ あの頃と同じ

そっと目をあけ 後ろめたさにうろたえないように
ここは何も変わっちゃいないじゃない
あのガラスドアの外は すべて遠く流されたのに

今は一人で あのころの幸せ気分追いちらし
思い出してくれないのマスター 私は一人きり
うす黄色のランプの光がにじんでいる


0043 「旅人」

あなたはどこに行ったのか 私は知らない
行き先も 行く時も告げず
きっと あの山の向こうに行ったのね
私のささやかな夢も知らず
二度と戻ってこないことでしょう

通りがかりの旅人だったのかしら
私よりも枯れ野を選んだの
あなたはりっぱな流れ者だったって

あなたはどこに行ったのか 私は知らない
行き先も 行く時も告げず
きっと今ごろ 落葉に寝ころんで
誰のことを考えているのかしら

どうしようもない旅人だったのかしら
古びたカーボーイハット一つ
あなたは孤独好きな流れ者だったって


0044 「折り鶴」

折り鶴に願いを込めています
何もできないので
私はただ 白と黒の色紙よせて
あなたが帰るのを祈ります

一番好きだったのは青かしら
白い糸で一羽つなぐごとに
やるせないさみしさに
ふるえた手合わせ祈ります


0045 「かぐや姫」

月のきれいな夜 星もたくさん 竹は輝く
あなたが旅立つのだから
部屋はきれいに片付いて
私のそばに読みかけの本一つ 置いたまま
お嬢さん またいつか 会いましょうね
遠いところへ 帰っていくのか
Oh my God, my dear princess !


0046 「下山」

水の音が透き通ってる この寺は
鳥の鳴き声さえも 聞こえないけど
あなたがいる間は ずいぶんにぎやかでした
座禅がようやく組めるようになり
山寺の暮らしにも慣れてきたのに
心の迷いが解けたのでしょうか
ここの自然に悟られたのでしょうか

何も土産はないけど
赤い木の実を髪にさしていきなさい
忘れっぽいの直ってないから―
雨あがりの石段はすべりやすいから 気をつけなさい
あなたの目にはキレイがうつるでしょう
この寺の鐘の音のように
キレイに聞こえることでしょう


0047 「地平線」

止まることさえ知らず 流れの中で
僕らは 夢抱き 生きているんだ
明日でさえ どうなるか知らないけど
僕らは 信じて 生きてゆくんだ

果てしなく続く道は 地平線のかなたへ
日が昇る朝焼けの 空の色にみとれて
照り映えるうろこ雲で 赤味がかった空

二度と戻らない 流れの中で
僕らは 夢抱き 生きているんだ
昨日でさえも 遠い昔になったけど
僕らは 信じて 生きていくんだ

果てしなく続く道は 地平線のかなたへ
夜空に輝く星は あまりにも遠くて
白く浮かびあがった雲に まんまる月の端
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詩Vol.15



1.路地とコインと救世使

少女から女性になろうとしている子が
すすり泣いているのは 夜の路地です
下宿から吐き出されたのを
両手を上に伸ばして歩いてきた
救世使が気づきました

彼の右のポケットにコインが3枚入っています
一枚はちょうど横の自動販売機に搾取されました
ガタンと音がしたとき 少女は一瞬 泣きやみました

救世使はジュースを一気に飲み干しました
その子は 膝を抱えて
声を押し殺して泣いています
二枚目が自動販売機に搾取されたとき
少女は顔さえ上げませんでした

彼の胃に毒物が落ちていきます
その子は泣きやみません
三枚目を右から左のポケットに移し変え
救世使はその場を立ちました

その子はまだ泣いています
救世使のポケットには使わなかった
コインが一枚 入っています
でも そうであろうと なかろうと
朝となり 泣き明かしたその子は消え
いつものように そこは
人ごみにごった返す路地となるのです


2.二十歳の誕生日

泥白色の空
街燈の列 列 列
ポリバケツのフタ 転げた

湿ったアスファルト
澱んだ空気
地下鉄工事の音

美しきバラード
オレンジジュース
口に含んでは吐き出し
胃が脳みそをぐしょぐしょにし

歩いているのは 僕の下半身
よろめいているのは 僕の上半身

こんなになっても
僕は王者にはなれないのだ
しがない街の一隅に
ヘドを吐いている
誕生日 僕の二十歳が過ぎていく

空っぽの缶
飲んだ覚えもなく
空っぽだ

カラリン カラリン カランコロン
蹴られちまった缶カラ
錆びつき 朽ちるまで
僕は どれだけ生きるのだろう


3.札

札が後方に飛び去った
もう 永久に手にできぬ
その札をやむなく受け取ったとき
僕は生を選んだのか
いや いつの間にか それは
ポケットに入っていたのだ

その札に僕を彫りつけぬうち
愛おしさも汗も手垢もつかぬうち
奪われたのだ

使い果たしたからだとよ
見てよ まだ新品同様だったじゃないか
ー使用期限二十年間が切れた

悲しき罪の象徴 思い浮かぶ風景
美の冷ややかさ 時のうつろひ
感慨失せ 感覚麻痺
成人の札をよこしやがれ!!
いつしか またポケットに入っている

ところで神よ
この新たな札
あんまりじゃないか

二十よりあと (有効期限不明 途中下車無効)
弱き者は 軌跡に寝ころんで
もう夢を見ている
目ざめるのはきっと
死ぬときだろうよ


4.釣り

私は海の辛さと水圧を絶えず
全身に感じ 周遊していた
広い海 同じところは 二度と通れぬ
常に未知と危険に満ち足りた日々だった

ある日 えさをつけた釣り糸が
私を誘いにきた
水の上に出てみないかと
空はもっと広い
鳥のように 飛んでみないかと

私は初めて飛んだ 宙に舞った
太陽に体が 虹色に光り
水しぶきをあげ その至福をかみしめた
その直後 私の体はがんじがらめにされた

そして今 私は釣り竿を垂れている
時はあのときから流れはじめた
私はひたすら 魚のかかるのを
竿に任せて 太陽が半円を描くのを
寝転がって見ている

こんなに暑いのに
私は泳げないから
そうしているしかない


5.夢

原爆の落ちた日は 熱かった
暑い日に 落とされた

生まれるまえのことは すべて神話
幼き頃のことは すべて童話
少年の頃のことは すべて漫画

そして今 私は新聞に載っている

夢にびっくりして起こされたとき
夢を見ようとして祈って寝たとき
夢は現実の世界で行為していた

ところが夢を歩きだそうとしたら
夢はまさに夢のように
とりとめなくなっちまった
なんせしっぽがない

つかまえ切れないうちに
夜毎の夢の地図も狭くなった
果たしてこんなんで
夢の名に値いするのか


6.武具

僕の強さは 鎧と兜だった
それは貴方が丹念につくったものだった
百戦百勝した武将の心中を誰が察したか

己だけが知っている真実
か弱き女子の手で できたもの
それが昨日までの僕だった
今は敗者 価値あるものはすべて
貴方とともに消えた


7.粉雪

地に届かぬうちに 消えてしまう粉雪が好きです
なんだか とても 薄命の
悲しみは 夕焼けの色に けぶる稲わら
青紫のうす揺らいだ煙
汽笛は 共鳴した 眉間の奥深くに


8.じっと

愛と 気やすく呼ばないで
恋と そんな浮ついたものでないの
真心こめて じっと見つめていてよ


9.海

なぜってわからない
ただ 無性に海が見たかった
だから走った 走り続けた
海は 黙っているだろう
でも 教えてくれるだろう
愛を求めないだろう
でも 愛してくれるだろう

海は黙っていた
それだけだった
それでよかった


10.ビラ

雨の日なのに 世界平和を唱え
ビラをまいている人がいて

雨の日だから 無関心に
無視する人がいて

雨の日であろうとなかろうと
投げ捨てられたビラを
拾っている人がいる

僕は世界平和を唱え
そのビラを踏みつける


11.まだだ

疲れちまったと
いってしまえば おしまいだ
生きてゆくことは
ほんとうであるほどに
疲れることだが
その疲れを感じないように
疲れていたいと願う

体がへとへとであっても
精神がくたばりそうでも
何かがあると
だから 生きる
生きていられるし
生きねばならない

疲れちまったと
ことばに出すのは たやすいし
情けない顔をすると
自己満足を得られるかもしれないね

けれど 自分の中にも
そんな弱いものじゃないものが ありそうな

心の炎をいつしれず 冷やさぬよう
そんなことばが 出そうになったら
吹っ切ってしまおう
まだ まだだって いっているよ


12.呼び出し音

この電話の向こう側で
呼び出し音が
果てしなく続いている

僕の思いは
あなたのすぐ手元まで
いっているはずなのに

あなたには 届かない
あなたの心は 受け付けない

僕はことばにならない
想いを込めたベルを
そっと切る


13.「9」

悲しみは 寝起きの気まぐれ
体の奥深く ひそんでいるのは
太古より継がれてきた
肉体の必然か

理由も原因も 探すに程遠い
そこまで行くのに 誰もが疲れ
癒される術もない 悲しみを深める

ときおり 働く知性
悲しみを癒そうとして
自ら働く こいつが
偽のヴェールをかぶっている

要するに 幾何学的 問題だ
コンパスと定規で
きっちり9で割り切れる直径の
円をありうる限り 書き続けよう

そのうち それが無数にあることが
わかって 悲しみも
また9で割り切れることがわかったら
気の病いは 9分通り 治るだろう

あとの1分 それは最初から
最後までずっとあるものさ


14.反逆

とうとうと河の流れのごとく
なりなされ それが無理なら
流れに身を任せなされ
心静かに 仮の世に
慈悲の宿りをしなされと

神の悟しも 仏の教えも
わかっているし
そうしたいのは やまやまだけど
人間として生まれたからには
彼らに近づきたくはあれども
人間として生まれたから
よいところの悪いところや
悪いところのよいところも
ばかげたこととの思いになろうと
人間らしく 生きていきたい

わがままな情熱
せこましい一念を通すため
人間としての世界で
この世だけ この生だけ
あつかましく 執拗に生きていく


15.若さ

若いといわれるが
そう 事実 若いのだ
そういうことだ
それを道を知りながら 歩めぬのが
極悪な人間というものだ


16.ある夏の日々

海は夏だった
白く青く くもくも
青く白く もくもく

太陽が大洋に眠たいよう

浜は夏だった
人はまばらに ばらばら
波は幾腹と なみなみ

静かだったけど
動いていた
何もかもが


17.啓示

ミューズは気まぐれ
とろりとろりと眠っていては
呼びかける 寝ぼけまなこに
天の啓示と 謹聴しても
それらしきことは ありゃしないさ


18.ある夏の宵

夜は更けゆく
雨滴は時をうがち
眠れぬいらだち
夢が誘う

悲しき今宵
冷えた体
乾いた口唇
序曲の始まり

手を伸ばし
足を伸ばし
まるめたシーツを蹴り
汚れた枕を投げやる


19.土の上

海は俺のもの
だけど 泳げない
空は俺のもの
だけど 飛べない

今は だから
俺は 土の上で
ひたすら生きる
永遠のあこがれ
かいま見ながら


20.魂

魂が燃えるかぎり
煙はのぼり すすは舞う
雑多な俺の魂は
無限の彩りに
小躍りして喜ぶ


21.風船

大きな風船 小さな風船
赤い風船 青い風船
色とりどりの風船

僕は それを両手で
からめとって
大空に羽ばたくことを夢みて

たとえ 太陽の熱で焼けて
まっさかさまに落ちてもよい
空さえ飛べたら
ひたすらに 地球を
我がものにしたい
気持ちだった


22.夕暮れ

夕暮れの公園のかごの中で
一人揺られていた
語りかける その人は
一緒に揺られていた

自分の心を洗いざらいに
打ち明けて その人の
ことばを聞いていた

風の音に
キィーキィーと揺れる
さびしき夕暮れ
思い出を語り
未来を夢み
今を生きる

語り尽きたころ
僕は君の視線を強く感じる

子供たちが駆け寄ってくる
騒ぎながら
さあ 降りるときがきた
僕は公園を去り 坂道を下る

かごに揺られる
子供たちの声に送られて


23.誤算

時の軌道に乗り遅れた少年は
大人になりそこねた
積まれてゆく齢のそばで
ただ虚ろに空を見ている

俺はどうしても乗れなかった
乗る権利は放棄され
少年は取り残された
俺はそれを選んだのだ

されど 少年という名のまま
俺は老いゆき
おちぶれ果て 問うのだ
間違っていたのは
俺だったのか

沈黙の中 人々が行きすぎる
その顔は無表情に疲れている
だけど それを眺める俺の顔に
生気はない こんなに早く
くたばるとは思っちゃいなかった
若さまかせの誤算だった


24.海外線の砂上

何に僕はこんなに疲れているのだろう
三歩歩きゃ 食って寝て
この上ないほど いい身分

僕の上には 空がある
果てしない 空がある

雨が上がって 虹が出る
何千の彩りの 虹が出る

ぬれそぼれて 僕がいる
海岸線の砂上に 僕がいる

地平線は水平線
虹の架け橋
僕は波際を
どこまで駆けられるだろうか

posted by fuhito at 17:03| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩Vol.14



1.瞳に写らない!

目が口ほどにものをいうなら
なぜあなたはわかってくれない

僕が穴のあくほど 君の目を見ても
あなたの瞳に 僕はゆれて 定まらない

この僕の目は偽りなのか ガラス玉か
そうなら うれしいけど

あなたの瞳にあふれた涙が 僕をぬぐいさる
そして あなたは瞳を閉じる

わかっているのです
わかっているのです

これだけはどうしようもない
キューピットの未熟な腕前を呪うだけ


2.お迎え ☆

母が迎えに来
父が迎えに来
友人が迎えに来
恋人が迎えに来
僕は人生を案内された

あれこれ半ば近くにきたのだろうか
なんだか先が見えちまって
僕は座り込んだ

父が去りゆき
母が去りゆき
恋人が去りゆき
友人が去りゆき

僕はようやく 一人になれた
ずいぶんきて 戻りようなく
僕は天を仰いだ

そうだ! 迎えに行こう

太陽はカンカンになり
月はシーンとし
空は青ざめ
星はまばたきし

そうしているうちに
死神が迎えに来た


3.イスとりゲーム ☆

最初 イスをとれなかったから
円の外に出て 見ていなければいけません
そのあとのゲームは 最後まで
自分のいないところでまわっていく
疎外されてゆく仲間が増えていく
他人のなりゆきに目を注ぐだけ

一人落ち 二人落ち
それを喜ぶよ 僕たちは

とられちまったのでも
とれなかったのでもない

とらなかった人間は
いったい その中に最初から
そう生まれついていたのだろうか

イスをそろえるための数として
数えられ しかも 自分のイスは
最初から用意されなかった

座ったものは
一瞬の勝利を味わう間もなく
またそこを追われ まわりだす

音楽が始まり 突然に止む
それに支配されている 人間たち
それを知りつつも 興じることで
人間的に生きる 悲しき性

自分を最後まで 見つけられずに
駆けまわり続ける 勝者たち
最後にイスをとれたとしても
それは自分のものじゃない


4.屋根裏部屋

屋根裏部屋でのまどろみは
からっぽの酒瓶 欠けた茶碗
ホコリをたてて ころげていきます

大きく深呼吸すると 満ち足りた心
どこかでみた 面影をかすめて
どこまでいくんでしょうか

あらら・・・転げているのは
黄色い帽子 バチ
木琴 運動会の赤いタスキ

吹かれちまって 吹かれちまって
空へ上がっていくのは 何でしょうね
太陽がまぶしくなかったんでしょうか

昼寝を抜け出して
駆けまわりたかったんで
雨の日が 嫌で嫌で
びしょぬれになりたかったんで
水溜りでは まぎれもなく
王者だった人です

吹かれちまって 吹かれちまって
空へ上がっていくのは 何でしょうね


5.冬の歴史

薪が燃え尽きてしまうのを 見たくなかった
僕は家を後にした
雪に閉ざされた径を この両足で
切り開いていく

森林を切り倒してきた人間は
愚かにも ガラス張りでコンクリートの
何の役にも立たぬ
ブロック林をつくりあげた

野獣を飼いならせなかった人間は
それを殺し ペットを育てあげた


6.君の名

ああ 祈りにも似て 君の名を
昼夜 幾度となく唱えた 苦しき
月日は去り 願いのごとく
君を忘れられしは 今

人はこれを成長というか
否 平穏なる余生
我が情熱 燃えざる日は疎ましや

かつて君を思うて 明け暮れたもう
あのころの我が情熱を 懐かしく思う
我 今だ 二十歳なり

人生 花開きゆく 若さなり
されど精神 すでに甚だ老い
大切なものを 忘れ去りゆく

早や余生のごとく あの日々を思うだけ
君 もう 我が胸に 帰らずや
我 もう 我が心を 離れずや

いとおしい人 今はその名も呼ばず


7.カナリア

我が内なる 恋というものやらが
貴方に歩みよって
長話をしていたのかと思っていたら
飛んだ思い違い

貴方の外なる恋という魔物が
僕に歩みよって 軽口を叩いていった

僕はあなたの歌を忘れたのでなく
あなたへの言葉の一つが歌だった
歌えないカナリアは死んだ方が幸せだろう
だから 僕は生きているのだ


8.愛の死

一人の女性の中に 生きていた頃
僕は満たされぬ思いで
二人分の荷物をしょっていた
貴方は知らぬ 単なる僕の独りよがり

その僕を支えたのは 報われるという思いでなく
貴方がこの世に生きているという
ただ 偶然の存在への感謝であった

貴方は絶対であった
唯一かけがえのない 存在であった
そして 僕の愛も同様だった

貴方が去ったのは あまりにしぜんだったから
僕は ただ笑っていた
しかし 愛が去った これは許せぬことだった
僕が死んだに等しいのだから


9.コイン

はじけたコインが舞うのを追っていた
貴方の瞳は 僕のこぶしの上にのったか
勝負はつかなかった
コインは床を転がり 視界から消えた

彼女は去っていった
それは理解の終焉

パイプの煙が青白く 貴方のいた空間を埋め
時の向こうに薄れていく
すべてが燃え尽きたが
鼻につく匂いはなかなか消えなかった

それからの僕は彼女の魂を見つめることで
天と地の間にぶら下がっている


10.花

美しく咲いた花は
よそ目にみていればよいのか
摘み取ってしまえばよいのか

飾られた花は 美として 存在する
美を失せるやいなや 枯れ朽ちるけど
ただ 咲いた花も 美として 存在する
遠目にときたま見るだけだから


11.日の出

夜の裾を照れがちに
顔を洗ったばかりの太陽がめくって
今日が始まる


12.女と少女

彼女は女だった
それが誤解の始まり
一見しなやかな身体に
ひきしまった強さがあるのは
少女の誇りだったか
今は知る由もない


13.賭け

ダイヤのセブンの上に
今まで生きてきた年月を賭け
カードを引いた

五十二分の一 何という確率か
一枚! 僕の過去は投げ出された
テーブルの上に 悪魔と天使が
品を定め始めた

素裸の僕は気恥ずかしい思いで
見つめていた 僕の過去

こうなってみりゃ どれもこれも
手放すにあまりにもったいないけど
僕は今日から身軽に生きるのだ

それが望みだったのではないか
僕を今まで縛ってきたものすべてが
もう消えうせる

僕はどうなるのだろう
賭けの成立した時点で 時間はとぎれた
僕はすでに新たなる生を生きている

天使が席を立った
「ろくなものはない」
そりゃそうだ 僕の過去など
腐った悪業だらけ
メッキのはげた くず鉄さ

僕は僕の戻ってきた過去をいとおしんだ
悪魔が言った
「今度は君の未来を賭けないかね」


14.飛べ

なんて美しいんだ 君は
若さにあふれて
花の間を舞っている
青い空を我がもの顔に

羽を休めるでないよ
土のあたたかさに
懐かしみを覚えても
過去に戻るな
飛んでいればいいんだ

高く 高く
雲の合間を 君は飛ぶ
飛ぶために生まれてきたのさ

若さの尽きるまで
羽ばたき続けるのさ
不安と迷いの中
孤独な飛翔をー

羽を休めるでないよ
雨も風も君のために
君に力を与える
日は輝いている
どんなときでも
君が飛んでいるときなら

空は広いさ 君がきわめられぬほど
そんなすばらしくも 大きな世界に
君は遠慮なく 羽ばたけばよい
君が恐れるのは 君の甘えだけ

高く 高く 大きく 大きく
飛べ!舞え!うたえ!


15.遠い日々

僕は歌う 君に語りかける
愛を夢を情熱を

同じ星の下に生まれながら
城の中に閉じこもった姫のように
誰の目も避け 人をも愛さず
思うがままに 生きてきた君に

書きっぱなしの日記帳
開いてみれば 遠い日々が蘇る

あなたがいて 僕がいて
何もなくて すべてがあった
言葉のない詩が 二人の間を奏で
打算のない夢が行き交った
驚くほどの情熱家だった僕

それを受けとるのに あまりに幼かった君
時を待てなかった若さが 二人を隔てた

捨て切れなかった手紙
忘れ切れなかった 君
今は遠い日々

あなたがいなくなって 僕も去り
何でもあるけど すべてはない
もう それほど若くない と思うと
たまらず さびしくなる


16.決意

僕はもはや 悩むまい 逃げまい 振り向くまい
どんなに苦しみを早く乗り越えようと考えたって
何もならないなら一層 その苦しみの中に
どっぷりつかって いつまでも のたれまわってやろう

人生 たかだか数十年 若さを失いたくなければ
苦しみを逃れようとするな
その中にいるかぎり 僕らは確実に伸び
確実に生きているのだから

希望ばかりが高く そこに到達する歩みを忘れるな
星は輝いている それは 自分のためじゃないけど
星の光は何年とかかって我々に届く
星に辿りつけるのは それだけ歩んだ者だけ
でも 誰にでも機会は与えられている
自分で捨てないかぎり

素質とか 才能とか 口にするな
すべては努力が決める
早く咲けばよいというものでない
大きく咲くこと だからこそ 辛抱すること

ならば今日からは 明るく生きよう
何ともないふりをして 苦しみをかみしめ
表情で弁護するな 陰で苦しめ
他人には他人の生き方がある
僕は僕自身が最高と思う生き方をする
それだけだ

今夜はもう休もう 明日のために


17.鬼ごっこ

ただ 林を吹きすさび 風の奏でる音色に
耳を傾け ぽっかり広がった空を見ていよう

君はいつも無表情だけね
冷ややかな美しさが 僕を捉える
愛想よくなんか する必要などない
心のままにすましていればいい
そういう人だ あなたは

あなたを理解するのに 費やした年月が
僕のすべてだった

そして 何もかもわかり始めたとき
そのことが あなたを去らせた
せめてもの慰めは 僕がわからぬうちに
あなたが去ったこと −でも僕は苦しんだ

海岸線をあなたは逃げ 僕は追い駆ける
決して捕えやしない 暗黙の約束
あなたが疲れて休んでいる間も
僕は無駄に走りまわった

そして 僕が疲れ動けなくなると
あなたは近寄ってくるのだった
限りのない 鬼ごっこ


18.不毛

僕らはお互いに知っていた
愛情や情けがどんなに不純であるか
お互いを尊重することは
自分を強くするから 交えた剣が命取り
戦いは人間をつくり 愛を壊した
踏み荒らした 不毛の地で
僕らは花を咲かせようと祈った だけだった


19.唄うたい

すてきな人に出会った ひと目で見抜けなかった
そのやさしさ 僕の罪 誰にだって好みはあるもんだ
それを超えられぬ若さの悲しみ

あなたの優しさ 年月が僕に語りかける
人として生まれてきて 人として生きる
生きることの難しさに 気づいても
人として 生きられぬわけじゃない

愛は一時のすきまもなく ささやき続ける
それしか知らぬ 僕は気づかなかった
悲しくうちしおかれたときに
あたたかく包んでくれる人がいることを

ただ その人がそこにいるだけで
その人が この世に生きているだけで
どれほどの支えになっていただろう
それを気づかせぬほどの大きな存在ー

あなたは今も唱っているのでしょうか
決して大きくはない 自分の世界
それを分かちあって
あなたはますます 大きくなっていく

あなたが語りかけるのは 黙っているとき
あなたが聞いてくれるのは さりげない一言
あなたが冷めているのは 内に秘めたあまりの情熱
あなたが夢みるのは 澄んだ瞳を休めるため
あなたが生きているのは ・・・・・・


20.愚痴

そうですか まだ若いのですか
僕ですか? とっくの昔に死んだはずですよ
二十歳ですよ もう生きすぎましたよ
無邪気な十年のあとに
無意味な十年はいらなかったのです

何もかも 知っちまいましたよ
知は美を壊すのですね
東京の空は晴れていますよ
昔と同じようにね

さよならで日が暮れる
影法師が細い道を歩いて帰る
僕が夢みるのは いつも日の落ちるとき
空が赤く泣きはらしているときー

夢は帰らないのですよ
あの夜空の向こうに 明日はもうないのですよ

悲しさも尽きましたよ
涙なんて甘いものですよ

人間はなぜ疲れるのでしょうね
くだらないことばかり背負いこんで
いっそ くたばっちまえばいいのに
その割には タフなのですから

今はもう さよならを言う人も
いなくなってしまいましたよ
若さなんて 弱いものですね
それだけに支えられてきている
人間ってどうなるんでしょうね

そうですよ まだ若いんですよ 僕は
まだ生きていますよ 二十歳ですよ
もう少し生きますよ
幸せすぎた 二十年の余韻としてでなくー
生きられない人の分だけでも
少しはしっかりとね


21.希望をもって

希望をもって 生きろですって
なんて辛いお言葉 なまじ希望があるからに
陽の陰った日には どうしようもなく暗くなる
それが人生と申される

小さな渦を巻きながら 流れる大河に
人間は なんて滑稽に もがいているのでしょう
当人が真剣であるほどに 辛く苦しいのです

そんな試練が必要だと思ってみても
闇の中の迷い子ー 若さが
失われていく音が 静かに響きゆく

どこへ どこへゆく
我は語りかける 汝はこたえず
汝は知っていよう 我は知らず
誰も知りやしない 我のみが知る

知ってどうなる 知ったら終わりだ
あくなき問いは絶えず
一つの答えも返らず

希望をもって生きるですって
なんておもしろいお言葉


22.君は笑った

君は笑った 君は笑った
僕の涙を 僕の命を
大人になりゆくことは
男と女の運命は 去りゆくことだと

君は笑った 君は笑った
強いて無邪気を装って
笑えない僕の分まで
まだ若いんだ 人生はこれからだと

君は笑った 君は笑った
そうすることだけが 圧迫する
沈黙の 悲しい調べを
わずかでもはねのけられると

君は笑った 君は笑った
無音で空を赤めている
僕のそばで思い直しては
手に力をこめて

君は笑った 君は笑った
こんなこと 私たちには初めてだけど
これからは よくあることなのよと
君の瞳は 潤んでいた


23.春眠

春が来まして
すんでのとこで
貴方を忘れるとこでした

勉強すると眠くなるのはー
人の体がそれに適していないから
眠いときには眠らねばー
されど教師は怒る

僕の責任?
いや 教師の責任
一人のときは
僕の責任?
いや 春風の責任


24.生きる

悲しいとき 夢は去り 心は落ち込む
楽しい夢を追いかけ 気持ちを紛らすことの
できないときは 自らの心を慰めて
何もかも忘れてしまいたい

それもできないときは のどから手をいれ
すっかり縮んだ心を取り出し
きれいに洗ってしまえばよい

悲しいことのあるほどに 心は大きく
人間は深くなる 幸いなるかな
豊かな滋養を受けし人は

悲しいときは やはり悲しいもの
身も心も すっかり灰色にくもり
血も青くなってしまう
そんなときは 安らかなる眠りも
おいしい食卓もおあずけとなる

夢を追う若さだけが 唯一の支え
それがなくなったら 悲しくならないように
生きるしかないのかしら

進んでいるのか 退いているのか
自らの足取りさえも分からず
目的地もうつろとなり
何もかも間違っていたような気がしてくる

それでも 生きていることはわかる
生きていれば 必ずよいこともあろう
生きるしかないのだから
生きるしかない
生きるしか
生きる


25.愛の剣

君を愛す それは神の気まぐれだった
何らかの運命の糸が続いていて 僕らが
この世で出会ったなら その糸を切ったのは誰だ

僕らは情熱の刃石で 愛を研ぎあげた
諸刃の剣 そのつかを二人でしかと握って
僕らの愛を妨げるものは片端から 切り裂いた

今や 僕らは自由だった
見渡す限り 草木一本
僕らの目を奪うものはない
残ったのは 砂漠だった

僕らは互いを見つめあうばかりだった
ただ一つ 邪魔になったのは 諸刃の剣だった
それを捨てる場所はなかった
極限まで磨き上げられたその剣を見るたびに
僕らは不安になった

それを二人で砂に深く突き刺し
その場を離れると剣は わずかの間に
輝きを失い 朽ち果てた

君は一言残して 去っていった
あの剣は 互いの胸を突き放してしまうために
あったのでしょうね


26.スポットライト

僕は太陽に呼びかける 太陽は神の代理
地上をくまなく照らし 普遍の愛を与える
太陽よ 僕にこたえてくれ 僕だけを
わずかでもよい 照らしてくれ

太陽はあまりに偉大だから
ちっぽけな人間たちは 透けて見える
だから 僕は丘に登ろうとした
地上で一番高いところに登ろうとした

必死の努力で 太陽の視線をものにしようと
その温かな愛を一人占めしようとした
多くの冒険者は 徐々に限界を感じ
あるいは考えを変え 脱落していた

僕は太陽の熱が欲しかった
それで焼かれ死す
人間の栄光を手にしたかった
仲間は次々に倒れていくが
僕は頑なに登った

しかし どうしたことだ
太陽は以前にもまして 知らぬ顔をしている
体は冷える一方 登りつめるほどに
呼吸まで困難になっていく

僕はとうとう一人になれた
喜びの中で 太陽の至福を受けようと
雲を抜けた

しかし そこに太陽はなかった
太陽は地平の果てで
街の人々の顔を 赤らかに照らしていた

僕は雪の上に倒れた
誰にもみとられず 冷たく冷え切った
小さな丘の上に


27.罠

悪魔は掘った落とし穴のそばで
ずいぶん長い間 頬づえをついて待っていた
神は その粗雑な罠のそばを
微笑んで 行き来した

いつの間にか そこに道ができた
大半の人間どもは そこを通った
神の好むような人間は 最初からこの道を避けたので
落ちることはなかった

神の意志と悪魔の誘惑に
ふたまたをかけている人間がいた
神は自らの側へと 彼に手をさしのべてはいたので
悪魔は乗り気でなかった

その人間は世界を我がものにしようと
善の意志に加え 人間らしき欲望に純粋だった

悪魔は 神の手にある希望の灯をねつ造し
若者にちらつかせた
若者はその灯に導かれ
その道をたどっていった

神は忠告した それは真の道ではないと
しかし 若者は自己の力を過信していた
必ずや 願望がかなうと

若者はただ その灯だけを頼りに歩いていた
そして 若者が唯一の特権である若さを
手放したときだった
悪魔は灯を消した

導かれるものは 落とし穴へ転落していった


28.うつろい

愛はうつろうもの
広い海ですれ違う 二羽の渡り鳥
君は白鳥 僕はつばめ
嵐の夜 別世界の二人が

神のなすところによって
めぐり会った そこまではよかった

ところが お互いの世界で
それぞれの分というものを
忘れちまったものだから
すべてがおかしくなっちまった

いくら相手を恋しても その人に
なりきろうとすると 自分が壊れるもの
壊れ消えちまったら
どれほどにも 相手を愛せても
愛されるべき 当の自分がいない

僕の魂は いつの間にか
あなたの心に吸いとられ
もくずとなった僕の体は
知らぬ間に 吹き飛ばされていた

あなたの心で燃え尽きた僕は
もう我が身に甘んじようと
あなたに別れを告げた
されど 僕の魂に帰るところはない

体はほろび 悪しきは我身か君か
すべもなく 空は暮れゆく


29.真夏のラブストーリー

今 書き終えた一通の手紙
明日 僕の指に固く結んで
すべてが終わる

あたかも 僕らの愛が始まったときと同じ
頃は七月 真夏の太陽の季節
熱く 浜を蹴って
永遠の海に飛び込んだ

僕らは 沈む太陽を追いかけた
もっと熱く もっと熱く
僕らは燃え続けたかった

君の笑顔は波しぶきにはじけ
その声は 青空の天井に響きわたった
僕らは誓った どこまでも太陽を
追いかけていこうと・・・

無謀なのはわかっていた
永遠と泳ぎ続けられるはずはない
でも僕は 自信があった
君といれば どんなことでもできると信じていた

疲れ果てて 僕らは波の間に漂っていた
太陽は海のかなたに沈んだ
いつ知れず 君の顔も波間に消えた
僕は星まで飛びたかった 君をひっぱって
でも どっぷり浸かっている

海にあまりに暗く 重かった
君と二人 飛び込んだ海
太陽は消え 僕らは飲み込まれた


30.子猫

一人ぼっちで 僕の部屋に
ひょんなことから迷い込んだ
小さな子猫ちゃん

大して邪魔にもならなかったから
軽い気持ちで おいてあげたのが間違いのもと
何を隠そう この子猫ちゃん
大のいたずら好き

僕の部屋は前にも増して めちゃくちゃ
とうとう 耐え切れずに
僕は 旅の支度を整えてやった

何を思ったか 子猫ちゃん
小さな鈴を一つ 僕に残して
意気悠々と旅だった

二、三日は 一息ついたはずの僕の心は
不思議なことに 気が重く 晴れない
ゴロリと寝ころんで 頭に浮かぶは
子猫ちゃん わずかな共同生活
楽しかったことばかり 去りてわかる人の情

うまくいかぬは世の常
手元に残った一つの鈴
後悔先にたたず 部屋のものすべては
いつの間にか 子猫ちゃんのもの

何を見ても 思い浮かぶは 子猫ちゃん
我ながら 呆れて あんな子猫に
時がうつろえばとは 思ってみても あとの祭り


31.心流れて

流れよ 流れよ 僕の心 君への愛
嵐の後 水は尾を引いて流れた
今まで築きあげた 何もかも
一瞬に流れてしまえ 何もかも
残さないように

一つの出会いが 一つの愛が不意に終った
この世に永遠というものはない
信じていた たった一つのものが
音もなく崩れた

心は洗われえぐられた
君はもう 僕の心の一部となっていたから
今は欠けた心で僕は君への思慕を忘れる

とても重い荷物を下ろしたようで
もっとも大切なものをなくしたようで
悲しいほどに笑いがとまらない

人間なんて 愛なんて 人生なんて
何もかも あまりにもろいものだ

信じていた たった一人の人が
音もなく 僕の心から 姿を消した
それは いつのことだったのだろう


32.女神の涙

美しくも気高き女神といっても
悲しいこともあれば 涙することもある
さりとて 女神は強がり
袖で一振り 悲しみを遠く放っちまう

あ〜悲しきは 汝よ 女神
その強さが あなたの悲しみ
空色に砕けた涙は
地上に降り 虹色の花と散る

その香をかぎし 人間どもは
崇高な理想に恋こがれ
身に余る望みを持ち
汝 女神の姿を一目みたいと

さりとて女神は 雲の上
その気配とて 人間の鼻にゃ
かきわけられぬ
人間どもは 土を洗い落とした手で
天へ願う 我らの幸せを

さりとて女神は無力
誇り高い微笑で見つめているだけ
太陽は燦然と輝き 無情の土を乾かすとき
女神の目に涙の星


33.未完の物語

美麗しい女が 手にろうそくをもって
僕の前で 炎をつけるはずだった
それが 僕の体におさまりきれなかった
リンが宙を青白く 燃えてさまよい
通りがかりの女を連れてきた
この女ではない
けれど 僕はその女と暮らした
(未完)


34.この日 このとき

駆け抜けろ 駆け抜けろ
波のはざまを 海に打たれ
風に向かって 砂浜を

太陽が沈むまで
星がきらめくまで
残された時間を延ばしたいなら
手でもぎとっていけ

まだ明日がくるわけあるまい
もう昨日があったとは
過ぎたことは消えたこと
あるのは 今日 この日 このとき

もぎとった時間を投げつけろ
海じゃない 硬い砂にたたきつけろ
更かした分だけ 果汁が飛び散る

それを 噛みしめよ
苦味を かみ殺せ
そして 駆け抜けろ 駆け抜けろ
自らを砕き きしんだ肉から
真っ赤な血をはねあげろ
その血は 砂浜にくっきりと残り
やがて 海をまっかに染めるだろう


35.足

コンパスが長くなった
空間だけでなく
時間までも ひとまたぎ
うれしいような さびしいような


36.さすらい人

あなたの心はどこですか

追っても 追っても 追いつかない
恋に目隠しされた私は
両手を伸ばし
あなたを 追い求めるのです

走っても 走っても 果てのない
心を閉ざした あなたは
やさしさを枯らし
私の思いを 紙吹雪 舞うのです

愛しても 愛しても 報われない
それでも信じて 私は
あなたの心を 思い描き
祈りながら さすらうのです


37.世の中には

世の中には
この世のなかには
ただ いい人になろうと
生きている人がいる

私は そんなにめでたく
生まれていないから
他人(ひと)に安らぎを与えた夜に
一人になってから 目に一杯
涙をあふれさせる

悲しみ 苦しみ 身に余るほど
背負ってしまうときもあるだろう

それでも 自分の心を引き締め
ただ ただ  いい人になろうと
生きている人がいる


38.立つと

街がにじむ

立つと
首うなだれ
肩にぶらさがる手
足はがくがく

胃に唾液おち
涸れたのど
くぼんだ目に
街がにじむ

言葉知らず
大地に立つと
街がにじむ


39.ALARM CLOOK

貴方がぶっきらぼうに
昨夜 頼むものだから
私は一睡もせず
あなたを起こした

それなのに 貴方は起きようともせず
私は困ってしまって
それでも起こし続けたら
貴方はすっかり怒って
私をたたきつけた

私は泣くにも泣けず
じっとしていた
でも 着替え終わった貴方は
やさしく私をいたわってくれた


40.花の伝説

少女は待っていた 窓のカーテンを
ほんの少しあけ 通りを眺めていた

少女は信じていた ただ一人の男が現れるのを
少女の愛はあまりに強かった まだ見ぬ人を
おそらくは出会えた後よりも深く愛した

恋に恋した少女に 一人の男も見えなかった
少女は自分の愛の完璧さをもって男を見ていた

そうして いつの日だったのか 春の花盛り
乙女となりし 少女は 自らの内に燃え上がる
恋の炎の熱さに燃え尽き
花の香となって 野原一面に立ち込めた

生まれて始めての花の香に
天使がささやいた
赤子は信じた その純なる魂に
理想の人の出現を

世を知らずして 恋のとりことなった幼子は
あどけない笑顔で 大人たちを誘惑した
その恐ろしき魔性の魅力に 知らぬうちに
人々の愛は吸い取られてしまうのだった

幼女が始めて覚えたのは愛の言葉であった
美しすぎる その茶目気に
誰かも 幼女の言いなりになった
かまってやっているつもりの人は
魂を抜かれたかのように
理性を失って遠くに逝ってしまった


41.散歩

僕はいたずらに 言葉を放り投げる
何かに当たって 跳ね返ってこないかと
はっきりとした手ごたえを 体いっぱいに
受け止められないかと

春の日のものうさの中に
詩人たちは 散歩する
土手の上 レンゲもナズナも
枯れはてて 青茶色のどぶは滞っている

いったい自分の踏んでいるのが
何なのか 足は宙に浮き
手はぶらさがって 頭が先に 先に
何ものかに追い立てられている

重いまぶたに むずがゆい頬
裏返った目は 光を殺し
焦点などない
正直になったのは諦念のせい

同じように道行く人に あいさつはいらない
地球がまわっている
自分の体で感じられぬ 事実ばかりが
僕をからかう 原始の火の戯れより たちわるく
僕も踊らされている


42.自失

ある日 わずらわしい犬どもから逃れようと
駆けまわっているうちに 落とし穴にはまったら
底がなかった ずっとずっと 落ちていった

そして全く見知らぬ世界に 僕は現れた
今までの世界から 僕は消えた
僕は義理によって 主役のいない
葬式で簡単に書類上で抹消された

僕という人間は消滅した
ハエが一匹 死ぬほどの注意もひかなかった

そして僕は全く新しき人間としてそこに現れた
僕に過去はなく 僕を決定づけるすべては
自分の手に握られていた

しかし 僕は存在しているのに
それを認められなかった
名前も何もかも すべて僕が一人決めた
僕は自分の存在を 訴え続けなければならなかった

顔なじみができ 行き場もできた
そこで僕は わずらわしい犬どもに
いつの間にか 追い越された自分を見た

僕は何一つ 自分で創りだせなかった
そして いつの間にか 自分さえ失ってしまった


43.砂場

いつかしら 僕の心のそばを行き交う
女の子を見つけたのは
そして いつかしら その女の子が
僕の心の中に入ってきたのは

僕の心の中に住みついた女の子
物かげに隠れて こっそりと
こちらを見ていたけれど
僕は少しずつ 自分の心の場所をゆずっていった

僕の場所はせまくなり
その子といる場所が
そして その子だけの場所が広がっていった

いつかしら 僕の場所は全くなくなった
その子に 占領されてしまったのだ
その子は 僕を追い出した
それさえ 僕は気づかなかった

僕はいつも その子といっしょにいる
つもりだったのに

いつかしら そこに誰もいないのに
気づいて 戻ってきたのは
その子は どこにもいなかった
めちゃくちゃにバラけてしまった 僕の心

僕はようやく一人で 整理しはじめた
いつかしら その子が帰ってくることも
あると夢見ながら

僕はいつも その子といっしょにいる
つもりだったのに
posted by fuhito at 17:00| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩Vol.13



1.平和という危機感

平和 それは恐ろしき退廃に向かっていく
すべてを緊張状態の均衡に
ぶらさがっていたときにはまだしも
精神の底からの
緊張のない平和な日々なぞ 続くはずがない
恐ろしい 何かが起こる
このままで済むはずがない

戦争に初めて破壊された国が
東洋の片隅にありました
その国民は 国をそんなにも
荒廃させてしまった
戦争の恐ろしさを痛感し
武器を捨てました

確かに 二度と負けることがないように
武力化し 再び争いに巻き込まれた
歴史上の先輩より はるかに賢明でした

世界の中でわずかに一国
理想を高く掲げた国が生まれたのです
まわりの国々が自らを守ろうと
がんばっているときに
グローバルに視野を広げて
たとえ 押しつけられた理想とはいえ
平和を愛そうとする国が現れたのです

それは不思議なことに
もっとも普遍性に富まぬ国でした
ときおり 極端に傾く危険をもった国でした

なるほど 平和主義はキリストも頭を下げる
理想であるのは 確かです
しかし あらゆる国は歴史から勉強しました
だから もっとも現実的な手段をとったのです
それは 平和は武力で守るしかないということ

その国は真理を悟りました
それはよかったのです

ただし まわりの国は その程度のことを
成し遂げるのに 毎年毎年
汗水たらして努力を続けています

それなのに その国は まるで理想が
現実に実現したように 何もしていないのです
そんなにたやすく うまくいってよいのでしょうか
たぶん昔も その国のような国がいくつかあったのでしょう
そして まもなく すべて滅びていったのでしょう


2.それは平和ボケさ

そんな理想はどこの国でも知っているのです
世界が一体にならなければ それが実現せぬことも
そして 一体化しても
また同じような問題が生じることも

その国の住民は 島国の気質でした
自分の国で理想を現実と成しえたつもりで
この先もよしと思っているのです

力のない国が 最初に武器を捨てた
何もできようがないから 何もしないのでしょうか
猛獣をしつける努力もせず
まっ裸でジャングルのまん中で日光浴している
食べて太って昼寝をして まさに動物なみに生きている

日が傾きはじめれば すぐに夜になる
至極 当然の報いを受けましょう
その際も平然としうるほど 高度な国民なら
それほどすばらしいことはないかもしれません

理想を掲げるかぎり 武器を捨てた以上
その国のすべき努力は 並大抵のものではないはずです

この平和は退廃です
国亡の前兆です
その国民は 現実に妥協しない以上
世界を逆流させるほどの努力をしなければならぬはずです


この国が世界を引っ張る日を待ち望んで
新たな哲学をうちたてよう
すべてが思い過ごしであればよいのだが
私は武器はとらない
だから 努力する

忘れていることがある
何もかも この平和の中で
我々は知らずに甘受しているということ
何が平和を支えてきたかということを


3.ひねもす歩いて

眠れぬ夜が また明けて
重たい頭に 気だるい体
引きずって 僕は歩くのです

フラフラと息苦しく吐き気もするので
今にも気を失ってしまいそうですが
僕は歩くのです

何のために ですか・・わからないのですが
この世に生を受けてしまったので
やっぱり僕は歩くのです

空がどんなに明るくて
街がにぎわっていても
いいものは 僕の心の中に入ってこないので
僕は歩くのです

誰かが声をかけてくれても
信号の目が赤らんでいても
車が止まらなくとも 僕は歩くのです

天気はとてもよいようで どうやらひどい
眠気がやっと僕を救ってくれそうで
これから何だか 公園のベンチです


4.ガラスの壁

いつか誰かに入られたのかしらない
あるいは 自分で入ったのかもしれない

僕らは ガラスのケースの中で
まるで太陽を浴び 大地に足をつけ
自然を呼吸しているかのように
外の景色を眺めていた

自ら ガラスを割らぬ限り
よほどの安全が保証されているから
いつでも 思うところに
いけると思っているだけだったから

ガラスのケースの中にすっぽり
入っていることなど
ちっとも気づかなかった

気づいたときは もう 力も何もない
やはり ガラスなどなかったと思って
開き直るのがよいだろう

自由を 大空に求めずに
手にした小鳥は 飛ぶことを忘れた
自由を 森に歌うこともなく
もはや 小鳥でなくなった

ケースから 落ちこぼれて 太陽にヤケドしたり
海におぼれたりしている 片輪者をみて
僕らは ぎゅうぎゅうのケースに頭をくっつけて笑う
その僕らの頭は ガラスに押し付けられて
さぞや醜く 何とも哀れであろうに


5.業火

一つの愛がありました
それがいとキラやかに結晶して
愛は 閉じ込められてしまいました

それから 十数年たちました
その中に秘められた賜物は
消えてはいませんでした

くすぶり続けていた火は
いつも気まぐれな天使の流れ矢によって
やわらかな体を溶かし 燃え上がらせるのです
炎となって宙に舞い上がるのです

そして 運命のかなたに
手をつないでいる人のもとに馳せゆくのです

その行方を妨げるあらゆるものを
燃やすほど わがままで傲慢な炎が
その人の前にくると おとなしくなって
青く燃えるのです

芯から燃えて 慕いやつれ
それでも けっして
消えたりしないのです
永遠 それとも つかのま
何はともあれ 燃えるのです


6.涙の素

ねえ いたずら天使
このハケとビンをあげるから
街行く人の瞳を
ぬらしてごらん

悲しくなんかならないよ
これは涙なんかじゃないもの
きっと きっと 笑い出すよ
瞳をキラキラ輝かせて

ほら いたずら天使
皆いそがしくて
ちょっと目がくもっているだけさ
生きている人の瞳は
輝いているものだから

ねえ いたずら天使
街行く人の瞳を
ぬらしてごらん

そうしたら そうしたら
君は 恋しい天国を忘れられるよ


7.手紙

私が家から出ないのは
あなたの気まぐれが
配達されるのを待っているの
どうせと思いながらも
やっぱり期待しながら

あなたの手紙を読むとき
低く気持ちを抑えるの
答案を返してもらうときのように
期待しすぎて がっかりしないように

あなたの手紙を読み終えたとき
あなたが これを書くとき
私を思い浮かべてくれたことを
感じるだけで うれしくなるの

いつもながらのさりげなさが
いくぶん小憎いけど
私を有頂天にさせるような文句に
胸を躍らせぬようにするの

あなたの冷たい思いやりを
知っているから


8.悲しみ

悲しみが私をうずまく
すさんだ心を 吹きさらされぬように
コートの襟元をきつくつかんで歩く

悲しみは行き交う
帰り道 人もいないこの街に
誰もが私を見下げた
ふるさとの日のあたたかさを思う

悲しみに雪が降り積もる
悲しみは白く染まりゆく
白い悲しみの中に私がいる
悲しみは過去に染まり
明日を塗りつぶす

悲しみは たえて止むことなく
新たに降り積もる
重い体から肉をそぎ落とし
骨を抜き 天に召される日がくるとも

悲しみは心のたずなを
つかんで離さない
悲しみに 時は過ぎ去り
見送った悲しみに
今日 また 出会う
悲しみの色は
あまりに透き通った白


9.天佑

幼子がどんぐりを集めるように
私は言葉をひろう

幼子はその無垢ゆえに
集めたどんぐりを何に使おうなど
考えてはいまい
ただ どんぐりが落ちているから集める

私もまた 言葉のぎっしりつまった
箱に見向きもせず 木の下を歩き
歩いているうちに 手の中に
しぜんと言葉を入れている

幼子は手に一杯のどんぐりに
喜びを顔色に示す
私は乏しい言葉に表し
切れぬ感情を手にあまし
悲しみを共にす

幼子の手のうちから どうしたはずみが
一個のどんぐりからこぼれる
あわてた幼子は手から
どんぐりをすべてこぼす
そして泣き出す

私のとりあわぬ感情と言葉が
どういったことか
結合する瞬間がくる
そのとき 私は悲しみから
一瞬の安らぎを得る
すべてを持ち この天佑に感謝する


10.ある朝に

あさぼらけ
夜霧が私を目覚めさせた
涙はいつしれずと乾き 朝が来た
空はしだいに明るくなり
やがて あの荘厳なる太陽が上がるであろう

私は野道に倒れている
手のうちには いくらか土が握られている
夢は見なかったのだ
私はここで 一晩泣いていたのだ

体が切り裂けるほどの大声で
それを見かねた夜番の神だろうか
一時の睡魔を疲れに乗じさせた

しかし 忘却させるまで
面倒みはよくなかったらしい
私は悲しみを新たに胸にし
こみ上げるものを抑えている

あなたは白く透き通った天の羽衣をまとい
雲上へ逝き去った
この私をおいて

太陽は昇る そして
いつものように朝が来た
その偉大な日課をたたえつつ
悲しく胸を打たれることは
これもちっぽけな 日常茶飯事なのだ


11.冬

悲しみが舞い散ってしまったあとの枯れ木は
ひょうひょうと北風に身をならしている

恐ろしく純白の新たなる悲しみが降り積もる
なぜか うとまれた 我が身がきしむ冬


12.人生の河

新たに生なる者が浮かび
古き老い人が沈む
我らは流れる
時の間の光の中に

人生という河の
大きさを見極めた者はいず
我らはただ身をまかす
あまりに大きな河の
わずかな 時の間に

河よ 永遠にして不滅の運命に
我らを どこへ導こうとするのか
無数の渓谷から流れ出て
大海へと 向かう河よ

それとも 我らはすでに大いなる海の
流れに翻弄されているのか
天から降りてくる魂と天に昇る魂が
輝いているかの光よ

太陽よ
われらの河に
美しく映えるものよ

夢と希望の中に我らは流れる
何も知らぬまま
ただ河の流れに身をまかせ
我らは流れる


13.君の名

君の名を何度書いたことであろう
それが何にもならぬことを知りすぎていても
それをせずには耐えられなくて
ただ むやみやたらに その名を書いて
破って また書いて見つめて

思い浮かべ
愚かだからこそ
楽しく
惨めだからこそ
切ない
眠りを奪われた
夜の業

君の名を何度叫んだことであろう
その響きがあまりに耳ざわりがよく
その余韻があまりに自然に
わたしの心に欠けがえのないものとなって
ただ 重い胸の底をさらうように
その名を呼び 誰も聞く人もいず
ただ一人 聞いてもらいたい人は
はるかに遠く

夢にうなされては つぶやき
目覚めては まず 口もとに
浮かび上がる さしても
どうしたら よいことやらー


14.夜の番人

背中に夜の重さを一身に負い
つぶされまいと あがいている
眠れるものか この憂愁
つかれちまった この重責
朝がくるのが これほど
遠いものなら いっそ
こなければ よい
そうすれば 僕は安らぐだろう
おだやかな眠りを 取り戻すだろう

空が明るくなり 日が昇るのを確かめ
人々の声が巷に聞こえると
僕はやっと落ち着く
確かに 今日がきたことと
自分が生きていることに ほっとする

安心すると 眠くなるもので
僕は 遠い昔に
見られなくなってしまった夢を
見ようと また むなしく
眠りにつく
陽がおちるまで
人々が家路につくまで


15.花の種

人には笑いと喜びと夢を与えましょう
怒りや悲しみや失望は
このノートの中に閉まっておこう
僕はいつも 笑っていれば よいのです

夢を分け与えること
それは幸せと同じくらい 大切なもので
どんなに 小さくばらまいても
大きな花を咲かせることがあるのです

不幸にして その人の心が肥えてなくとも
何度も何度も いくつもいくつも
巻き続けたら いつか咲くことだって
あるのですから

僕は 自分の心の中でしか
花は咲かせられません
でも その花の種を分け与えることは
できるのです

そして その種が
花を咲かせるかどうかなど
期待しなくてもよいのです

僕にできることは ただ
その種を分け与えること
それが僕の幸せです


16.部屋

私が起きるのは
来やしない あなたの手紙を
ポストに確かめにいくため
青い封筒に丁寧に
書かれた私の名前
いまだかつて 私の名が
これほど有効に
使われたことはなかった

色あせていくのは
あれから一通も加わらぬ
古い封筒の束
それに書かれた私の名前
あなたの中の私
されど 私の中のあなたは
昔と変わらず 私の命
朝を告げるのだ

私が起きているのは
来やしない あなたの電話を
なす術もなく 待っているため
あなたは電話をあまり使わなかったけど
この電話は あなたのために
部屋のいいところにある

この電話の叫び声に
私は期待と不安をかきたてられ
あるときは喜び あるときは悲しんだ
でも あなたの声が伝わってくるという
あたりまえのことに どうしてもっと
感謝できなかったのだろう

今はあなたのナンバーさえ
用を足さなくなって
部屋の飾りものと化してしまったが
ほこりはかかっていない

私が待っているのは
来やしないあなた
玄関の呼び鈴を使わず入ってくる 
私の愛する泥棒
あなたを満足させるものは
あまりに ここには少なすぎた
私の心をもてあそんで
私の心だけ
ここに置き去りにしていった

ぬくもりを恋しがる体は
もはや 死にたえ
あなたを思う心だけが
何倍も強くなって生きつづけている
この世に奇跡の起こりうるかという
はかない望みの中に


17.願い

涙なんか出やしない
いつものことさ
一人の女が足早に
僕の前を通り過ぎていった
幸せをぶらさげて

それだけのことさ
なのに なぜいつも
こんなに悲しい

一人でいるのがつらいからか
二人でいるとわずらわしいのに
この世界は僕には広すぎる
それがわかっていないから
貪欲すぎるのか この僕は

何もかも 自分のものにしなけりゃ
おさまらない
されど人間
愛されるべき女たちよ
君は 自由にならない
僕の花壇を踏み荒らす
陽気な妖精よ
あやしい魅力を封じよ
さもなきゃ 僕は
どうでもよくなってしまう
たった一人の気まぐれのために

早く行け 二度と現れるな
ただ一つ 置いていけ
僕の心を置いていけ!


18.降誕

誰かがどこかを見ていた
流れゆく人生を
遠く離れた虹の上を
天使のような子供たちが
すべっていく

楽しそうに楽しそうに
急ぐのではないよ
神の手で 頂上に下ろされた
みどりごよ

しっかりした足を得ても
そこまで また上るのは
不可能なのだ

虹が七色に輝き
その子らの紅潮した
微笑みに青い瞳がつぶやく
速い そして 早いー

加速された時の流れを
楽しむ無垢なるものよ
ささやくのは 春風だけ
地上の声など 聞こえなくてもよい

笑えよ 笑え
天を揺るがすほどの声も
太陽より 明るい笑顔も
たった一度の降誕に
すべっていけ

楽しそうに楽しそうに
全速力で!


19.火

(白いページが耐えられなくて 僕は書く)

からっぽの心が寒すぎて
何やら 火を入れようとした
気をつけねばなりません
舌をこがしたり
のどを焼いたりせぬように
一息にすっと飲み込むのです

あれ ま
何やら 口中に戻ってきたよなと
見る間に
鼻の穴から白い煙が ポカポカと
消えちまったんだね
何も燃えるものがないんだもの
仕方ないよ

気のせいか
少し温まったのに
火が消えると
また寒くなってきたよ
誰か 火をくださいませんか
太陽のような 不滅の火を


20.夜のひととき

(夜中に目が覚めちまった)

地球を半分まわして
太陽にたばこをチョイっとつけ
一服して 月に輪をかける
雲を顔にぬり 雷でひげをそって
海をかきまわして
顔をぬぐった
タオルを山にかけておく
氷山を浮かべたジュースで乾杯
偉大にして卑屈なる人間のために!


21.すべては君

君のさみしさに僕のさみしさを加えたら
きっと うれしいことが起こるよ
君の冷たい手に僕の冷たい手を添えたら
どちらも あたたかくなるんだよ

一匹狼のかっこよさに あこがれて
ただ ひたすら 自由に生きたいと
白い風を追っていったけど
それが なんだったというのだ

ふりかえったところに
君がいなくては
ふりかえったところに
君がいるかが すべて
すべて すべて 君しだい


22.遠い悲しみ

遠い悲しみを僕は歩く
白く乾ききった道は天の河か
雄大にして崇高なる混沌よ

地上が回転する その摩擦で
僕は焼きつきそうだ
青い海も太陽が血で染めた

望郷の見晴らし台は崩れて
真っ逆さま 僕は蟻地獄
もがくほどに 砂にのみこまれる

悲しみは 夜露の冷たき地に
映えて 星のきらめき
浅はかな 夢をあざわらう

遠い悲しみを僕はあるく
ただに歩く
僕は歩く


23.オレンジ

酔っぱらったあとには
オレンジがいいのです

酔うほどに悲しくなる
人間の性に 頭が鳴るのです

昨日までの威厳も権威も
酔っちまえば裏返し
うつろな目には とても
物が見えるのです

酔っぱらったあとには
オレンジがいいのです

もぎたての甘い香りが
人間に生まれた このひとときを
慰めてくれるでせう


24.白い少女

白い少女が走りぬけました
僕の脳裏を
誰かしら
人の眠りを妨げるのは

白い少女が立ち止まりました
僕のひからびた心に
いつかしら
そんなことがあったよな

白い少女が振りむきました
僕の弾力 失せた胸に
どこかしら
その子が ひきずる風景は

白い少女が笑っていました
僕の埋もれた愛を
なぜかしら
今になって あなたが揺れているのは


25.埃

埃を吸わずに生きていくには
埃を吸わずに生きていくには
疲れた都会に寄生して
白い幽霊と手をつないで
腹の黒さをひた隠して

ああ やだ やだ

流れ星が すっと横ぎった
あたら都会の空の希望
むなしく
闇は 暗さを誇張した

屋根からポッと雨だれが
安まらぬ心に 追い打ちをかけ
闇は静けさを誇張した


26.あなたの微笑

貴方は笑った
貴方は笑った
にこやかに ほほえんだ

たかがそれだけのこと
たいしたこともないと
人は言うかもしれない

でも
貴方が笑った
貴方が微笑んだ

私の心は満たされた
これでよい
これでよい
思い残すことは何もない

私は ようやく
ほころびた心をおさえて
貴方のもとを立ち去った


27.落葉

言の葉が去りゆく
我が身は突風に舞い
あなたは落葉の行方をみる みる
それも 舞いおえた
落葉だけ
舞い落ちる 落葉


28.時

時よ それほどの力を持つおまえが
なぜ これほど 静かに流れていくのか

一艘の小舟に 一人揺られて
ぼんやりと 目をつぶっているうちに
太陽はまぶしさを失い
鳥は森に帰り 闇のベール冷ややかに
いつ知れず 月は微笑んでいた

海は はるかに遠く僕を待つ
否応なしに 夢を託した
頼りない小舟は
再び あなたのもとに帰ることはない

月よ いつまでも 微笑んでいておくれ
何もかも失った 私を
導いておくれ

時よ こうなったからには
一気に 押し流しておくれ
かの女(ひと)への思いで
この小舟は沈んじまいそうだから


29.中途半端

甘ったるい感傷をこね回して
何だというのです
それで明日が来るのですか
いえ それでも明日がくるのです

けだるい憂うつをかき回して
何だというのです
それで昨日が去るのですか
いえ それでも昨日は去るのです

若さだけを杖にして
やっぱり僕は生きているのです
ゆりかごに 戻れなければ
墓もない

中途半端な人間ばかりが
宙ぶらりんの世の中で
生きているのです
その中の一人なのです

僕はこの杖を失ったあと
支えてくれる人がいるかしら
支えてくれるものがあるかしら
僕に勇気があれば この杖で
胸を突いていたでしょうか


30.自由の糸

雲の上で神の弟子が操っていたのは
愚かで素行の悪い人間たち
長い長い糸を何本もたらし
人間の身を守っていた

ところがある日 愚かさの甚だしきこと
糸の余りに気づいちまった人間が一人
枕の中から ハサミをとりだして
一本残さずぶつぶつ切っちまった

最後の一本が切れたとき
それを引っ張っていたのは
なんと神様 ご自身だったもので
ドテンと尻もちをついて しまわれた

さて この男 自由になったのは気分
爽快だが それとて 何ら変わりやしない
神様を怒らせただけの損

それでも神様は対面をはばかって
やさしい微笑みで その男の手足に再び
糸をかけようと 先を輪にして竿につけて
たらして ねらっていた

そこに現れたるが 仕事の暇な
すこぶる 不景気な 死神のおっさん
糸切る手間がいらんからと
さっそく その男に 目をつけた

当の本人 何やら まつわりつくものを
切り取ったのは よかったが
さりとて 何かを新たにするわけでもない
結局 糸がついてもついてなくても
何ら変わりはない

神様は 釣りをやめるわけにいかず
死神も 連れていく機をうかがって
ともに その男にかかりきりになっていたが
そのうち どちらも嫌になってやめてしまったとさ


31.母なる海

浜辺に寝ころんで
海のつぶやきを聞いていた
そのうち涙が 頬をつたったので
手の甲にこぼれる砂に舌をつけた

ざらついた味は
青くよどんだ海にそそいだ
はるか上流の岩塩か
それとも 僕の身のさびか

海は大きく空は広く
浜辺の砂は無数にきらめく
夜空の星も降る

僕はこんなにも小さく
ただ一人 何を呼ぶ
母なる海には もはや戻れぬ悲しみに


32.蝶を追う

蝶を追いかけて つまづいて
転んでみたら 血が出てた
草の汁に泥ついて
たんぺでこすったら 涙とまってた

起き上がって 追いかけて
走り出したら 痛み消えていた

何を追いかけていたのか
あのときの僕はまだ知らなかったし
今の僕はもう忘れてしまった
ただ 何やら 走らなければならなかった

追いかけていたのか
追いかけられていたのか
肝心の蝶は とうの昔に死にたえた


33.哀しき世界の王

僕の目には これほど
美しいものとみえる この世界は
その隅々まで歌われるのに 耐えるほどの
配慮を怠らなかった 偉大なる天の主の創造物

だから 僕の歌うものは ありすぎる
目に映るもの 耳に聞こえるもの
鼻に舌にほおに感じるもの
そして 幾多の乙女子よ
僕は 歌をもって この世界の王となる
あらゆるものが この身にかしずくだろう

されど 聞け
この王の悲哀を
誰が王をたたえよう
誰が幸せにほころんだ口元に
その名を 浮かべよう

歌われるものが 美しいだけ
歌う者は哀しいのだ
この世があまりに美しすぎて
歌い表わせないのだから


34.明日に生きてきたけど

目の前が闇だと思っては
何度 その向こうに世が明けただろう

熱く灼けた陽の光の中で
海の底にはいつくばっていた自分が
雲に飛び乗ろうとする

ふんわり 浮いている白い雲
すねたときには涙雨
かもめ飛びます 海の上
明日はどこ知れぬ身となれど
浮かぶ雲を止めることはできません

こぼれる雨を拾い集めることも
かもめの行き先を知ることもできずに
僕は 明日も生きているでしょう

ずいぶんと賢くなったせいで
まっ暗やみは消えました
けれど 明るくすぎる日の光も消えたのです

幸いなるかな 中庸に
平凡におだやかに 僕は生きるのです
何かしら もの足りないままに
明日のない日がいつ知れずと
近づいていることだけは 確かです


35.あこがれキャッチ

遠いあこがれだった
幼い僕は走りつづけた
果てもしない砂漠

何度も足をとられそうになった
何度も転び、そのつど、立ち上がり
そして 手を前にのばし
全力で追いかけた

貴方は僕の前を走っていた
遠い遠いところへ行こうとしていた
僕がどんなに叫んでも聞こえなかった
貴方が消えるのが恐ろしくて
いつもいつも僕は貴方を追っていた

貴方はときどき からかうような
微笑を浮かべて 僕を振り向いた
僕はそれに励まされたように

力を振りしぼって 止まらない
貴方を追いかけた

僕は少しずつ 少しずつ 貴方に近づいた
僕が早くなったのか 貴方が遅くなったのか
貴方は楽しそうだった
僕はそれにも増して楽しかった

貴方のほおが赤く染まった
僕らの影は 夕陽に長びき
僕は貴方の影に追いついた

もう幼くはないと気づいたとき
貴方は消えてしまった


36.抵抗

あれは精一杯の抵抗だったのです
僕の心が 貴方から離れていく
永遠の愛を誓い信じた僕の
最後のあがきだったのです

貴方は一度も振り向いてくれなかった
この愛の重みは全て
僕の両手にかかっていました
それを天に持ち上げるほどに
僕の情熱は強かったのです
かつては それほどに

貴方をつれなく思い 恨んで離れようと
すれば するほど かえって僕は
貴方の存在を大きくしていったのです
一生貴方から逃れられぬのを 悟った僕は
(あのころは、僕の全生活になっていました)
貴方と心中する決心をとうにつけていたのです

貴方を傷つけず 僕が生きるために

それが 醒めちまったら 夢のよう
空虚な心のどこに 貴方はもぐりこんだのか
耐え切れぬ この悲しみに
僕は歌を捧げます

今ごろ 貴方は相変わらず
僕の健闘を 茶目っ気たっぷりの微笑浮かべ
あきれてみているのでしょう

でも 違うのです 真実は 真実は

あれは精一杯の抵抗だったのです


37.双飛

か弱き白き裸手を力の限り
抱きしめてみん
そは 我が離れ身なれば

何を思いたまふ
何を見つめたまふ
その瞳に我はゆらめけど

汝か弱き者に一つの魂
寂しき世を共に生き耐えと
年月が 与われた

安らぐがよい 我が胸で
我もまた 汝のものなれば
何もかも忘れて

そうして 羽を伸ばし飛ぼうとも
広すぎる この空は


38.別離

僕らは走りつづけた
星にせかされた
夜空が恐ろしかった
音だけが 聞こえていた

貴方の笑い声も いつの間にか
消えていた それでも 僕は走りつづけた
それが 生の証であるかのように
空がぼんやり明るんできた
疲れきった重いまぶたを 開けてみた

僕の前に貴方はいなかった
僕の横にもいなかった
恐る 恐る 振り向いた
僕の後ろに はるか後ろに
一人の女が 倒れていた

あなたと確かめるのが 恐ろしくて
振り向かず 僕は精魂尽きるほど
思い切って走りつづけた

陽は 僕の前をのぼっていく
昨日は後ろに取り残され 今日が始まる
僕はわけもなく こぼれる涙を
風に切って 走りつづけた
今度は太陽に向かって


39.スワンソング

青虫がサナギが蝶になれず
死んでしまった
それは悲しいことなのでしょうか
美しい蝶が蜘蛛の巣で もがき 力果てる
それは 美しいことなのでしょうか

人間はどうやら アヒルの子のようです
失っていくものばかりが多くて
よいものは よさそうなものに
置き換わっていく
歳 経るごとに
成長するとともに そうなる

でも 純粋な魂が 汚されましょうか
やわらかい光に 輝くダイヤモンドは
強いから 美しいのです

白鳥となりて 飛ぶには
白鳥となりて 飛ぶには
人間は まだまだ 賢すぎます


40.あこがれ

―海にあこがれていたー
森の大木からこぼれた葉 一枚が
急流にもまれて 下っていきます
ーちょっと気をゆるしたときの
風の吹きまわし

どこかに落ち着きたくとも
流れに任せるしかないときもあります

枝を離れたことは 果たして自由だったのか
日の光をまぶしいと思ったときには
流れはゆるやかになりました
両岸は段々離れていきました

木の葉は予感しました
冒険の成功を 海の香りを嗅げるんだ

ところが 中州に打ち上げられた 木の葉は
まもなく生気を失して乾燥し
風にもまれ ちりぢりと
散っていきました

たどり着けなかった海まで


41.死の権利

死んじまった貝は 焼いて食えません
ただ 土に戻るよう 埋めるだけ

生きている限り 死ぬことはできるのです
死がくるより早く 死に向かいさえすれば
逃げようとしても 死神はホウキより早いのです

生気を胸に十字架で架け
死神から奪うのです
ー死する権利を


42.何もないからひびく

君は悲しい顔をしていた
何がつらいのー?
「何でもないんです ただ」
 ただー?
「わからないんです」
 何がー?
「何もかもです」
 何もかもー?

物事には わけがあるものとは限りません
何もない 心がポカリと
抜けてしまったとき
そこを気まぐれな風が
心の鈴の音をかき鳴らすこともあるのです

チリーン リーン リーンと
大きな物音よりも かすかに震える
微弱な鈴の音の方が
心にいたく ひびくものです


43.うさぎの死

池の真ん中に月が揺らいでいます
右手で振り上げた石を
投げつけるのを やめました
池よ 月はお前の中にいるのでない

一人 月を見ていた夜がありました
月は 僕だけを見つめてくれ
すべての情を 僕に注いでくれるように
思われました

僕は何度も勇気づけられ
感謝しました

しかし 月よ
お前は誰も見てやしない
太陽に照らされているだけなのだ
うさぎを殺しちまった
人類のゆがんだ大いなる成長が
今また 僕の心を むしばんだ


44.声と歌

声が出ないのは 声が出ないのは
つらいものです
心の中に溜まった うっぷんを
やたら 文字になおすのは
なおさら 気が重くなりますもんで

田舎へいきましょう 人気のない
荒れた野の 大空の
限りなく広がっているところに
そうしたら
声も出るでしょう 声も出るでしょう

もしかしたら その声は
歌になっているかもしれません


45.転身

もう二度と人を愛することは できぬだろう
誰かにやわらかな恋心を
ズタズタにされたぐらいなら
時と 出会いとの中に
癒されることも あっただろうが

貴方は悲しいほどに 何もしなかった
ただ 僕の横を通り過ぎていった

恋と気づくには遅すぎ
振り向いたら 貴方は消えていた

どこにも 怒りをぶつけられなかった
僕は 貴方の通り過ぎた
電柱の一本一本に
頭をぶっつけていった

フラフラに血を流した
僕の前に 現れたのは
貴方よりずっと やさしい人だった
けれど 貴方では なかった


46.報いのチケット

罪の報いはずいぶんと待ちくたびれさせた上で
じわじわと 僕を追い込むつもりなのですね
それまでに 僕はまだまだ罪を重ねるでしょう
やがて老いに 力も衰え 身にこたえるでしょう
幸福だったのは 将来の不安を
一層呼び込むためですね

その証拠に最高の幸福とやらは
いつまでたっても遠のくばっかりです

改心するごとに新たに裏切りを重ねる
僕は 祈りをも忘れ 神をも踏んづけました
罪の意識も そのうち消えちまうかもしれません
人間でなくなる前に
地獄への定期券を受け取ってしまった者には
それさえもったいないほどです


47.バベルの塔

太陽に向かって
石の塔を組み立てていった
愚かな人々と
笑う我らは
その手を汚そうとしない
ことばはバラバラでいい
一つになったら
また組み立てていくだろうから


48.眠るのに

夢見るのは幼子か
夢と知らずに安らかに
と思うや否や 急に泣き出す
うらやましくもあり
おかしくもある
おかしくも おかしくも
いつかしら そんな年になったのか

眠るのに 何の苦労もいらなかったころ
起きていたくて仕方なかったころ
何それの夢を見たいと願って眠ったころ

みんな みんな よかった ZZZ・・・

今は くたくたに体を酷使し
頭をねじりまわして
気絶するようにしか
眠ることはできなくなった

それを避けるため
またまた悪酔いの夜更けに ZZZ・・・


49.涙腺美

少女はうつむいていた
何かを思いつめたまま
まばたき一つしない瞳から
涙が頬をつたった

少女の手は白いハンカチを
とろうとしなかった
わけもなく 思いつめることが
ひたすら 純粋すぎる少女の涙腺を
開いたのだ

自らのことに 自ら感銘できる
あまりにも傷つきやすい乙女の心は
少女を一瞬 きれいにみせた
美しくさえあった


50.去無来

私の心はもう帰らないのです
あなたのもとには ちょうど
あの日々が戻らないのと同じ

煮えたった 思いも
氷の世界では 冷めます
さもなければ
すっかり蒸発してしまうでしょう

たがいにみつめ 抱き合わず
そうした目で すれ違った
そんなもの だったのです

今となれば わかります
悲しいほどに わかります
あなたの心も わかります
だから もう
どうにも ならないのです


51.シャボン

あるいは また 情熱に
疲れちまったのかもしれません

同じところをくるくる回って
何かしら変わったことが起こるのを
いろいろと いらいらと
待っていたって どうにもなりません
どうにもならないのです

天空に描いた夢は 舞っていきます。
どこしれず 追いかけども 追いつけぬ
見失っては
また シャボンに希望をふかします


52.気分

雨の音が胃を癒してくれます
夜なのに 明すぎるこの部屋に
僕は疲れちまったのです

何ゆえ 目をふさぎ
何ゆえ 眠ろうとするのか
明日が快適なものになるには
僕はずいぶん眠らなけりゃ なりません

けど 今から寝たら もう
明日が過ぎてしまいます
また こんな夜がくるのです

あは まぎれようもない気分は
重く軽く この体をもて遊んでいるのです


53.崖落ち

高い高い崖から
海へまっ逆さまに落ちたら
さぞかし気持ちがよいものだろう
青い空に 逆さに映える

太陽が大きくなったり 小さくなったり
働く人々は 絶えまず働き
馬車は野道を行く
馬は働く 幸せな奴
居心地の悪く狭いところに
閉じ込められ 揺れているのは僕


遠く望郷の街は後ろに流れ
何もない荒野が続く
すべてを捨てて 自分だけを持って
きた− その自分とは
馬車の中で眠たそうに
揺られているのは

それがうらやむべきことだからで
ないのです
他にすることもなけりゃ
できることも ないのです
高い高い崖から 海へまっ逆さまに
落ちたら・・・


54.黄金のリンゴ

そのリンゴが輝いているのは
そのリンゴが輝いているのは

無数に地におちた小さな種
雨に流され 日に枯れ
夢想のうちに 幾多の生は絶たれた

そのリンゴが輝いているのは
そのリンゴが輝いているのは

ささやかな春日を 精一杯汲み取って
芽を出した幸せ つかのまに
鳥につぐまれ 虫にくわれ
夢想のうちに 幾多の生は絶たれた

そのリンゴが輝いているのは
そのリンゴが輝いているのは

暑き夏の光線に たたきつける
雷雨に耐え 育ったのはいかほどか
幾霜巡りてか 花を
日の目に見 その中に
見事なる 実を結んだのは

そのリンゴが 黄金に輝いているのは
あまりに気高い誇りゆえ
選ばれ残ったものとして尊厳ゆえ


55.点火、そして、爆発

焼けちまった 灰になっちまった
手の平からこぼれる白い灰

時が止まった
涙がこぼれた
すべてが黒く染まった

焼けちまった こっぱみじんに
蝶のように 逃げ回っていた君が

わかっていた
こうなることは 最初に
僕の目に君が点火したときから

焼けちまった 黒いしみを残して
君は吹き飛んだ

かぼそすぎた
美しい女(ひと)は
きつすぎた 細い身には

焼けちまった
僕の情熱に
真っ黒こげに・・・


56.情熱くん

若かったよ あの頃は
一目見るなり 僕は花束片手に求愛した
それが恋かどうか 確かめる暇もなく
答えの出た頃には とっくに出会いの幻覚が
終わっていた

おまえは やたら
いろんなものを引きずりまわす
僕が望もうと望むまいと
しかし 僕のよっぽど好きな奴だったから
僕が責任を負わねばならない

後先のことなど一顧もしない
放蕩野郎ー

こんな奴に 心臓を預けている日にゃ
生きた心地もしまい
それでも 今日まで生きてきたのは
切っても切れぬ仲なのは
愚息ほどかわいいってものか

耐え切れず 追い出しちまえば
心の中がからっぽで
生木がさかれたようになっちまう

そうさ 引きずられ
必死に生きてこれたのは
おまえのおかげさ

ああ 遠慮などすることないよ
何だか年をとるにつれ
おまえは 出不精になったね

若かった あの頃のように
とことん 僕を困らせておくれ


57.吹けよ、トランペット

吹けよ トランペット
頑固な防壁を打ち破れ
そして 焼けた夏を連れてこい
大地を割り 天空を切りさけ

吹けよ トランペット
体一杯に怨念こめた力で
愛の憤りを神の前に直訴せよ
天地を分かつヴェールをはがせ

吹けよ トランペット
心のままに
潮に身を投じた愛する人を
深いところに眠らせるために
その愛は海を赤く染めた
太陽のくれゆく かもめのいない空に

吹き続けよ トランペット
心をこめて
細かな砂のこぼれ落ちるように
僕の心に静かに積もっていけ
あなたの面影を生前のままに心に保て

吹き続けて トランペット
心安らかに
曇る地上に小さき男の幸福を祈って
帰らぬ世界に返らぬ人
海はなんてやさしいの
悲しき調べのトランペット


58.大失恋

どこを飛んでいるのか
僕の心は
疲れ果てたこの体をおいて
戻ってこいと
僕は呼びかけはしまい

一度は女(ひと)に預けた心だ
その女がいなくなった
今さら戻ってこいとは
いいやしない

何もかもなくしちまった
固まった重い頭と
棒になってしまった用なしの足と
その間の腐ったはらわた

つぶれた目は 光を忘れ
涸れたのどは 存在を訴えず
風は勝手に肺を出入りするだけ

わずかに 心臓を動かし
死骸という名を 逃れるのが
精一杯の今

それでも生きている
ひたと雨だれが
折れた歯にしみた
僕の心の神経
何の気まぐれか
今さら戻ってきたのか


59.出発の時

お嬢さま 何をそんなものうい顔で
頬づえをついているのですか
城外に出たい出たいと思って
重い焦がれるだけじゃ 
何ともならなかったじゃ ありませんか

お嬢さま その想いは
はるかに大きく空に広がり
理想の世界に貴方さまを
誘い込んだのでは ありませんかね

あの雲の下には
この場内に一度でも入りたいと思っている
子供たちが無数にいるのですよ
未知なるゆえの好奇心は同じです

お嬢さま 自分の足で半日も歩いたことのない
貴方さまがどうして 街に出られましょう
お嬢さま 貴方さまが
それなりの心構えをしないうちは
何も出来やしないのですよ
遠くから見ると 何もかも美しいもの

お嬢さま 貴方はいつも空を見つめていなさる
昨日の雲はもう そこにはないのですよ
いつかはいつかはと思っている間に
取り返しがつかなくなる 時の恐ろしさを
いつでも 悲しそうに思っている間にも
雲はずっと遠くに行ってしまうのですよ

お嬢さま 勇気を出しなさい
そうして 自分を見つめなさい
血の気が その美しい顔を輝かせたら
そのときですよ お嬢さま


60.恋人たち

私は愛を讃えないのです
古来 言葉の魔術師たちが
その思いにせかされ
少しでも心を楽にしようと
愛をことばにしたためた

恋人がその女の
瞳の中に自分を見つけるとき
最高の美の感動のことば
それはことばがことばを裏切る瞬間
沈黙が訪れるのです

息をとめ 時をとめ
緊迫に動きをとめ
見つめあうのです

そうして あまりの重圧感に
歓喜が耐え切れなくなったとき
ため息がこぼれます
すると恋人たちの
目は笑い出すのです
互いの名を呼ぶ前に


61.海辺の思い出 1

あんなにまぶしかったのは
窓から入ってきた日差しが
ゆりかごを揺らしたから

あの頃 僕にはこの部屋が広かったし
窓の外は一面 太陽だった

あんなに青かったのは 窓の向こうに
白い雲がゆったりと 寝そべっていたから

あの頃 僕は部屋から出たかったけど
窓の外は何だかとても恐かった

あんなに赤かったのは海の向こうに
太陽が隠れるとき

僕の背丈が窓を越し
僕の部屋の中まで
海から浜辺を駆け抜ける
炎に僕の頬は赤らんだ

あんなに遠かったのは
こっそり窓から 飛び出ては
おぼつかぬ足で転び
そのつど捕まえられた僕の冒険

波音も潮の香も僕を呼び続け
太陽は変わらず輝いていたのに
浜は広く 海はずいぶん 遠かった


62.海辺の思い出 2

あんなに悲しかったのは
海をはじめて知った日

やっと浜辺にたどりついた僕は 知った
青すぎる空も あくまで白い雲も
そして 白い白い太陽も
この海がある限り たどりつけない
妙に 冷たく からかった水

あんなに黒かったのは
太陽の消えた日

空に点灯した星の明かりを
たよりに歩いたけど
波はいつもより高かったし
潮のにおいも鼻についた

波間に浮いた僕に
やせ細った月が揺らめいていた
遠く小さく揺らめいていた

「地平線まで」「地平線まで」と
手を伸ばしながら
叫びつづけた
僕の前には水平線が
完全なる絶望を 明示した


63.森へ

縁側で日なたぼっこしていた
僕の耳元に 何やら聞こえる

軒下に蟻はまだしも働いている
蜘蛛はどうやら半分 巣を張り終えた

森へ行きませうー
倦怠のだるき体は
共鳴するには鈍すぎる
森は 涼しいでせうー

転がった首の矢に
美しい妖精が 冷たい息を吹きかける
起き上がった僕は
魔力にかかったのか
連れ去られたのか

いつの日か 僕は
縁側で日なたぼっこをしている
男の耳元に 何やら囁いていた

軒下の蟻は どこかに連れ去られた
蜘蛛は去り 破られた巣があった

森へ行きませうー
起き上がった男は
魔力にかかったのか
僕についてくるのだった

ああ 美しすぎる自然よ
邪悪なる人間よ
私はなぜ 満足できぬのだろうか?


64.海の浅いところを砂の堤防で封じようと海へ行った日のこと

沖を見ている人がいた
僕らは浜辺をけちらすと 冷たい
サファイヤに体を浸し
しぶきをあげて騒いだ

影が凝縮されたころ
黒い肌に つやをそえ
紫色の唇をぬぐって
僕らは 塩っぽい おにぎりを食べた

その人は沖を見ていた

僕らは砂で夢をかなえはじめた
深い穴からいつも 湧き出た水に
くずれ 高い山は波にのまれた

ささやかなる 僕らの遊びまで
許さず 完璧に封じるほどに
海は偉大だった

太陽がジューと熱い音をたて
海にのまれてしまってから
僕らは見た いや 見なかった

僕らの足跡さえも消えていた
僕らに残されたものは 疲れだけだった
沖を見ている人は もういなかった


65.祈り

私の涙が 白い丹前に
うす紅色(くれない)に 染まりました
レモンの香りが 天に昇って
小さな星粒に なりました

紙のなめらかさが つとおいた
私の薬指を切りました
ポツリとこぼれた鮮血は
あなたにはじかれました

美しいもの 冷たいもの 幼いものに
罪はないのです
温情です
人の純潔を汚すのは

あなたは北風の声
空の高いところを
わずかにかすらせます
私は積雪に目隠しされた大地
余韻のない 鐘の響きが
たまらないのです

陽は はるかに遠いところにいるのです
いるのです いるのです いるのです
なればこそ 私は祈るのです
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詩Vol.12

1.あなたの色

僕の心臓に筆をつけ
カラフルな彩色で 美しい絵を書こう
晴れた日の透みきった色で
大きな空を
広い海を
にぎわいだ街を
活気にみちた人々を

だけど いつも不用意にでてくる
あの色 どす暗く
不明瞭でつかみようもないまま
ぼんわりと広がり
絵を損ねる

心をこめた 彩色が憂いに沈む
僕ではない あの色のために
永遠にぬぐいされぬ一滴

たぶん あの女だろう
不用意におとしていったのは

あなたの心に入って描いた絵は
美しかった あなた一色で
花園の女神が笑っていた

だけど もうよい
僕はへたでよい
自分の色で描きたい

あなたが去って
憂いだけが残った
わずかに一滴
なのに まだ
深く染みこんでいる
あの色に


2.祈り(Mに捧げる)

私の涙が白い丹前に
うす紅色に染まりました
レモンの香ほりが天に昇って
小さな星粒になりました

絹のなめらかさがそっとおいた
私の薬指を切りました
ポツリとこぼれた鮮血は
あなたにはじかれました

美しいもの
冷たいもの
幼いものに
罪はないのです
温情です
人の純潔を汚すのは

あなたは北風の声
空の高いところをわずかに かき乱します
私は積雪に隠された大地
余韻のない鐘の響きが
たまらないのです

陽は はるかに遠いところにいるのです
いるのです いるのです いるのです
なればこそ 私は祈るのです!


3.凍心

あなたは何を考えている
白く閉ざされた 北の国で
雪の精も凍えるほどに

なぜ それほど無情でありえるの
あなたは 眼をあけている
でも 僕はいない

僕にはもう わかりすぎている
沈黙は意志表示でも 否定でもない
僕はいない

あなたは答えるだろう
――別に

いつもこうだ またしてもこうだ
けっきょく 僕ばかりだ
悩んで悩んで のたうちまわるのは

お人よしさ
僕を見えぬ人の将来の身上をまで
気づかっている この僕は

僕は 怒りも忘れた
嘆くのも無駄と知った

あなたのつれなさは
あなたにしぜんなものだから

時代よ 穏やかであれ
あわてて流してしまった
花びらの 美しさを迫わないように!
花にはどうでもよいことなのだから


4.根

どうしてこんなに
人が歓迎しない感情ばかりが
僕に根づいているのだろう
僕が呼びやったのだろうか

落ち込む僕を救うはずの君は
何よりも強く 僕の足をひっぱっている
時が足踏みして いじわるをする

朝は けじめ正しく 来る
人も自然に合わせている
ところが悲しくも
それに反することしかできぬ
不器用な人間が ここにいる
人一倍の不幸がかぶさってくる

それに参って染まってしまうなら
平凡であることは のんきな分だけ
幸せなことかもしれない


5.恋心の親心

何もかも 一人前になったのに
ひたすら無邪気で わがままなだだっ子
私の恋心よ おまえはどうして
そんなにいつも駆けまわるのだ
動かずにいられないのだ
そして 私を苦しめるのか

私のいとしい子よ
おまえの育ちがよすぎるため
私の栄養はすべて おまえに吸いとられる
静まってほしいと願うだけ 無駄
世話を焼かせてくれる そんな今が
一番幸せかもしれないもの


6.火矢

天使よ 失礼じゃないか
不用意な僕のこの心に
いきなり油をそそぎ
火矢をうちこむなんて――

いやはや 油はあったのです
熱もあがっていたのです
私は 矢を放つだけです
「それも流れ矢です」
あなたの体を通り抜ける時
火がついたのです


7.ルーツ

僕の心のずっと奥にある
この悲しみは何なのだろう
僕をはいでいったら
何も残っていなくて
悲しみだけが
漂っているのだろうか

僕の体は
悲しみに
つけられたのだろうか


8.気化

悲しみすぎると疲れたぶんだけ
心がどれだけか楽になります
頭を破裂させるほど
煮詰まっていた思いが
天上へ抜けていき
どうでもよくなってしまうのです―

あなたにこうされたのは
もう 何度目のことでしょう
あなたは 何も知らないのですから

(愛されるものが愛する者に
罪をつくっているのでなく 罰しているのです
何ゆえかは God Know)

今は大河に時 場を遇々
時にして舞散った 二枚の花びら
流れのまかせるままになりましょう

(僕はあなたどころが
自分さえ 自由にできるようになった)


9.ただに・・・

草になりたい
葉になりたい
ボウボウと荒れた
原野の果てなく続く
落葉の悲しみさえ知らぬ
枯木林の片隅で――

ただ いぶかしげな灰色の空と
渇ききった白い土と
同じところをまわっている風

太古におきざりにされた
無窮の大地で
やせた地にはいくばい
吹きつける風のなすがままに
身体をまかせ

太陽を星も知らずに
ただ 生きて
ただ 死にたい


10.時限爆弾

僕は喜びの中に爆弾をかかえて
その日を待つ
閉ざされた心がようやく溶け
あなたは私の前に 輝くだろう
ひときわ美しく 女らしくなって

けれども 僕の五臓は
時にむしばまれ 秒針を刻まない

あなたは 僕の空を飛べるのだろうか
永遠に偶像化された愛は
裏切るだろう

その日が終わる
夕暮れ頃は
僕はきっと 寂しくなっている

今 以上に あなた以上に
わかっていることだ
そのときがいずれ訪れること
僕が生きているかぎり
あなたが生きているかぎり


11.虹

雨が上がったので
真っ白な画用紙を
一枚買ってきました

あなたの顔はうまく描けないかといって
いいと思っているところに
あなたが クレパスを持ってきてくれました

カーテンを開けてあなたは言いました

―虹を架けましょう
あなたは赤 青 緑色を
私は黄 紫 桃色をとりだしました

―おや 橙色がありません
あなたに手をそえて
空を青く青く塗りました


12.卒業

あなたに会った日から
今日までの私は
あなたに恥じない女性になろうと
それだけを願って生きていきました

そんな私にとうとう気づいてくれなかった
きっかけなら いくらもあったのに
私は あなたの前に来ると名前もいえず
ただ あなたの話に耳を傾けているだけ

あなたに打ち明けたいこと
抱えきれないほどあったのに
あなたのそばにいると いつも
どうでもよくなってしまうの

あなたは気づいてくれなかった
ただ いつも明るくはつらつしていて
あなたは幸せを満悦しているようだった

私だけを見つめてほしい
そんな贅沢なこと願ってきました

あなたの心はいつも透んでいてわからなかった
あなたはいつも大きな夢を描いていた
私はその夢の中に入りたいと願っていました

あなたは去っていく
「さようなら」ってそれだけですか
あなたの言葉は いつものように陽気でさわやか
だから残酷 でも憎めないのが悲しい
「さようなら」と小さな声で
やっと返した私の言葉は・・・
涙がつうっと 頬を伝わったとき
あなたの後ろ姿はもうかすれていました


13.最期

邪悪な戦いの荷い手が
城から かき消えた
平和なひととき
あなたの一挙一動が
僕の一日を塗りわける

一途の愛
何も要らない
姫であるかぎり
私は支える!

しかし 白馬の騎士団は 返ってこなかった
あなたは 悲しげなふうをして
僕らは目をぬぐった

暗雲 一転 城を覆い
雷鳴 轟き 城門を破った

おびえた姫は はじめて
僕を必要とした なぜなのー?

―あなたの戦士が 彼らを導いたのです
僕の体から したたる血が
あなたの手を赤く染めた
寄せた波は 城内をもみつぶせず
ようやくひいた

あなたのために 死ねる
あなたの横で 死ねる
それが僕の死なのか
それが僕の生だったのか

僕は報われた 命を代償に
あなたは悲しげなふうをして
僕の意識は遠のいていった


14.警護

僕は あなたの護衛兵
あなたをいつも 見守ってきた
僕はただの護衛兵 あなたが目を輝かし
見とれるのは 華やかな戦士たち

僕はあなたの護衛兵
一日中 あなたを見て立ち続ける
僕はただの護衛兵
あなたの戦士と争う気など起こりもしない

あなたが見つめる 白馬にサーベル
号令を発し 勇みゆく戦士よ
それは僕の幼かりし時よりのあこがれだったのに
宮廷にあなたを見るや否や 流れ去った

声高らかに 帰りくる戦士を
僕は迎える 槍を立て 敬礼し
白馬の騎士は 勝ち誇らしげに声をかける
「ごきげんうるわしゅう お姫様」
あなたは応える かぼそい白い手にハンカチ
僕にはみせない 笑顔をふりまいて

国のため―
休息もなく あなたの戦士は 侵略に
遠い戦地に赴いていく
僕は見つめる 僕の幼かりし夢の
さらに 遠く 馳せゆくのを
姫ゆえに―

そのあなたは 胸に手をあて
僕の頭ごしに 彼らの死を 惜しんでいた
彼らは名誉に死に 姫の心に納められた
僕はその姫を警護する


15.夜噺−五題

夜が更けて 闇が積もっていきます
赤く燃えているのは 何の火ですか
あれは わたしの 愛

あいしてくれるのに
あいせぬひとには
ありがとうと
あいをうけとめ
かなしそうな目を
とじてみせるの
心の中で
あやまりながら――

月よ おまえは
わたしをなぐさめて くれるのか
月よ おまえには わるいが
わたしは おまえをみて
かえって 悲しくなる
何だか似ていて つつましげだから

この世に 話の種はつきないけれど
二人は 二人のことだけ
話していれば 十分だね


16.愛しています♪

愛しています 愛しています こんなにも
なのにあなたは 空を見ている
ともにいられぬひととき
とても耐えがたい私に
やさしいあなたは 黙っている

愛しています 愛しています だれよりも
だから あなたの心もよくわかる
あなたのめざす その世界に
私の場所のないことを
わがままな私は言いだせない

愛しています 愛しています いつまでも
だけどあなたはやさしすぎた
私の愛が 足をひっぱっているのは
とうの昔に気づいていたのに
さようならがどうしても言えなくて

愛しています 愛しています どこにいても
だからこそ あなたの空を飛んでもらいたい
一人になるのは死ぬよりつらいけど
見守ってくださるあなたに
告げます 涙流さず
私も大人になりました


17.恋のうんちく

なぜ恋愛詩が 多いのかって
世にはこれほど不可解なものは
ないからさ


18.十代の初老

夢の中に出てきたあなたは
Vネックのセーター白いスカート
その横に あの頃の僕がいた

身にあまるほどの 未来を語りあったね
あなたは 言葉少なげだったけど
僕をきらきらした眼で みつめていた
あの鳥のように 自由に生きたい
そんなことばかり 考えていた日々だった

都会はちっぽけな人間を
顧みることもなく
やがて うつろな目の大群に
合流した僕は
君の去るのを止める力も なかった

夢に酔いしれていたあのころ
恋しいほどに 心につきささる
僕の未来は 夢であふれていた
それがつきてしまったのか
あなたを思い出す ほどまでに!
そしてもう 僕は過去をふりかえって 
生きているとは!


19.美しい地獄

あまりに水が清らかで まわりの木々も美しく
小鳥たちもさえずっていたので
僕はおそるおそる 足を踏み入れてみた

魂のてっぺんまで 溶けてしまうほどに
やさしい水の精が 僕を一気に
引きずりこんだ
だけど あまりに澄んだ水は そのことを
僕に気づかせぬほど 巧妙だった

僕はずるずると沈んでいった
半ば 水の精にひきずられて
半ば 自分の恋する心で

体をかけめぐる 甘美な快感
心はずませる たぎる血の流れ
若さは未知なるものへの恐れを
知らなかった
僕は今だに水の中にいることを
知らなかった

そこは 魚たちにとっての水
あるいは 僕らにとっての空気ほど
ふしぜんなものがなかったので
気づきようのなかった

そして いつのまにか 僕は水の精の
とりこになっていたのだ

底のない愛
もがけばもがくほど 引きづりこまれる
だけどそれに捉えられたものは
逃れるすべを知らぬ

笑っているのは 水岸から
見ているものだけだ
もだえ苦しむ 愛の地獄
むくわれぬ 底なし地獄
それだからこそ 美しい湖


20.雑草に笑顔を

くずれてしまった時を追いかける
手を伸ばせば 君の肩をとらえられた
そんな毎日を
僕は黙って見過ごしてしまった

君の書いた短い手紙の数々
ああ 君は僕のために
わずかながらも 時間を割いてくれた
君の人生の ほんのわずかな寄り道の
雑草にもしがない 僕だった

君は思いもよらない
気まぐれに あるときほほえみかけた
そのところに 一本のしかない雑草が
それが自分に与えられたものと早とちりして
何年も何年もその微笑を 忘れられずに
毎日毎日思い出して たったそのひとときを
見つめて 生きているのを


21.日記から写真が・・・

古びた日記の裏表紙から
一枚の写真がでてきました
遠い昔の風景でした
そこに あなたは僕の横で微笑んでいました

あれは いつの日だったか
カメラを手にしたあなたの妹が
気まぐれで 写して送ってくれたものでした

あれから 何年過ぎたものやら
あなたはとっくの昔に
僕の心の人となってしまいました

たしかに こんな顔をしていたように思いますが
何だか少々 違うように思うのは
気のせいでしょうか

古びた 日記一冊全てが
あなたのことで埋められていた頃のことでした
あなたの思い出を 留めるものは
他に何もなかった

写真の中のあなたは ただの友達
ただ そこに 何年もいっしょにいたなんて
今さら考えると おかしなことでした

たった一人の人でした
僕が愛せた たった一人の人でした
気づかなかった僕が 愚かだったのです


22.すれ違い

男がはい上がってきたとき
女はそのところの顔に 不幸の二文字を読みとった
女には 地獄へ行くというような考えは思いもよらなかった
天国に飽きは幾分あったが 離れる気もしなかった
しかも こんなみすぼらしい見ず知らずの男と


23.煉獄

僕は君を愛するために 生まれた
君が僕に愛されるために 生まれたように
だけど 一つ手落ちがあった
僕は僕を愛するために 生まれなかった
僕が君に愛されるために 生まれなかったように

愛されぬ男と 愛せぬ女の出会いは
結局 すれ違いに終わるしかなかった

男は その胸にやわらかい肩を抱きしめながらも
はっきりと遠い世界を見つめていた
女は 男のりりしい顔を見つめながらも
決して心を開こうとはしなかった

男は 女を神の国に押し上げると
胸を十字に切って 悪魔の導きに魂を預けた

男は知っていた 自分は女と異なる世界に
生きなければならぬことを
だけど 一つ手落ちがあった
男は容易に忘れられなかった 女のことを
いかなることに紛れていようとも

時は幻影をぼかしながらも 肥大させた
地獄の色に染まった男は
天国へ這いあがろうと試みた
それは許されぬことだった

女は男が地獄へ行ったことは知っていた しかし
自分ゆえということは知らなかった だから
女は容易に男のことを忘れられた


24.「橋にて」ゆく川 ゆく人

街ゆく人は振り返らず 歩いていく
橋の上 流れる水面 見つめる私
何となく 君が立っていそうな気がして

振り返っても
どんより曇った空 かもめは飛ばない
あてもなく ただ一人
何を 待っているのか

待ち時間は 永遠と化し
君はもう この橋を渡るまい
思い出を拾い集めるのは 僕だけ

これで最後と思いながら
つい ここに来てしまう
冷たい風は吹き あなたの香りはない

つらくなるのはわかっているのに
川に流し切れぬほどの日々
思い出の中に戻りたくて

一言いい忘れた言葉 告げたくて
笑われた時は帰らない
何もかも あのころと同じなのに


25.溶雪

あなたの手のひらに
立ち寄った雪が溶けました
あなたの手のあたたかさに
清らかな冷たい雪が溶けました
あなたは春なのですな
明るいあたたかい日ざし

ずっと待ちこがれたいたんです
どんより曇った空も
凍てついた 大地も
雪化粧をはらった枯木が
微笑んでいます

地上を清めた 雪んこたちも
あなたの息吹きにうっとりと
身をくずしていきます

天使が舞って降りてきます
神の永遠をたたえて
無邪気なものですとも
地上はまだ 真っ白なのですから

やがて生あるものが動きだします
あなたの命令の下に
あなたの去ったあと
手におえぬほど慕われだすのを知っていても
あなたは雪を溶かすのです

そして 天使たちが嘆き悲しむころ
神の涙かともや 一年めぐりて
雪が戻ってくるのです
それは人々の涙の結晶なのです


26.君は世界を意味づける「棒歌」

君に捧げよう この歌を
僕の全てを賭けて
君に告げるため
君に捧げよう この歌を

つまらぬ男だって
その胸に入り切れぬほどの
夢を持つことはあるさ
(神様は禁じてはないもの)
その夢の中に 君ほどの女を呼びこんでも
罪はないはずさ
(夢はそれと気づかぬ喜びに
ひたるほど それと気づいたとき
深い悲しみで罰するから)

僕らは飛びまわる
君の手をきつく握りしめて
僕は有頂天 何気ない世界の何もかもが
意味を持ち始める

君の瞳に吸いこまれると
黄金の輝きをしのいでしまう

王女の下僕は 我一人
思いのままに なさしめよ
我の心は汝に捧げたものなれば

太陽の燦然たる きらびやかさと
月の涙誘う しとやかさを
兼ねそろえた その顔に
微笑を浮かべておくれ
世のため 人のため そして 僕のため
あなたが消えて 世界の意味も消える日まで


27.血

長い年月が 僕の体内に君を溶けこませた
君はめぐる 血管の中に赤く燃えて
僕の血が 苦しいほどたぎる
すっかり 僕を支配しちまった
恐るべき 侵略者

僕の微妙な心を揺るがしつづけ
心身を破壊に導こうとする
頭の中までも いつも間にか 真っ白
本能-理性も 手を握り合い

自我は君の前に両手を上げ
プライドは砕け 君の忠実な下僕となり
いつしか 僕そのものに化しちまった

何にしろ 女の赤い血は 僕の命だ
男は若き女の 血を求め 夜通しさすらう
されど 僕の牙は 抜かれちまった
胸にたぎる 血を抑えるだけで精一杯だ

でも君の実体は あらわれぬ
僕が胸をナイフで切り刺して
僕が倒れたとき その胸からあふれた君は
僕の目の前に立ち 笑いあざけるだろうか
残酷なる 魔性よ


28.反流

河は流れる
僕らは 明日を待たない
上流へ上流へと 上がっていこう
そして 自分の手で明日をつかむんだ
ともに下っていくことはできないから

わずかな間の すれちがい
人生がそういうものだから
じっとしていても 時は流れる
けれど 流しておくのでなく
自分で流れにさかのぼれ
流れは激しく かいに力をいれねばならぬとも

はるか上流に 求める世界よ
老いさらばえて海に流れ
安らぐのは まだ早い

上流へ上流へ
果てしもなく
力尽きるまで
さかのぼれ
己の力だけを信じて


29.感謝

貴方は私の世界の中でこそ
生きるべきなのだ
私の世界の中では 貴方の何もかもが
数倍も美しく輝きを増す
私ほど 貴方を愛せるものはいないから

貴方に示せる僕のたった一つ
自慢できるもの
誰よりも貴方を
本当に貴方を
愛しているということ

それは貴方には 何ら価値のない
つまらぬことかも 知れないと
考えるのは つらいけど
たとえそうであっても 愛する権利は
貴方とて 奪えない ただ
認めてほしい 私の愛
許してほしい 私の愛

よしんば 他の人に心許すとも
私は何も言うまい いえまい
されど わかってほしい
覚えていてほしい
こんなにも 貴方を愛している
僕がいることを
それを心の片隅にとめていただける
だけで がまんできる男がいることを

何も思うまい 望むまい
心の中だけでも 貴方とともにいられる
そんな貴方と少しでもめぐりあえ
生を共にできた
その幸せだけを今は 感謝しよう


30.愛の宝石

あなたへの様々な思いから
思いを覆う 不要な いとしい
この不純物を除き
純粋な愛の結晶と化したい

それは100%の完全燃焼率
愛の力は人間の限界を破る
偉大な動力源
全生命をほとぼらせて
貴方をみがきあげる
輝く私の宝石よ

ひとカケラであろうとも
あなたは 太陽よりも
大きな光と熱を
私に与える

永遠のわが命の源よ
私を溶かすほどに燃えよ
そして 私をあなたの中に
融合せしめよ

何かしらのわけありて
分かれ出し魂を今こそ
完結せしめよ

あなたと私に
過去はなく 未来は知らず
より強く燃え続けよ
生命あるかぎり(とだえても)
灰と化するまで


31.大きな夢

僕の手には何もない
だけど僕には
いくつ手があっても
持ちきれぬものがある

はかなくて
ぼくぜんとして
つかみどころもないけど
大きな大きな夢
育てていくんだ 大切に

いつの日か きっと
この手で 実感できるときがくる
自分を信じて
何もないからこそ 自由にとべる

さあ 今 思い切って
地面を蹴るんだ
あの大空よりも広い 僕の夢
はるか かなたにあろうとも
どんなにものにしがたくとも
そうであれば あるほどに
僕は 翼に力をこめる

ああ いつの日か
若さまさりの夢だったと
大空に舞いおりて
懐かしむときがくるかもしれない
だけど夢 この手に この手に
勝ちとるよう

僕は ひたすら
今日を生きる


32.パッション

胸をえぐったナイフをとびかう
鮮血の色は
まぎれもなく 情熱――
あなたを愛していた私の心
ポトリポトリととりとめなく
あふれる 今も――

私の心は冷めきれなかった
奥深く おまえを
抑えこんでしまってから
私はいつも予感におびやかされていた
私の思いが 理性などとベールで
隠し通せるものかと〜

やっぱり こうなった それを私は
あの日から知っていたような気がする

私の青春がしたたる 胸から
何と美しい 血であろうか

<あなたは あの日帰ってこなかった
そして 私も追いかけなかった>

けれど 私の心はあきらめなかった
体をひきさく激漏が快いほどに私を罰する―
この血一滴一滴が私の気持ち

あなたへの思慕は体中を巡りつづけた
一瞬(ひととき)眠りもなく
そして今 ときのまだけど
しぜんな私がここにいる

あなたはいない
でもあなたを思う
私が こんなにも広がっている

ああ・・!


33.聴いてくれ

僕の歌を聴いてくれ
君の耳には聞こえまい
僕の心を聴いてくれ
君の心で聞いてくれ


34.ヘブン

僕の手をつかんで
漏りの向こうまで駆けていこう
きれいな小川があって
青いリンドウが咲いている
僕が見つけた
すばらしい 花の国
誰にも 教えやしないけど
僕一人にはもったいなすぎる

そうだよ 君が必要なのさ
おいでよ おいで ためらわず
お日様に 笑われるよ
ポカポカの地に寝ころんで
はてしもない大空を
そっぽり二人の胸の中に
入れようよ
菜の花も 蝶も みつばちも
皆 恋をしているんだ

ああ 君がまぶしい
春風に踊る
すらりとした君の足
ふくよかな君の胸も
さらさらの君の髪も
君は両手を
天の伸ばし
僕を追いかける
ごらん
何もかも 僕らのためにある


35.平等

さまざまな輩が
上から圧迫を加える
時代は 我々には楽だった
敵の姿が見えていたし
それに抵抗できぬ悔しさはあっても
肉体的に過酷に苦しめられても
精神までは犯されなかった

歴史は 徐々に敵をとりのぞていった
我々は そいつらを足元に踏みつけ
平等を 自由を 勝ちとったかと思えた

ところが今 見えない敵が 見えない手で
我々を それこそ平等に
下の方からひっぱっている
我々は敵の姿さえ つかめぬ直感で
落ちていくのを感じていないから
なす術を知らない
精神から むしばんでいく
我々は もはや 理性も保てぬ


36.踊り続けよう

まわる まわるよ 今宵最後のワルツ
白くか細き君の手に
これまで生きてきた僕の過去を
そして 君と離れて生きていく僕の未来を
全て伝えよう

誰もが笑顔で無邪気を装っているから
僕らも楽しく踊ろうよ
1,2,3 1,2,3
呼吸がぴったりあうまでにかかった年月と
それを忘れてしまうまでの年月と
比べやするまい

君は永遠に僕の胸の中で息づく
自由の戦士よ なぜ 我らは飛ぶのか
愛する人を守るため 愛する人と離れてまで
悲しく呪われた 人間の性よ
敵を破る その標的の男にも 無事の生還を
一瞬たり忘れず願っている 人がいる
人間 邪悪なる死神よ
生という自然の大神に反逆する者よ

まわる まわるよ 今宵最後のワルツ
曲が止まろうと ホールが壊れようと
まわる まわるよ 誰も絶対止められぬ
このワルツ 僕の胸に あなたの胸に
あの人の かの人の
誰もの 胸に
夜明けも何もあるものか
力の限り 曲の聞こえる限り 踊りつづけるのだ
そして 倒れてしまおう 踊ったままに!


37.落陽

夕焼けのむこうに
夢を追いかけていた人が
また一人 今日の世界に
腰をおろし パイプの煙に
ぼやき 沈む太陽を見つめている

太陽の沈むのを待ちくたびれていた
ほどの 若い日々から
太陽の上るのに
ついていけなくなってしまうほど老いて
おいてけぼりされた日

ああ 大いなる魂も燃えたぎらせ
太古より お前は沈んでは上るのに
それについていけぬ人間の身の悲しさ

我身を焼きつくせ
おまえの持つ万分全ての一の熱と光で!
私は おまえの戻ってくるまでの
冷たい世界で 凍え固まりたくはない!


38.火種

腹の底にいつのことか
わずかに持ちこまれた火種が
くすぶりつづけ 抑えるほどに強くなって
爆発して身をこがすように熱く
体全身をほとぼらして
炎 そのものと化して
とどまることを知らない
自由奔放に何もかも焼き尽くし
意志の力によって命限りなく

形だけに化した人形は
肉体は灰になり
精神は残りえるか
殺すだと―偽りのベールをはぐだけだ
その下には虫けらほどの
良心もない

そしていつの火か 世界が灰と化したとき
炎はおだやかにおさまるだろう
私も死するのだ
(私の人生は結局 人(文明)をむさぼることだったのか)
そして いかなる 知性をもったもの
その文明を それを 皆無せしめたものの
正体をつかめぬだろう


39.サンタ

サンタはいないんだと思ったときから
サンタはいなくなった
夢は夢でしかないんだと思ったときから
夢は みられなくなった
こうして人々は幸せの芽を一つ一つ
大人になる軍資金とでも思って積んでいく

答えを見つけるためでなく
疑問を残さないために

なぜかと考えるのがめんどうなあまり
なぜと問いかけることも忘れる

世の中はもともと味気ないものだったのかもしれない
しかし それが無限と輝いたこともあったじゃないか
たとえ それが間違っていたとしても
それに気づくのは りこうじゃない
偽りの方がずっと 価値のあることもある
天才ほどの不幸な人はいず
バカほど幸福な人はいない
世の中は 自分の思い通りの姿として あるからだ
もし つまらぬものと思うなら
その思い方を改めたらいい
すてきだと思う人に すてきに見えるものだから


40.酔ひ心

君の面影 肴にして
一人わびしくつぐ酒は
酔うにも酔えず
涙のみぞ酒面に踊る
盃にゆれる君のまなざしは
笑いこぼれて切なげで
みつめためらうそのうちに
香りも失せし冷たい仲

うずきおさまりし 痛みを
腹しんまでしみ通す
この酒 冷や酒のうるわしさよ
(苦く苦く)下に残るあと味のわるさとて
今はもはや離して生きれぬわびしさに
たぎる たぎるは恋心
はや我は老いさるばれて
足とて我意のごとくならぬとも
千里を遠しとせずは
ひとえ この恋心のみ

僕らは愚かな大人より
ずっと共通のものを持っている
理解もしやすい
僕らは 世界の青年
世界の子供たちだ
ならば 世界のために尽くそう
我が愛すべき地球のために
我が愛すべき人類のために


41.人の思い

魔法使いは 一軒の家で
体の不自由な年寄りになりすまして見ていた
一年目 人々は豊かになった
なぜって それが幸福だと人々が思っていたからさ

自分の家を新しく いろんなものを買い集め
みすぼらしい 魔法使いの家を煙たく思って
ひまつぶしにいろんないやがらせをした
地上一面真っ黒な花となったのだ
魔法使いは怒った そして
この腐敗した土に見切りをつけた

それで次の年は
不幸の種ばかりを
まいてしまった
もはや 世界もおわりよ

雷鳴がとどろき 火山が爆発し 地が揺らいだ
そして人々は 恐れと不安の中で貧しく飢えた
なぜって それが不幸だと人々は思っていたからさ
されど人々はくじけなかった あらゆる虚栄は
排除され 生きるために 動きはじめ 協力しあった
魔法使いのところに何人かの者が世話をしにきた

皆は 疲れ果てていたけど
明るく 生き生きしていた
ドアの外に魔法使いは見た
一面 白い花が咲いているのを

(人々が幸福と思っているほど不幸なことはなく
不幸とおもっているほど幸福なことはないのだ)
魔法使いはこの地上におこったことがわからなかった
これいかなる魔法なのか
やさしく取り戻して二度と
幸せの種などまくまいと思った


42.育てる

魔法使いがホウキに乗って 夜空を飛んでいく
あまりに早いので 気づいた人々は
新しい彗星かしらと 首をかしげている

その間に魔法使いは国から国へ
魔法の種をまき散らす
この世の中の不思議なことを
気まぐれに起こすのが楽しくて
魔法使いは今年は考えた
なるだけ幸福の種をたくさんまいているのに
この土壌はすこぶる幸福にしているのか

黒い花ばかりさく
幸せは芽ばえたときに 誰もが
つんでしまうのだろうか
誰もが欲しいものだからこそ 誰もが
大切に育てねばならぬというのに

魔法使いは 幸せの種ばかりを
今年はまくことにしてみた


43.あるクリスマスのシャンソン

今宵クリスマス
私は一人 お腹をすかして
肩をつぼめて街をあるく店は早 閉まり 
からっぽのポケットに手を入れ
街を歩く
シャンソンにしばし立ち止まり
カウンターの男がじろりと見たので
街を歩く

寒さだけを持ち帰って
ふとんを頭からかぶり
一人見のさびしさに
やりきれずにいるときに
ふと目をついてでるのは
ふと夢の世界へつれていってくれるのは

あ シャンソン
街で聞いたシャンソン
ふるさとで聞いたシャンソン
生まれてこの方聞いてきたシャンソン
クリスマスの夜は更けて
ともすロウソク一本ない
この私に たった一つ かざれるもの

あ シャンソン
街で聞いたシャンソン
ふるさとで聞いたシャンソン
生まれてこの方聞いてきたシャンソン


44.ピエロの昇天

ピエロは疲れはれた体を横たえ
誰もいぬ舞台うらで
穏やかな死神の足音に耳をすましていた
そして とぎれとぎれ流れくる音楽にプリンセスの
舞台を眼前で見るよりも正確に
思い浮かべていた
(僕の声はとうとう貴方に届かなかった)

プリンセスは舞台の上で
踊っていた いつものように
華やかに 美麗しく
端役が一人欠けていることなど
全く気付かず(たとえ気づいていても
気にかけやしなかったろうが)

しかし プリンセスは自分が満足いくだけの
舞台を演じているのに
大テントの中が妙に冷めているのを
直感的に感じていた
プリンセスはさえぬ顔で
引き上げてきた
上張りをいすに投げ
かけるといつもどうり 寝入ってしまった

ふと耳の中を風がかすめ
プリンセスは目を醒ましました
体に震えがきて
思わず量肩に手をやった
それは冷たく細いすべすべした肌身だった


45.Snow green

雪は情を持てぬゆえけ高い
いっさいの情をうけつけず
自ら情を生じるものなら
それを溶かしてしまうという

そんな雪を愛してしまった人間は
どうすればよいのか
愛は必ずやいかにかたくななる心をも
開かせよう
されど 雪
ぬしは 暖かい手でつつむと
身を滅ぼしてしまう 雪

僕はだまって遠くから見ているしかない
見られなくなるより
ずっとよい
されど 雪
春の日は こんなに遠慮していく僕からぬしを
もぎとってしまう
その悲しみに どうしてたえられよう
ぬれた地面に僕の涙をぬしに
雪 僕はぬしの美しすぎる性質を憎む
同じ星のもと生まれえなかったことを

遠くでみている つかの間の 清らかな このとき
奪いたまふな 奪いたまふな


46.雪を愛する

深く深く雪に閉ざされた冬
一人悲しく外を見る
雪は やむことを知らず
僕の心に積もっていく
ああ あの暖かい日だまりは
木の葉の中に舞い散ったのか
北風がからっぽの腹を吹く

語りかける人もいず
荒れ狂う海 安らぎを知らず
語りかけてくれる人もいず
星の輝く夜 永遠に帰らず

頭のアルバムから 友を懐かしみ
語りかける その面影すらなし
愛する人 愛した人 愛せた人
かぼそき炎にゆらめく
ああ 

僕は雪を愛する
何の暖かい感情も持たず 
ひたすら シンシンと
僕は雪の白さを愛する
僕は雪の固さを愛する
僕は雪の清さを愛する
僕は雪のはかなさを愛する


47.君の美しさは固く凍りついた心

君の微笑みはさびしさまじりの作り笑い
僕にはわかる もう何年も君を見てきたが
僕の手であたためてきたのに

君の心は 今だに溶けない
君は笑う ほがらかに何の屈折もなく
僕にはわかる 君にいやというほど教えられた

君の心に少しでも入りこもうとすると
君は固くロックしてしまう
そして 君を何もしらぬと
笑ってごまかしているのだ

僕の目を見なよ
君は 誰にでも そんなに冷たいのかい
本当は 陽気で おきやんな娘だ
ボクにはよくわかる 君のかげとなってみてきた
心のたずるをゆるめなよ
心の底から笑ってごらん
こんな楽しい人生じゃないか
こんな すてきな君じゃないか

僕は何も求めない
誰をも 愛せば それでいい
そうしたら その中に僕も含まれよう
それで 僕は大満足
君の幸せ 僕の幸せ


48.つかれちまった

つかれているのに眠れない
君を追いかけ追いかけ
夜道をさすらい
帰ってきたら 一人ぼっち
眠れない
本当に本当につかれちまった
その頭を君が先のとがった
くつで踊りはねている
君に君に つかれちまった
何もかも投げ出して
ひたすら 君を思えたとき
まだまだ よかった
恋に恋に つかれちまった
つかれすぎたら 眠れない
頭がわれそうだ
僕の心は 晴れた日を忘れちまった

星が見えないのは曇っているせいだろう
君を追っているままに僕は自分を失った
ああ この愚かなる心
もはや 愛してもいない人を
今だにおいつづけ
今夜も 白けちまうまで
苦しめる


49.反戦歌(1)

世界の青年よ子供たちよ
僕らは戦争を知らないけど
それが どんなに悪いことか
いかなる名においても
正義といえぬものかを 知っている
人を殺すこと 人の世で最も悪いこと
大人たちは 苦しい経験を生かす術を知らない
避ける方向を180℃まちがっている
そして 我らに過ちを又もや
繰り返させようとしている

何度も 地獄を見ながら 今だに
戦争という文字も 過去のものとして葬られぬ
愚かな大人たち
戦争と知らぬ僕たちは 彼らに習ってはだめだ
僕たちは もっと広い目をもって
世界の次世代の者
同士で信じあおう
そして 愚かな大人が退いたあと
戦争につかうようなものを焼却しちまおう
世界が手をつなぐ時代を切り開くのだ
誰もこのすばらしい世界を母国を
滅ぼしたくないはずだ

世界を滅ぼす 愚かな大人どもとなるな
世界を救う 英雄となれ
はや母国を案じるより 人類を案じよ
戦争を知らぬ世代よ
純真な大儀なる心を忘れるな
愛と信頼の上に世界が結ばれる日まで
その心を持ちつづけよ
主義も考え方も違うけど 人を愛すること
人を殺さぬことにおいて 何の違いがあろうか


50.反戦歌(2)

戦いが終わったとき 誰もかも誓ったはずだ
二度と謝りは犯さないと
歴史は教訓を残すのに
人間は 嫌なことは すぐ忘れてしまう
そして 人間にとって最も大切なもの―
愛を力で踏みにじってしまう
一人一人は分かち合える人間なのに
愛を代償に利を得ようとする
愚かな野獣と化する人間よ
一人一人は 愛しあえる人間なのに
恋人を愛するように
世界の人と愛しあおう

悲しいことじゃないか 文明はこんなに
発達したのに 動物にも劣る
身勝手な愛 人間同士が憎みあい
殺しあうなんて
人間同士で信頼がもてないなんて
武力のむなしさを何千年かけて学んだのか
人間の人間たる知恵とは何だったのか

武器を捨てよう 力を捨てよう
そんなものにたよらなくても
人間はすばらしい心があるじゃないか
もう一度信じあおう 歴史はくりかえすものだと
人間を疑わず 最初から やりなおそう
仲間が信じあえないなんて さびしすぎる世界を
つくらないよう そして信じあい裏切らないよう
原点から 人間として謝りを正そう


51.反戦歌(3)

悲しみも苦しみも 全て歌に込めて
ちりぢりに巻きちらすんだ
聴いている人の胸をなりひびかせ
己の体をばねと化し

時代は緊張を高めていく
墜落から脱出の好機だ
しかし ブレーキを忘れるな
時代は動かずにいられない
平和―
国を愛する
人を愛する
どちらかをとらねばならぬとしたら――
個人個人が主体を持って
全世界の
良識を働かせねばならぬ
戦争ごっこの好きな愚かな政治家と
そのブレーンを
我々の愛する人とともに撲滅せねばならぬ
敵は 国でも人でもない
わが身の中のさびにある
すこやかに すこやかに
誰もが世界を覧視し
歴史に参加しなければいけない


52.恋の矢

君の冷たさで氷をつくって
熱にうかれた僕の額にのせよう
きっと 沸とうしてしまうさ
全く回復の見込みのない恋患い
治せる医者は君だけさ
むろん君が現れたとき 僕の心臓が
胸から踊りださなければのことだけどね
しばらくは平静らしい

恋の矢は 君を見た瞬間に致命傷とあいなり
そこから病原菌が一夜のうちに僕を占領した
僕が何ゆえ ここに倒れているか 誰が知ろう
僕の頭の中は君の
僕の目の中は君の赤いドレスが
僕の耳の中には君の微笑みが
僕の鼻の中には君の香水が かおりが

僕の遺言は何通も君のもとへ飛んだのに
君は今日も光を満喫し 安らかに眠っている

通じよ通じよ 僕の真心 偽りなく我が
天使の冷めし心をたぎらせよ
通じよ通じよ 僕の熱情 天まで通じ 雷鳴とどろき
天使の安らかなる心を乱せよ


53.しかし また 誰かを愛していた

僕は明日のことなど考えなかった
僕は昨日のことなど考えなかった
僕はいつも今日を生きていた

若さは 愛することだけを置き去りに 僕を去った
愛することは 振られることだけをおいて 僕を去った
愛する人は 何も残さず僕を去った

そして 気づいて見たら 僕は一人
街の中を歩いていた
誰も僕の方に微笑みかける人はいなかった

僕の 愛はいったい何だったのだろう
僕が愛していたのは いったい 何だったのだろう
あい? 何ゆえ愛 滅びの愛?

愛が消えたとき 僕は 街の中に倒れた
ああ 愛 僕 そのものだったんだ

僕は明日のことなど考えなかった
僕は昨日のことなど考えなかった
僕は 今日に倒れたのだ


54.僕はいつも誰かを愛していた

主に愛した人は数人ぐらいどけど
そのすきまも 何やらかんやら うまっていた
僕はいつも誰かにふられていた
主にふれらた人は数人ぐらいだけど
そのすきまも何やらかんやら すげなくされていた
僕は 昔の人を思いだすこともなかった
僕は新たなる人を壊したことも なかった
僕はいつも誰かを愛していた

そんな中に僕を愛をしてくれた人がいたか 知らない
僕の愛のわずらわしさに誰もが閉口した
そして その人なりのやり方で別れていった
僕はただ せい一杯 愛しただけなのに―
涙の中でもう二度と人など・・との誓いは
涙がかわかぬうちに現れた人に たやすく破られるのだ
女の調子はよいのは最初だけだ
それでも 僕は愛していた 僕の目の前の人を

僕は愛することに夢中で相手のことなど考えなかった
僕は愛する人より 愛することを 愛していたのか
女には 愛を惜しみ分けるのがよいとて
気づいてみたら 僕は全てをかけて 愛していた
そして まちがいなく ふられていた


55.風船

色とりどりの風船が肩をよせて話していた
僕らは誰に買われるのだろう――
小さな男の子は 乱暴だ 女の子がいいな
小さな女の子はあきっぽい 男の子がいいよ
大きな家がいいな おもいきりはねまわれる
小さな家がいいな いつも遊んでもらえる

そんな中にたった一個だけいびつな形なため
仲間に入れず もの思いにふけっている
風船がありました

―僕は なんで風船なんだろう…
―風船やっているしか能が無い以上
風船でいつづけるしかないが…
青い空をどこまでも飛べたらどんなに
気持ちがよいだろう

この売れない風船の思いは仲間たちが
入れ変りするうちに ますます 強くなりました
か細そうな糸は なかなか自由を許してくれなかったのですが 
古くなったせいでしょうか
ブツリと切れました

今だ―
風船は高く高く皆の視線を初めて
一身に集め 飛んでいきました
―バカなことはやめなよ 戻ってこい―
そんな声が小さく小さくなっていきました


56.ミレーとエリー

街に同じ日に生まれた二人の娘がいた
一人は 街一番の大富豪の娘ミレー
もう一人は 街かどの花やの娘エリー
器量は けっこう二人とも よかったけれど
街の男たちは
皆 ミレーに夢中だった
夜毎にもよおされる舞踏会に
男たちは  日夜働くエリーの手からうけとった花を
ミレーに捧げるのだった

ミレーは誰からも愛された
けれど 自分を大切にするあまり 
けっして 微笑を返したりできなかった
エリーは誰をも愛した
花一本一本に微笑をこめ
大事にされるよう願って売るのだった

男たちは そんなエリーの前を
逆さにぶらさげた 花よりもしおれて
引き返してくるのだった
そして エリーに言うのだ
もっときれいな花を もっと高価な花を
ミレーの目にとまる花を
エリーは答える
ありません 花はどれも美しいのです
手に入りやすいのが 安く
手に入りにくいのが 高いだけです
誰もが エリーの前を 素通りした

店先の彩りが何度か変わった

ミレーは二十歳のお祝いに
街中の人々が屋敷に招待された
ミレーの望むナイトは現れなかった
そして 街の花屋から
もっとも きれいな花が届けられた
今こそ 男たちは気づいたのだった
エリーの美しさに

エリーのあとを 男たちは街中ねり歩いた
エリーは 唱った
愛することを 愛することを
何よりも大切なことを 何よりも尊いことを
相手がどう思おうたっていいじゃありませんか
愛せることが尊いのです

エリーは花を配った
一人一人の男に女に
その最 後尾に ミレーが並んでいた
エリーの渡した花に 初めてミレーは微笑んだ
街に同じ日に生まれた 二人の娘がいた
二人の娘は同じ日に 二十歳になった(のだ)

posted by fuhito at 16:55| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩Vol.10


1.恋心

君が気まぐれに 振り向くからいけないんだ
僕を思っているわけじゃないって 知りすぎているけど
一抹の期待を持ってしまう
何度も何度も 裏切られ 胸を引き裂かれ
心きしみ 痛み感じぬほどえぐられつくされ

それでも愚かな 我心
それでも愚かな 恋心

抜け出せぬ 無限の地獄
僕の世界で 貴方が大きくなり 一致し
そして僕は貴方の心の一部となった
それなのに それなのに
貴方は僕の胃をよじるばかり

もう何もかも捨てたくなった
あいつに捨てられ こいつに捨てられ
こんなに捨てられちゃ 未来まで捨てたくなるよ

どうせ捨てられ続け 拾ってくれる人もなし
そのたび悲しい思いをする 偽りの世界なら
もう何もかも捨てたくなった

こっちから捨ててやる 大事にしすぎるから
待ちすぎるから 僕の人生なんて
捨てるだけの価値がないのさ

誰も拾っちゃくれやしない
ところで… 僕に捨てられるものがあるのか


2.おぼろ桜

もう散っちまったよ
なんて悲しいだけの 人生なんだろう
桜をはかなく思ったのは 昔のこと
今ではひととき咲ける 桜さえうらやましい
もう枯れちまったよ
なんて寂しいかぎりの 青春なんだろう

早く朝になれ 明るい朝になれ
そして僕を安心させてくれ
明るい光で勇気づけてくれ
暗く静かな夜は耐えがたい
今の僕の心にそっくりだから
目のやり場がない ますますつらい
君の影が おぼろ おぼろ
ああ 情緒的な夜を去れ
希望だけが残る 朝となれ
一刻も早く 一刻も早く


3.うそ

うそつきはいけない
自分にうそをつく子が一番わるいじゃないか


4.虫ケラの心

私の命を託した手紙
待っても 待っても 返事がこない
貴方は まるで虫ケラのように 私を無視する
そんな虫ケラにも これだけ苦しめる心があるのを知って
貴方にとっては他人事 特別の人にならないかぎり

それは人間社会の掟て その地位をめぐって
私は耐えに耐えた もともと報われるなど
思ってはいなかった でも運命って気まぐれなはずだわ
少しぐらい狂っていいはずよ こんなにも正確だなんて

時は流れ 貴方が流れ
私の心も壊れてしまう 壊れない時は
壊れちまったのは 私の心だけ
貴方は今もどこかで笑っている


5.ガラスの向こう

近くて遠いもの ビルの8階
ガラスの向こうに キラめく
僕は小さい時から
思いのままにならぬことはなかった
少なくとも相応の努力があれば
何でもものにできた
ところが 人の心 貴方の心だけは
何ともできなかった
どれほど 愛せばいいのだろう
永遠に見返りのない愛
果てしなく尊い 貴方の愛だからこそ


6.星をおとした

財布が立派で
お金が入っていないと 人は笑うけれど
僕のお腹にも 何も入っていない
財布が 立派なら いいじゃないか

体中に 力がたぎってきた
声をたたきつければ
あの星が おちるような気がした
それで そうした そしたら
本当に 星がおちてしまった

僕はやったとばかり
かなり疲れた体をおこした
そしたら おとしたばかりの星が
光っているじゃないか


7.春風

なぜかしら いつの日か
名簿をさりげなく 見たときかしら
私が あなたの誕生日を覚えたのは

なぜかしら いつの間にか
忘れてしまったはずの 貴方の誕生日が近づくと
私の胸に浮かぶのは…
思い出の匂いをこめすぎた
春の風のせい


8.星をつくる

果てしなく 広い宇宙に
たった一人の私

どこかの星からか さまざまの感情
喜び悲しみ怒りが 星の雫のように飛んでくる
私は寂しさまぎれに それを一つずつ
手が届くかぎり 拾いあつめる
そして 手の中であたため 愛に変え
丸い 丸い 星をつくる
愛が冷めないうちに くるりと回して
今度は どこに置こうかしら


9.四季

貴方は春霞の中
朝つゆ光るレンゲ草を
小さな胸もとにつけてあげた
桜散るとき 手をつなぎ同じ門をくぐった

真夏の灼熱けた太陽下
久々に会えて 浜辺をころげあった
修学旅行は秋の日のもみじが滝に
舞っていたとき 二度見かけた

そして今 白い雪の華やかさに
冷たく凍えそうな 僕の心に
ほのぼの浮かんでくる
取り返しようのない 想い出


10.悪魔と人間

悪魔のおせっかい 哲学者が言った
頭が割れるように痛い 悪魔が言った
ならいっそ割ってやろうか
いやいや そんな気がしただけた

恋愛情熱家が蘇った
胸をえぐられてしまいたい
悪魔――― なら
いっそ剣で刺してやろうか
詩人は興ざめていった
いやいや そんな気がしただけだ

悪魔は結論を下した
人間は耐えられぬ
もうだめだと言いながら
いざ つきつめりゃ
自分で思っているより
はるかに強いんだから 世話ねえや
苦しみをオーバーに楽しんでやがる
恐ろしきものは 人間だ


11.亡霊

一度去ったのは貴方だ 諦めたのは僕だ
徹底的に愛した報いに 傷だらけになり 過酷なまでに
「いやその権利さえも知らず」に痛めつけられ
嗚咽をもらしつづけたのは 僕だけじゃないか
貴方はどこ吹く風とばかりに 僕の横を通り過ぎて
幸せそうに誰かを愛する

僕はどんな女(ひと)をみるときも
その後ろに貴方の亡霊を見てしまう
貴方に対するうしろめたさ
新たに現れる女(ひと)に対する罪悪感
僕が何の罪を犯したであろう
愛は 一回きり使い捨てのものなのか
静まれよ 亡霊 我身より永遠(とわ)に!


12.一瞬

貴方の心は 閉ざされて
僕の入るすきまもない
なら、僕は そのとりでの
命の根を止めてやる

そのとき一瞬 僕は
貴方の意識に入り込むだろう


13.東京

東京にて
東京に行きたいと
思えど(あこがれたく)
東京はあまりに近し
貴方は近くて遠い


14.目覚めたのは日の暮

出かけりゃ
金が要る
腹かすく
だから
僕はまた目を閉じる
やることもなけりゃ
金もない
女もない
行くところもない
あまりあまっているのは
時間だけ
僕が自由に使える
唯一のもの
何もせずにも使える
大切なもの
だから 僕は
最も有効に使うため
また 目をつぶる
下宿 四畳半 秋の風
今日もはや 日が暮れる

やたら生きて
毎日が面白かろう
はずないさ
幸せなんて
道におちている
十円玉のようなもの
探したところで見つかるもんではないさ
歩きつづけりゃ
そのうち 転がっているさ

それでも注意深く
一歩二歩 歩いた方が
見つかるだろうって
ハハハ
そんなことしてりゃ
空から鳥のくそ
落っこちてきて
運よく当たってしまうか
電柱にぶつかるのがオチさ
思いわずらう ひまがあったら
外も歩いてみるのさ
何も考えずにね


12.寂寥

さびしいかい さびしいよ
甘ったれんじゃないよ
人間ほど ごみごみしているものはないね
自分の心を閉ざして
自分でさびしさ分けあっている
何をつっぱっているんだろうね
急に気むずかしくなったり 気落ちしたり
元気をおしたと思えば 気分をこわす
おかしいね おかしいよ

黙っているんだよ 人間ほど
みじめに肩をすぼめているものはいないね
あんまり うらめしそうな目で 
みつめるでないよ
あの野郎にや ろくなものはいないし
関わった日にや ろくなことはないさ


16.子犬

僕がいじめられっこにいじめられ
涙が渇くまでいくとこもなく
公園のまわるのをいったり きたりしていた
うすぎたない 小さな犬が僕の足元に
まつわりついてきた

僕はなんだか 腹がたって
いじめっこになった 子犬をけっとばした
子犬は痛々しげにたちあがりながらも
きょとんと僕を見つめ また よりそってきた

僕が何となし 後ろめたさを覚えたときには
足は前より幾分強く 蹴っていた
でも子犬は逃げなかった
憐れみを乞うように 僕をみつめていた

僕はいじめられっ子に戻っていた
この子犬 僕なんかより
もっともっといじめられてきただろう
いじめることなど知らないだろう

それなのに 何でこんなに
優しい目をしているのだろう
自分の無力を知りつくしているから?

僕は子犬を抱き抱え なでてやった
そのとき やっとわかった
自分を迫害するものさえ 信じ愛し続けた
この子犬は愛すれば
愛されることも 知っていたのだ


17.ビールがまわる

ビールがまわる
テーブルの上に
ビールがまわる

なごやかに 雰囲気は盛り上がり
快楽を妨げるものは
今一時 全て忘れて
幸ある麦酒に口をつける
一気に飲もうと 少しずつ飲もうと
とにかく不幸の解毒剤を
誰も熱心に 飲んでいる

ビールがまわる
ビールがまわる
誰もの体の中を
ビールがまわる


18.世の中

世の中のこと 何もかも
あたりまえに思える
平和な世の中
恵まれた時代

でも世の中は 何もかも
狂っている
あたりまえに見えるだけ
真実 偽りなり

神よ
厳かな
いかわしい衣を着
立派な髪をあごの先まで
とがらして
そんなに先取るなよ


19.青いリンゴ

待ちなさい
そのリンゴをとるのは
まだ青すぎるのです

青いリンゴは とっちゃいけないと
いえ でも そのリンゴは赤くなるまで
待たなければなりません
どうして 赤くなるのかしら

さあさ わかりませんけど
誰かが自分のことを思っていると
若若しい心が敏感に感じとって
耳元まで 真っ赤にそまっていくのでしょう

リンゴも恋するの おかしいね
見せぬ相手に 食べられちゃうのにね


20.白いヴェール

僕の魂はベットを離れ
森を散歩しにいった
ちょっとした気まぐれに
そして そこで出会って
白いヴェールにつつまれた
やさしい微笑の乙女たち

僕らは踊った 夜の盛り
月の光が照明役
星を夜空に散りばめて
森の木々が歌っている
何とも軽い乙女の
足は宵を舞うように
白いヴェールも翻る

風邪になびくその髪は
時たま僕の頻を打つ
やさしくはげしくくすぐったく
細い指は 柔らかに僕の手に添う


21.ヴェールの乙女

ゆらら ゆらら ふんわりと
まるでヴェールを風ですくように
乙女は自由にはねまわる

いつの間にか足もとの大地は消えて
うっそうとした森が下に小さく見える

僕は両手を二人の乙女にひっぱられ
くるくるくるくる踊りながら
天に上る 高く 高く

森の散歩
いつも地上で乙女らの帰るのを
あんぐり見張る役の僕も
とうとう空へ舞いあがった
高く 高く 天に上る
乙女の微笑みの中


22.少女

少女よ そんな目で見つめると
胸の鼓動が あらわに高まり
額に汗がにじんでくる
息はつまり 周りは極度に張りつめた緊張状態
光もお供 一瞬にして消える
さあ 胸一杯にとどろかせよ
ずしんとした鼓動を この体全体 あますことなく
君のまなざしは 放たれた
一片ら思いを逃すことなく


23.無謀

太陽よ
何て赤裸々に燃えるのか
今 落ちようとして
一段と大きさを増した お前の胸に
俺はナイフをつきたてて
その場に止めておきたい
太陽よ 闇の中に放って置かれる
(でも刺さねばならぬ)
俺の悲しみがわかるかい

おお
空のかなたより
我を呼んだ太陽よ
どうしてもお前に会いたくて
無謀にも空に飛びたった
俺は すぐさま海におちた

そしたら何のつもりか
慈悲深い太陽よ
お前は水平線の
果てまで降りてきてくれた

どうしても お前に会いたくて
無謀にも泳ぎつづけた
俺は お前が海に没するやいなや
波にのまれちまった


24.砂

手のひらから
こぼれおちる砂を見て
彼の待人は嘆いた むなくそわるい
いっそ口の中にいれちまえば
素朴で渇いたこの砂が
どれだけ軽いかがわかっただろうに

拷問は続けられた 灼熱の太陽に
僕の体は骨まで ぼろぼろに風化しちまった
砂浜の砂の中には 白い粒があるだろう
光っているのは貝のくだけたもの
鈍く白いのは 去年の夏
泳ぎにきた 僕のなれ果て

海を蹂躙(じゅうりん)していた 僕の目に
ひとしぶきの波が入ってきたとき
僕の体は 丸太になった
波のなすまま 浜にうちあげられ
誰かと思う まもなくさらわれて

波に打ちつけられ
うずまく砂にこすられて
僕の肉体は徐々に 崩れていったのだ


25.祝福

あなたの愛が裏切られたら
あなたは あらん限り
その人を愛すのです

それほど その人にとって
苦しいことはないです
いくら苦しめてもいいのです

愛の名においては
なぜなら 祝福によって
その苦しみは 掬われるものだからです


26.救い

こんなにつのる思い
貴方を見つめてきた僕を
貴方はさっと髪の毛を はなって
他の男の胸の中
そいつがうらやましくも 憎くもないし
あなたを愛する以外の
気持ちはさらさらない
つまるところ 行き場を失った
僕に戻ってくる
何ともはや 最後まで
救われぬ僕


27.漫才師

漫才師の巧みさに
驚嘆よりも 親近感を持つのは
やはり俺もその類か


28.炎

青春の炎は
今にも消えそうに
かぼそく揺れていても
耐えきれそうもない風が
まともにぶつかってきて
消えたと思っても
生きているかぎり
燃えつづけているのです

その内なる光を存じて
僕は生きるのです
あきらめてはなりません
道は果てしないもの
到達できるところまでいくだけです

やりきれぬと思うのは 思うだけ
なんやかんや言っているうちに
すぎてしまうのです

怒りはささらぬ
どこにもささらぬ
我が胸が赤くそまった


29.詩

シッ 詩だ 死だ シダ Cだ
白い風が頬をきりつける
痛みさえ感じぬ僕さ
額に打ちこまれた釘が
少々熱くおびえてきた


30.幻想

月がブラックから 切り出されて
ぶらさがっています
夜空の裏側は
あんなにも 明るいのでしょうか

そういやあ 古びたナベぶたの
穴ばこにもれくる燈は明り
さびしくも 笑っているではありませんか

さてさて 太陽は
元気にやっておりますことやら
聞いたところによりますと
あまりにもっともなこと

昼に生きている人が笑うので
かえって怪しくなりました
ナベぶたを持ちあげる
ちょっとのすきに

大きな手があくまで好意的に
熱い無節操な太陽を
自動温度調節の電源に
取りかえることもありましょう

つらいあまりにまばゆいので
真偽のほどは定かでありませんが
この頃ちょっと調子が悪いみたいで(すね)

だいたいどうでもいいことです
愛を忘れるほど平和なのです

僕とても 凝らした目を妙にやかれて
せっかくの月まで 見られなくなっては
もともこもありませんもの


31.歩く

太い一本道を 僕は手をひかれて
歩いてきた
そして 今 分かれていく

思うがままに行きなさい
ここまで歩んだ
自分の力を信じて
道は途切れても
己の足で固めていきなさい
一歩一歩 命ある限り
力一杯 踏みしめて

僕は声の遠くなる方を振りかえった
誰も いなかった
今歩んできた道さえ 消えていた


32.人蓄無害

僕は君を追いつめた 両手を肩におき
哀願するような目で こういった

なぜ なぜなんだ
そうまでして 僕から逃げるんだ
君はうなだれて 聞いていた
悲しそうにさびしそうに だまっていた

僕も何だか 憐れになって
君よりも僕の方が ずっと憐れだが
声を和らげていった
いったい 僕がなんだというんだ

君にとっちゃ 風みたいなものさ
何の興味もない
害もない


33.ドラマ

君は 自分の胸もとを見つめていた
何か抑えがたい感情を必死に
耐えようとしているように
額に緊張がみなぎっていた
額がかすかにビリビリと ひきつけていた

小さな肩が震えたので 僕は左手をはなし
君のうなじをそっとなぜた
指先に全神経を集中させ
やさしく やさしく なぜた
自分の心の底を 深く深くえぐっていた

君は 哀願するような目をしていた
その口は開く気配もなかった
僕はただ自分の持てるかぎりの感情を
君にそそいだ

君の心の奥底に届けとばかり
君はいったい何とみているのか
沈黙がこの世界から
二人以外のものを抹殺した

君は小さくなったり 大きくなったり
横に広がったと思ったら 線のようになった
ありとあらゆる変化をしながら
やはり不動だった 目を上げようとはしなかった

僕は両手で君の首筋を愛撫した
いや 触れていないほどにだ
君からにじみでている 気をもらすまいとして
君が一瞬目をつむった
そして ワゥーと首を上げ 僕を直視した

その目にはあらゆる感情が 見いだせなかった
ガラス玉のように澄んだ目だった
僕はしずかに背を向けた
今度は君の焦点は あきらかに
僕のうしろで結ばれていた


34.海

海よ なぜ 僕をこばむ
いつかの日のように 僕の体をやさしく
受け入れてくれないのか
僕の嘆き言を黙って聞いてくれないのか
そんなにも激しく 白々とした
波を 僕を 打ち砕こうとする

なぜだ 海よ
君の強さが 悲しく
君の偉大さに 僕は孤独だ
君は永遠だ 僕にとっては―
そうだ この命奪われようとも

君と一体になれれば 何を悔やもう
いや 君はきっと浜辺に
醜い僕の死体を吐きだすだろう
ああ 海よ こんなにも
激しく荒れてこがれているのに


35.酒杯

君を忘れてしまったはずの僕の心が
ときめく女性を じっとみつめると
必ず 君のおもかげがあるのは なぜか
君を思いだすほど
僕は忘れていなかったということ

電話がなった 僕は飛び起きた
しかし 出なかった
運命を左右されたくなかった

酒杯を手にしたまま じっとみていた
水面に貴方の顔がうつった
暗く悲しげな顔だった
僕はゆっくりと口をつけた
そして 貴方の悲しみを飲みほした


36.神の死

神が死んだ いいことじゃないか
悪魔も死んだのだから
否 だから
世の中がつまらなくなったのさ


37.傘

お嬢さん 傘をおさしよ
雨にぬれては なりません
あなたの かよわい純粋な心が
溶けたら どうするのです


38.メロディ

ねぇ メロディ
今日はいやに浮き浮きしてるね
いいことあったの
僕は いつも通りさ
外には何もないよ

ねぇ メロディ
今日は憂鬱になりなよ


39.雨は

自分の生んだ子供に
殺される
なんたるドラマだ
親孝行だ
おかしすぎて
背筋がぞっとする

雨よ そんなに
チタチタと振ってくれるな
こっちまで悲しくなって
寝られないじゃないか
不幸な人間どものように
ザーっと降れ
そしたら こころよく
僕は眠りにつける

詩人だって
死人でたくさんだ
その方がよっぽどましさ


40.焦がれて

詩なんて書きたくない
言葉を並べて 遊んだって
何にもなるものか
でも でも この寂しさを
まぎらわすには
こうして 白い空白を
ぬりつぶしていくしかない
僕の心の空白を

空虚だ
布団でも 抱きしめていりゃ
貴方が忘れられようか
いや この魂の切なる訴えを
ただ ここに 吐き出すのだ
少しは ましになる
少しは 楽になる

君知るや
ここにかなわで
胸こがす

詩なんて書きたくない
言葉を並べて 遊んだって
何にもなるものか
でも でも このさびしさを
まぎらわすには
こうして 白い空白を
ぬりつぶしていくしかない
僕の心の空白を
ああ 空虚だ 人恋しい

ああ 貴方の
ほほえみがほしい
ただ一時
ただ一度
我が胸に


41.待つ

僕は待つ
ただひたすらに
遠く思いうかべる
君を待つ

たとえ君の心に
はや 僕は消えうせ
君が 僕の見知らぬ男を
慕っていたとしても

僕は待つ
ただ ひたすら
遠く思いうかぶ
君を待つ

よしや 君が
僕の心にかなわぬことになろうとも
僕は僕なりに
精一杯己を
君にふさわしく高めていこう


42.感謝

君に会えた
君と過ごせた
君の性に触れられることができた
これだけで 僕は
生まれてきたかいがあった
これだけで 僕は
天に感謝せずにおれない

それにもました
ああ この世に君が生きている
同じ東京の空の下
同じ時代
同じ空気をすって
君が生きている
何と すばらしいことなのか
ありがとうよ ありがとう
僕の心の中で
永遠の神となって
君は生きつづける
僕の全ての行動の
規範となる

ああ これ以上 望むまい
迷惑はかけまい
君には君の人生がある
君には君の幸せがある
それが僕に一致せぬからって
何を恨もうか
これほど愛しているからに


43.とほほ・・・

僕の世俗に油ぎった心が
あまりの泥くささに嫌気がさし
ときたま そこから すっきりと
清浄になるとき
僕の心の中に
いつしれぬ 舌をただよわせ
浮かびあがっているのは
貴方――――
二度と人など愛すまいと
あれほど思わせた
その貴方が今も
僕の最も 深い所にいて
僕が最も高まったときに
必ず出てくるとは
とほほ……


44.主人公

なるほど
こういった悲劇の主人公になれるのは
古来 万人の有する権利だなと いってみたり
それにしても 俺のは 全く異例だ
失恋の上に失意重ね それでいて
さらに 失意しようとしている
同じ相手になどと思ってみたりしている
万一も報いられる確かなことへの
努力ほど哀れにて
美しきものはあるまいよ
悲しきことはあるまいよ
自分をやめたくなるほどにつらいものよ
奔走すればするほど 早く破綻がくる
まあ ゆっくり いこうよ
ととりなしても おさまらぬ心
片恋は 破れたのちまでつらいものよ


45.恋と友情

僕は最も高価な悪をしてしまった
僕の全存在を賭けて張った
かなう見込みのまったくないものに
ちょっとした心の気まぐれから
目を向けたのは あまりに僕の罪だった

うわべをつくろい つくろい
悪を隠し 有益な友情の名のもとに
たとえ どうなろうと近づけになれればと
知ってのことだった

真実は いつか日の出を見る
僕は 恋と友情の間で苦しんだ
自分にも どうだかわからなくなった
人生において 恋を超越するもの
たがいを高めあうものがあったから
僕はその名のもとに恋した
貴方も その名のもとに僕を恋した
そして 又 うわべたけのつきあいがあった

そうこうしているうち
貴方は僕の内面を食しはじめた
僕の真理そのものに化け
僕をあやつりはじめた

そして 本音の貴方は
僕を冷めたしつきはなした
ああ こんなことがあろうか
貴方に指一本ふれられず
それどころか 姿も見られず
僕の心は そのままに動かされている
恋はむくわれまい
しかし 僕はその恋の名において
生きねばならぬ 逃れられやしない


46.信じること!

信じている
心の底から信じている
だから 待つ
待ちつづけている
それがつらいのは
なぜか
僕の心の庭が
貴方が入ってくるのに
ふさわしいほど
清められていないからだ
信じている
永遠の真理よ
僕は精一杯 心の庭を
掃き清めて
一日たりとも怠らず
歳月は ますます 貴方を
遠くやってしまうようだが
僕が 真っすぐ地平線を
みつめているかぎり
貴方がこちらに
歩んでくる日がきっとくる
だから待つ
どんなにつらくとも
愛する価値が
あるかなんて
愚問だ
僕の心ほど僕にとって
真実のものはない
理性よくもらすな
僕のあの人を


47.美しいねえ

貴方という 精神の支柱があるため
僕はどんなにか 強く生きられることか
僕らは二人でいても
互いに一人ぼっちだったけど
別れてみたら いつも二人だ
余計なものが全てとれちまって
ただ純なる二つの魂が
たがいに触れあう
美しいね ええ
貴方は この僕の幸せに
もはや気づかぬだろう

恋する気持ちを
昇華してみても
根底に流るる 木なる思いは
なんともなりゃせぬ


48.恋死

君から返信がきた
やはり 君は それだけの人だった
僕の心にメスを入れ
ひどくうすく
貴方を思う心を 切りとったら
僕の生も止まった


49.ロバと少女

少女がロバにのって
原っぱに行った
花畑をみると少女は
ロバから降りて こういった
私が戻ってくるまで
ここから 一歩も
動いちゃだめよ

そして 少女は
かけていった
遠く 遠くまで
かけていった

日が暮れた
少女は帰らなかった
ロバは忠実に
命令を守った

少女が天の国について
まもなく ロバも少女のところに
たどりついた
少女はいった
だめじゃないの
じっとしているって
いったじゃない


50.どんぐり

おや おや
どんぐりを拾いあつめているのは
子供たちじゃないか
どんぐりがころんころんと
気高い木から 落ちてくる
風にゆれるたびに
ころんころんと
これほどがっちりした木にも
悲しい心があるのだろう
涙の粒を拾っているのは
子供達
笑っている 笑っている


51.背中のかご

人間は歩いた
背中に大きなかごをしょって
一歩一歩 めざとく 
自分のためになるものはないかと歩き
見つけるやいなや
何でも 背中のかごに入れた

振り返ることもせず
休みもとらず
ただ ひたすら入れつづけた

まだまだかごに入ると思っていたとき
かごはもはや いっぱいで
形はゆがんでいた

それも知らず
重いことはいやというほど
体に感じていながら
人間はかごに入れるのをやめなかった
そして 今 かごに押しつぶされ
もがいている人間


52.戻りなさい

雲のむこうには
何があるって?
そう 明日の世界が
あるのですよ
朝霞の中に
昨日はうもれてしまうのですよ

いいかげんに
道に戻ったらどうです
そんなあぜ(道)からでは
人の横顔しか見えませんよ


53.Last Voyage

船長は 港を歩いていた
つかの間の 地のあたたかさを
たしかめるかのように
波上できたえられた
強じんは足で 歩いていた

船長の足どりには 何の無駄もなかった
一歩一歩が 意味を持っていた
そして 歩いた
距離だけ 確実に 船に
近づくのだった

船長はすごく落ち着いていた
海の男の持つ荒々しさを秘めた

顔はときとして 非常なまでに優美であった
自分の船を 見るとき
船長の胸に情熱は
最高潮に高まるのであった

潮の香りが強くなった
船長はたばこに火をつけ 一服吸った
この短いたばこが捨てられるのは
沖を出たところであろうか

太洋に浮かぶ 一本の吸いかすも
この船も何の変わりがあるだろう
巨大なる海に無力なのだ
ただ 海の意のままになるか
それを逃れるかだけなのだ

沖合でタバコの吸殻は 大海におちた
大きな波がそれをのみこんだ


54.モーゼ

僕の前に海はさけた
天は命令した
迫ってみなさい 一人で
ふりかえってはなりません
貴方には 向こうにいきつくだけの
生命しかありません

左右の壁に
幾多の先人たちの魂が
この道を歩み
力尽き没した
魂が
見守ってくれます
歴史が
貴方をささえてくれるでしょう


55.罠

うさぎは 穴をみつけた
まわりからのぞいていた
真っ暗なので見えなかった
折しも地上の生活に
おびやかされ びくついている
うさぎであった
よくよく考えた末
そこに飛び込んだ


56.少女と花

少女よ
摘んでいる花に 小さな顔を近づけ
陶酔する少女

それは自然がつくった
造花なのだ

あまり近寄ってはいけない
酔うほど 苦しくなる
大人になることは

少女よ
いっそう その花のトゲにさされて
眠ってしまえ 永遠に
その顔のまま


57.釣り

つり針を胃袋の中にたらして
僕をひっかけようとした
「えさ」はいらぬ
罠もいらぬ
貪欲きわまる奴だから
やたら 変なものが
次から次へと釣れた
僕によく似たものもある
さして 値打ちのないものばかりだ
よく これだけくだらぬものが
泳いでいるものだ といいながら
ずいぶん釣りまくった

そして最後に 僕が釣れた
今までのものの中で
最も貧弱なものだった


58.夜の宴

底冷えのする こんな夜は
貴方と両手を組みあわせ
ゆっくりと談笑したいです

もう おやすみになりましたか
お月様が湯上りのように
ぽーっと艶美ですよ
静かです

僕の一言が
闇をいともたやすく切って
貴方の耳に入りそうな
気もするんですよ

だって ほらね
貴方の寝息が 僕には
聞こえるんですよ
貴方に会いに行きましょう

眠るには惜しい夜だけど
貴方はきっと待っておられる
眠るには惜しい夜だから


59.出会いと別れ

初めて通りかかったときは
まだつぼみだった
さして 気にもとめなかった
それがいつからだろう
一挙一同に僕の全神経が
否応なく配られ

毎日 君を見ないと安心できなくなったのは
君は 全く気づかなかっただろう
君は そんなにも自分を見ている
熱い視線がうとましかった

君は 何よりも自由に生きたがっていた
君は 愛というものを全く知らなかった
僕は そんな君を忘れようとした
忘れたつもりだった

しかし 君は
僕の意識の中で開花した
何よりも美しく匂わしく

そして 僕は その幻影に恋をした
あまりに清らかな恋だった
精神の最も崇高なるところの恋だった
真理への思慕だった

そんなある日
僕は何気なしに
思い出の道を歩いていた
そして 思い出の場所に
見つけたのは

今にも 花開こうとしている
君だった
君自身だった

君は自由を貫いていた
君は愛することを
愛されること以上に
知っていた

しかし君は 真理を知るには
あまりに 幼かった
君は僕を愛するには
あまりに 純真すぎた

君を愛している 誰よりも
だからこそ僕は
君を摘みたくはない
僕は静かに 立ち去った


60.レンゲの首飾り

まわるよ まわるよ
水車がまわる

ながるる ながるる
レンゲの首飾り
それが欲しいと
あなたが笑う

ながるる ながるる
レンゲの首飾り
それが欲しいと
あなたが笑う


61.流れていった

日の光とともに
くみあげられた
キラリと光った
まぶしい 見失ったよ
川下に流れていると
あなたが手をひく
かなり足らない棒をもって
僕と追う

苔が輝いている
あぶないわ
それなら 僕が支えていよう

君に棒をわたす
僕は自分の力が
足ることを信ず
貴方は僕の力を
信じればいい

あっ 行っちまった
いいのさ いいのさ
あのままどこか
旅になっていくから
僕らはにぎりあった
手を見つめていた


62.砂地獄

砂がまわりから くずれてくる
生き埋めか
首だけ出して
誰もが笑っている

目覚ましを壁にぶつけた
時間はとまった
壁はやぶれたが
ひびも入っちゃいない

そうさ 天に太陽はみえるさ
夜には、月もみえるさ
わかりきっているって
見たことあるのかい
それでいて笑っているのかい

平和な奴だよ
そのまま 頭まで埋もれるものも
運命か それさえ 考えまい
毎日流れてきたように
流れていくんだろうな
ああ いやだ いやだ
ぬけだそうとすればするほど
もがきくるしむ
砂地獄


63.3つの宝

若さ 若さ 若さ 若さ
情熱 情熱 情熱
愛情 愛情
これだけだ
これ以上何を望もう
これを充分使いきったとき
何かが生まれる
これを充分使いきらなかったら
僕は大切なものを失う
維持や保守 そんなものはない
貪欲に得るか
堕して失うか
二者択一だ
時の流れは道だ
失うなら 流れに身をまかせればよい
上限に辿りつくには
全力で一瞬の融予もない
1年の努力が1日で流れる

だからこそ尊い聖域だ
ゆけ 何もなくてよい
あふれるほど おまえは
三つのものを待っている
だけじゃないか


64.傘

あなたの傘に 雪がふりつもる
あなたの赤く かじかんだ手は
しっかり しっかりとにぎっている
心の底まで凍てついて
あなたの目にもはや
熱はたぎっていない

僕に傘をお渡しよ


65.ピアニスト

あなたは あなたの
キャシャな手のかもしだす
ピアノの音に
あなたは酔い
天に舞う
天に舞う
待ってくれ
置いていかないでくれ
あなたはそんな声を
聞く耳も持たない

僕は精霊を
あおるだけ
それだけ あなたが遠くなる
みつめているより 他はない

調律師 人生のゆがみをなくす
されとて 弾かれるか
このピアノ


66.舞台

所詮 舞台の上さ
いかに演じるかだよ
神々の観客を楽しませる
奇抜な独特な演技がうけるのさ
役者になったって
小道具になったって
横たわっておれるかよ
主役もいれば 脇役も
エキストラもいるさ

各々にとっちゃ自分が主人公さ
自分を精一杯演じるのさ
聴衆は素直な奴には寛容さ
害はない

それを 何を早とちりしてか
観客の望まぬ演技をしたがる奴がいる
そんな奴は早めに手をひかれ
あがきゃ 幕のうらに引きずりこまれる
観客席に落ちるのさ
よかれあしかれ、上演時間内は
定まっている 筋書きはないのさ
つまらなくなれば 降ろされる
そのときまで 精一杯演じるのさ
神々のひまつぶし
とんだ迷惑なひまつぶし
時間も空間も限られた
悲劇も喜劇も思うがまま
おもしろければ それでよし


67.切符

自動販売機に
コインを入れると
切符がでてくる
行きたいところに
行ける切符だ

帰りは帰り
その駅の
自動販売機に
コインを入れると
切符がでてくる

僕は朝70円の
切符を買い
夕方70円の
切符で帰ってくる
財布の中の全ての
わずかなコインで
切符が手に入る

何の変哲もない―――
ある日の帰り
僕の財布には
70円しか入っていなかった
よくあることさ
70円が問題だ

僕は、何の疑いもなく
自動販売機に
70円を入れた
70円をくった
自動販売機は
肝心の仕事を
サボタージュした

事態の深さが
しだいにのめてきた
僕はメシにもありつけず
やみは暮れていく
歴史の流れにとりのこされ
荒野の無人島
歩けども 歩けども
線路は長く まっすぐ

そうしたうちに
疲れちまって
線路と並んで
寝ちまった


68.待ち伏せ

門の前で僕は待っていた
今日こそ貴方をつかまえて
僕の愛をうちあけようと

押さえきれぬ情熱は
理性をつきとばし
日の出前の
貴方の家の木立に
僕を押し出した

冷たい夜露も
僕の情熱の焼け石に水
不気味なこうもりの忠告も
僕には 馬の耳に念仏
貴方が安らかに眠っている
あの二階の窓を
僕の思いは遂げねども
月夜の光は入らない

太陽を何とかつりだして
空をこんなにあかるくしたのに
静寂はやぶれず
白々した空が 僕に
羞恥心をうえつけた
それでも何だかやけくそぎみに
今日こそと 僕は待っていた

そのとき そんな僕をからかうように
美しく大きな蝶が貴方の家から出てきた
僕は何だかしらないけれど
何もかも忘れて
その蝶を追いかけて行った

そうして 広い広い原っぱで
蝶を見失ってしまった
急いで帰った僕の目に
映ったのは
貴方が とある男と
歩いていくところだった


69.詩人

どれほどの待人だって
生きつづけることはできなかったからって
人生誰しも死ぬとは限らない

生きることだけ専らにやっていりゃ
その道で飯が食えるさ
生きつづけられるだけで
何にも増して偉人さ
それほどの偉人がでなかっただけさ

人をたくさん殺したり だましたり
ありとあらゆる 欲望を露わにしてきた
ちっぽけな偉人達

いや 偉人はいたかもしれない
それほどの偉人なら
こんなゴミ箱の中で暮らさないからな
ひっそりと月の世界にでも
別居しているのさ


70.小石

よけいなことばかりして
失恋しちまった
腹立ちまぎれに
蹴った小石が転げて
道端のこまれた小石によりそった
またよけいなことしちまった


71.なびけ

隣にすわっている 君の髪が
気まぐれな風のおかげで
僕の方になびいた
なびけよ なびけ
君の心を
僕の方になびかせろ
気まぐれなものよ
やってこい
やってこい


72.痛み

幼い日の僕は
痛くない 痛くないという
言葉の魔術で
精神的な痛みはおろか
肉体的な痛みも
忘れることができた

それが恋したころから
精神的な感覚は
肉体的な感覚になり
ずっと深くなってしまったのか

恋という甘美な魔物が
胸の内部からえぐる痛みといったら
サーベルで何突きしようが
比べものにならない


73.浜辺にて

灼熱の太陽よ
我身を息づかせ
焼けた砂よ
あますとこなく
精気を奪え
骨も皮も残すな
魂だけに
純化せしめよ


74.こぼれ言の葉(1)

私の目は魚の目
海の幸をとりこぼす

さてさて 人魚たち
いるなら
お返事してごらん

教授殿
教皇一つ手中に
おさめられずに

研究だ 論文だ
教授とは
よく言ったもんだ

momoe
百恵ちゃんの
ステージを
今こそ 見習たまえ

ごきぶりよ
一人者を気取るのはいいが、
えじきになりたくなきゃ
団結してやってこい

恋人よ それが本当なら
恋人という
プラカードをあげる必要があろうか


75.こぼれ言の葉(2)

泳げない飢えた猫が
水面で呼吸しなきゃいけない
金魚をじっと見ている

真昼の池の
戦闘極まる刺しの勝負

エメラルドの海に
サファイアのうねり

あれ あれ
浮かんでいるのは
雲母の帆掛け
悲しくて 真珠の小船
海に沈んでいるのは
いつも石ころ

人生のまさつ
あんなにも
神神しく

臨終
白い布(きれ)をのけてください
息ができません
魂が上っていかれません
微笑んでいてもやりきれません

はげ
光沢に刻まれた歴史

二十歳
無邪気な十年のあと
無意味な十年がすぎ
それを意味付ける年月となった

帰郷
郷愁
怪物君
サンダーバード
鉄腕アトム
鉄人28号

灰色の時代が過ぎ
黒い時代が過ぎ
ねずみ色の時代が過ぎ
いぶし銀の時代が過ぎ
白い時代がやってきた
白―何と恐しかと
このカマトト

淋しさ





76.救い

崖の上に立った
人生の底を見た
気が狂った
それで飛び込まなかった

花を切ろうとむしろうと
踏みつけようと
かまいませんけど
二輪だけ残しなさい
さもなくば
一輪も残さぬように


77.リンゴ

僕がキリリと絞った矢は
天使の食べていたリンゴに
あたったものだから おどろいた
天使は真っ逆さま 枝から落としてしまった
ずいぶんリンゴを食べてやがったな


78.別れ

手紙の最後に
サヨウナラと
書いたのを
貴方は好意的に
解釈しちまった


79.眠らない男

眠ってしまった夜の街を
眠れない男が歩いていた

一日の歴史を静かに閉じた街で
そこからはみだした男一人が
明日こそきっと尋常の生活に
戻ると思いつづけながらも
ここまできたからには

よくよく ウマがあわない人だと
このごろやけに悟りが早くなって
眠らない男になっていった


80.風

からっ風
砂ぼこり 砂塵
味っけない
枯葉が舞う

誰もが通った白い小路を今
行くのは誰
時の悠久なる流れの中に
空間の限りなき孤独の中に

若い力をうたったのは
まだ若さをさずかる以前

そう 十幾つのころから
今 二十にいたるまで
思い出すことはなかった
頭の遠いところに
残っていたのか ぼやけながらも
わけも分からず 歌っていた

無垢の日々が
ようやく今 形をとりはじめる
まるで空白だった
青春をうずめるかのように


81.日本の国の行方

日本がうすっぺらになって
突風で裏返ってから
ボロボロの 日本をつくって
詩人は唱いつづけた

ガッシリとコンクリートで固められ
堅固になっちまった
日本はあぐらをかいている
揺れ動く大海に目もくれず
鼻をつきだしている

さり気なく 詩人は唱うのをやめた
無知なる ここの恐ろしさは
強がりより 傲慢の比でない
過ちは くり返されるのか

今度はもっとさり気なく
それだけに恐ろしい カチカチの日本が
こっぱみじんになっちまう
静かに 静かに
外圧と内圧が不自然に
加わっている

人の噂も75日の
情熱的に浅薄な国
何ら不自由のない
わがまま勝手な
解放されたものが
自由を主張するとき
国は滅びる


82.備え

熊や虎
キツネやタヌキが
やぶから じっと見ている
ネズミは 有頂天
大きな敵のいることをしっていても
いざとなりゃ
少々わけりゃなんとかなると
米粒をたくわえて
かじっていた
そして やっぱり
飢餓がやってきた


83.こぼれ言の葉(3)

疲れてるんだよ
まずともかく 眠りなよ
朝は必ずくるものだから

成功?
失敗?
所詮 完成のない人間の
身勝手な価値判断さ

寺の鐘の音は
一つ一つ 違うのです
そして それを聞く 人間も
一人一人 違うのです
なのに 人の心には
ものしずかな清浄の光が
さしこむのです

顔をおふきよ
今日こそ 僕のタオルで
涙をおふきよ
今日は 僕のハンカチで

じゃ このからっぽの頭でも
浸かればそれなりに
いいだしがでるものさ

レモン哀歌
太陽が口付けする
Sun Kiss と

気がのらないこともあるものです
そのときは何もかも
放っぽりだして
新たに霊感のよみ
帰るときも待ちなさい
早まってはなりません
結論を下してはなりません
落ち着いてみれば
わかっていることだから


84.認める

認めなきや
認めなきや

人を人と認めなきゃ
貴方がたとえ
奈落の底まで
落ちてしまっても
僕は愛の名においてでなくて
人間の名において
貴方も両手でつつまなきゃ

認めなきゃ
認めなきゃ

愛は ただのエゴ
貴方を幸せにする前に
目の前の人々皆に
手をさしのべるんだ

どんな人も
生きている
つっぱりは捨てよう

現実逃避だって
どこへ行っても
現実は立ちふさがる
飛び越えるしかない
限りなき なわとび

疲れたなあ
生きたもんな

実行するかしないか
所詮それだけの差


85.夢

よくよく考えてみれば
やっぱりあれは 夢だった
そんなにうまくいくものかと
いつも いつも 思っていた

それがまた あまりにうまく
いったものだから
一ペンにばれちまった
それでいながら

思いやしなかった
いつも夢だと気づいたとき
目がさめて それっきり
朝まであなたを 恋したい

そんなくりかえし―――
どうやらやっとかしこくなって
僕は眠りつづけた
朝までずっと あなたがそばにいた

そして もしやと思った瞬間
わかっちまった
よくよく考えてみりゃ
やっぱりあれは 夢だった


86.安息

ああ 今夜も僕を寝かせぬものは何か
人は努力するかぎり迷うものだって
それなら 努力もやめたいな
僕が欲しているのは 安息
僕を駆り立てる 生の意匠
安息は遠い遠いとこに 横たわって
僕は横目で誘っている
ああ 何と魅力に富んだ輝きか

ああ 今日も僕はこの苦しみに
耐えねばならぬ 夜明けまで
若さが不死身である間
頭は体を休めやしない
それが体に悪いことだと知っての上で
安息との距離がいとわしい
遠ざかれば苦しみ
近づけば 若さが反発する

いっそ覆い隠せないものか
否 僕の努力もまた
安息すべき位置を求めんがため
ありうるものだから


87.I’m dream

夢の中で 僕は幼児に憧れる
悪に怒り正義にありたいと願い
ちょっとしたことに 感激の涙を流す
誰に気がねすることなく 自分も生き
正しく思ったことは 行動にうつす
でも こんなときもある
臆病で無気力でぼんやりと
夢見ようとしているとき


88.めがね

僕がめがねをかけた
君は笑った
カラカラと
僕はめがねをはずした
君はまた笑っていた
カラカラカラと
posted by fuhito at 16:55| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩Vol.11


1.月影

あなたは月を見るのが好きでしたね
だから 今宵もどこかで見ているでしょう
だって 今宵はこんなに美しいんですもの

あなたは月しか見ない人でしたね
夜空の満天の星を従えて、ひときわ大きく輝く月
そう あなたもまた 月のような人だったから

あなたは考えたこともないでしょうね
月にうつったあなたをいつも見ている男が
ここにいるってことをね

あなたは月を見るのが好きでしたね
だから 今宵もどこかで見ているでしょう
だから 僕も見ているんですよ


2.影との至福(1)

田園のエキスを
腹底に吸ったとたん
背後に音がした

降り返ったはずみで
落とした目に醜悪な
影がゆれていた
表むき、影は闇にまぎれたらしい

あからさまに 僕が 現れた
誰もいないうちには虚像に過ぎぬと
思っていたから油断した

僕はたばこをとりだした
ポカポカとやった煙が
どうしたことだ おちていく
何たることだ どろんと
ふくれた影の口に入っただけじゃない
おまけにうまそうに笑いやがった

それからだ
僕はそいつの下僕となった
それからの僕は概して幸福だった

休暇があけ
都会の不夜城の照明に
主人はあっけなく果てた

そして 又、いつの間にか
散歩の伴侶に
ふさわしいスマートな影が
へつらった

深呼吸をする
ときに僕は 何かを感じる
だが 彼の呼吸は聞こえるわけもない
僕は主人を失い 従僕を従えて
いつもどこに行こうか
頭を悩ますのだった


3.影との至福(2)

田舎のエキスを吸ったとたん
背後でカサッと音がした
降り返ったはずみにおとした
影があった
二つあった

僕は日かげに逃走した

表の影はしかるべくして
闇にまぎれこんだ
でも、どうしたことだ
愚鈍で醜悪極まる影、もう一つ、どろんと
灰色のアメーバよろしくゆらめいている
僕は人目をはばかった
大丈夫だ 大丈夫
誰もいやしまい
この影は虚妄だ

そして足先から
そっと日なたにでた
表向きの影は裏切って逃げた
とたんに、あからさまに僕が現れた
戦慄が走った

僕は、たばこをとりだした
ポカポカとやった煙が
どうしたことだ おちていく
何たることだ
憎々しげな影の口に
吸いこまれていった
おまけにうまそうに笑いやがった

なるべきもんはなるべくなるもんで
そのときより 僕はそいつの下僕となった
(概して幸せだった)
それから一か月も経たず、
都会の照明を浴びた主人は
八つ裂きになって死んだ

天気のよい日にはチャンとした
昔からの影が散歩の供をする
ときに嫌気がさし
僕は気配を伺う
彼を求める
しかし、わかるはずもない
影なのだから


4.冬の海

海よ、なぜ 僕を拒む
夏の夜のように僕の全身(からだ)を
やさしく受け入れてくれないのか
そして、叩きのめされた
僕の精神を清めてくれないのか

そんなにも激しく、怒りを隠しきれぬ
怒涛のごとき 波を振りあげ
近よる 僕を打ち砕こうとする
なぜだ、海よ やっとたどりついたのに
おまえの強さが悲しい
おまえの偉大さに僕は孤独だ

おまえは永遠だ
――僕にとっては
海よ 僕を生みし、太古の母の血をひくもの
そして今もなお 僕の愛する可憐な乙女よ
僕はおまえの中に還りたい
よしんば命失おうとも
おまえの生命の中で生きていたい

しかし、僕にはわかりすぎている
おまえは、きっと浜辺に
醜い僕の死体を吐きだすだろう

僕は浜辺をあとにする そしてまた近くに立つ
ああ、海よ
遠くで見るおまえは何とやさしく美しい
今、おまえはいったい何を思う


5.MY ETERNAL IDEA

わかりますか
僕にはわかりません
真理に僕が呼びかけるとき
真理はいつも貴方の形をとって現れるのです
まるで神というもののように(女神ではない)

昔の貴方達の生き方に対する怨念が
亡霊としてとりついているのでしょうか
だから貴方は貴方でよいもの
(きっと絶対的なものでしょう)なのに
永遠に僕から去らぬのです
観念の世界でです

そのイデアはなにか―
その至高点において僕は現実の貴方の可能性
引きだせば延びるものの存在を信じてます
それゆえ貴方に寛容で過酷なのです
ますますわからないのです
僕にとっての貴方か
前世の緑でもあるのでしょうか


6.ヴイヨンの日

あれは、遠い日の芝居
茶色の教室
名うてのピエロが当てられた

あわてて立ち上がったピエロの
落とした目は
真白のノオト

あまりにこもれ陽やさしくて
皆が背まるめいそしむとき
秋空に心たくしたピエロだった

真人間になることを強いられたピエロは
起死回生と持ち前の才分で
即興を試してみた

ピエロの朗読は終わり
評価待たずに爆笑の渦に沈没し
ポカンと浮かびあがったピエロは
大きなうねりに
反射的に興じて逃げ切った

あれは、遠い日の芝居
茶色の教室


7.徒競走

ピストルのなる前
得意だったか
ピストルがなって
走っていたか
テープを切って
走らされていたか
商品をもらって
踊らされていたか


8.処女星

天上はるかに輝いていた
清なる気高い星に
僕はのぼろうとした
あわよくば手をのばし
自分の胸のワッペンにしようとした
純粋すぎる処女は
愛されることを知らなかった
僕は、地上に目を落とし 生活した
消えたはずのその星は
今も天上はるかに輝いていた
僕は持てるかぎりの真心をもって
それを見つめた
あんなに遠いところだけれど(だけに)
輝いているかぎり
星は僕の心の分だけ美しくなった


9.あなたは僕の胃袋で

余さず消化され
偉大なる戦士の勲章をはぎ
戦場を後にした

貴方は後方で待っている
あなたにとっては
無意味でしかない戦いから抜け
僕にとってのやすらぎの場である
貴方に帰ることを

されども、魂の慟哭に僕は
貴方の生気をくみつくして
前に進む

よしや、貴方の姿が遠くなろうとも
貴方にふさわしい僕は
第一線におろくをさらしている


10.ジュテーム

あなたはふらんす語を練習する
ジュテーム ジュテーム ジュテーム
あなたはりゅうちょうに
ふらんす語を活かそうとする
あなたはまだまだ感情をこめることを知らない
そして、それだけが
僕に安堵を与える

あなたはどこを見てつぶやくのか
ジュテーム ジュテーム ジュテーム
あなたがりゅうちょうにそれを
活かせるようになったとき
僕はあなたにこういおう
オーヴァ 私のアムール


11.光求めて

暗い冷たい地底を 僕は堀ゆく
気まぐれに目にとびこんだ
せまい音の入り口
僕はその張りつめた冷気にあくがれ
(地上はなまぬるくはき気をもよおした)
太陽を否定し 上つばりの幸せをはぎ捨て
飛び込んだのだ

このまま埋もれてしまうにしろ
僕は僕の思うがまま できるかぎり進む
それを持続させうる情熱だけは 燃えてくれ
光は見えるか 否
光は見えるか 否
とんでもない誤りだったかもしれない
しかし、これこそ人生だ
光求めて進む 進めるかぎり


12.不在

あなたはとっても気まぐれだ
ころよい返事をしておいて
相手の心をころころまわし
喜び返すまもなく 心を閉ざす
あなたは言ったじゃないか
僕と話していたいって
だから、そうすることにしたんじゃないか

そうしたとたん あなたの心は上の空
僕なんぞからずっと離れりゃ 一人ぼっち
いい加減におしじゃないか
あなたはとっても気まぐれだ
その気まぐれにつきあうしか
能のない男にとっちゃたまらない
不感であるほどに ありがたいもんだから


13.さまよう

街通りひそやかに
店 目くばせに閉じ
冷気たなびく 黒の道
腹 背に張りつき
足 くびれた鉄に

ゆくあてなく
それでも寒耐えずして
さまよわねばならぬ
この身呪わしや

のと奥から魂を吐き出し
いたく踏みつける

あなたは笑ったか
さりとて今は何になろう
かこの灯に小便をかけちまった
今さら それがなめられようか

汚れた天使 消え去れ
わずらった脳を洗い流せ


14.悲恋

自己を投棄した愛は
春の陽を賛歌しながら
過酷なまでに身をもだえる
残雪の白さよ

ちぎれる運命の直視を
躊躇しなかった愛は
汚された大地を清浄する

報われることを伺う
望まなかった愛は
雪溶け水の(と) 屈託なさよ

僕だけが見いだした貴方を
精一杯高めようと
僕は己の心臓を突き刺してきた

唯一貴方の幸福に
帰する純潔さを認識するに
悲恋ほど美しいものもなかった

したたる一滴一滴の血が
貴方の純潔な魂をより純化させる
悲恋という名の結晶作用
だがそろそろ 血もかれてきた


15.溶接

白い布(きれ)をのけてください
苦しくて息ができません
魂が上がっていかれません
微笑んでいてもやりきれません

白い布はわずかにも動かなかった
僕の知っているあなたは
動かずにいられなかった
はしゃぎまわっていた
思い出があまりに重すぎ若すぎて

この世に別れを告げるのに
作り笑いをしいられた
白い布をのけてください
朝の空気が吸いたいのです
今一度胸の奥まで吸い込んで
上っていきたいのです

白い布が(おせっかいな風に)半分身をおこした
僕の知っているあなたは
あまりに静かに眠っていた
遠く遠くで鐘が低くなった(ひびいてきた)
顔が隠れた

あなたはようやく天使にひかれ 地をけった
舞い上がれなかった 悲しみという名の
白い布を残して

僕は白い布をそっと
ポケットの奥深く入れた


16.溶接U

貴方がつぶやいている
白い布(きれ)をのけてください
苦しくて息ができません
魂が上がっていかれません
微笑んでいてもやりきれません

僕がのけてやろう、白い布を
ほら、こんなにも安らかに
あなたは眠りについた
誰よりもはしゃいで 思い出をつくりすぎた
一生かかってささげる愛を
すべて捧げつくしちまったばかりに
こんなにも若く 神のごひいきにあっちまった

何も気にすることはない
白い布は僕が処分するから
あなたは 生きぬいた明るさだけをもっていけ
天使とたわむれながら 地をけっておいき
あなたに白い布は似合わない
僕には 幸せなあなたしかいない


17.時のはざまで

僕はできるかぎり愛情を捧げて
さぞや美しいあの花を咲かせよう
咲いたとき太陽の方を向き
日陰に目をくれなかろうとも
僕は無償の愛情を捧げよう
そして 後ろから 黙って見ていよう
何も求めてはいけない
どんなささいな見返りも

僕はもてるかぎりの優しさで
希望の輝きを 高く高く持ちあげよう。
ああ無情なる時の流れ うつろい
できることなら 永遠に咲かないで
いてほしいという願いのむなしさよ!
咲いたら散ってゆくのだから

咲かないうちは 誰もつむまい
咲かないうちは、枯れることもあるまい
健全なる成長する姿だけを見ていたい
時は流れねばならぬ
されども されども 流れてはならぬ

わがはぐくみし
思いのきみ
美しく咲き誇れと
いつくしみて
摘まれんことを
嘆くとも
時の流れ
いかんともするかたなし


18.鼓動

恋ふかき思いの中のまたそこに
浮きては沈む あこがれの君

海よ お前には何でも話してきた
その大らかな広さと愛にあふれた深さに
僕の悲しみはあますところなく受け入れられ
白い波と清められた

されとて この思いばかりはどうしよう
あまりに重く魂の底に沈み重なってしまって
とても口までのぼってこれやしない
ああ 僕は骨の髄から恋の病にむしばまれ
かの女(ひと)への思いを固めこめて
生をつないでいるようなものだ

ぐさりと心臓を一突きしたら
海よ おまえの美しき青さとて
どす暗い赤に一変するだろう


19.捧げる

貴方を目の中に入れた日から
僕の目は貴方のものとなった
街ゆく美しき乙女子は
透明な顔でけげんそうに
通りすぎるだけだ

貴方を腕の中に感じとめた日から
僕の手は貴方のものとなった
美しき花びらをやさしくなぜ
頬づえをついたりする


20.Love is Blue

憂うつさにこれほど楽しくひたれるのは
恋の果実のあまくとろけるささやき
かの人以外何も見えなくなって
しまいには恋にかの人まで見失ってしまう
気づいたときは いつも一人ぼっちで
咲ってしまった花びらを数えているのだ
それはわびしく人の目にうつろう
ただ 本人はいたって真剣で
思いのほか楽しいのだ
悲恋にして終わった恋のみ
美しい押し花となるのだ


21.In The Street

酔ったふりしただけさ
ちっとも酔っちゃいなかったんだ
そんなにも俺 飲んじゃいないさ
飲めないさ
本音 叶きあって
おまえの本音に 俺の本音
俺 嘘はつかなかった
ただ 叶かなったのさ


22.崩壊する

僕は疲れてしまった
右手も左手も伸ばしすぎたため
右足も左足も抜けて
空中分解しちまった

頭だけやたら重くなって
支えきれずに背骨が
折れちまった

荒い土をかりて下さい
なぐさめずにです
地の中でゆっくりと
休みたいのです

二度とここには
戻りたくはありません
あまりに平和すぎる
この戦場


23.腹

落ち葉が腹の中を舞う
生まれ落ちて何年目か
いくら怒ってみても
我が身までも届かず
頭の中にゃ 舞うものもなし
うっとうしさやゆううつさ
けだるさややりきれなさ
実のないものばかりが
入っているだけさ
何もかもすっかりだしてしまったら
どんなにかすばらしいことだろう

でも 生まれ変わった僕は
同じものをまたつめこむだろう
それが進歩というものだ
それが成長というものだ
いやいや 頭なんぞ 腹なんぞ
割ってみたら
ゴミほどにきれいなものもあるまい
美しいものは肉体から
遊離させた世界だけ


24.あなたと僕が出会った日

あなたは僕のことを尋ねなくなった
あなたの瞳は僕の向こうを見ている
あなたはずいぶんおとなしくなった
あなたの主は沈黙を命じたか

あなたは自分のことを語るようになった
あなたの瞳は自信にみちている
あなたはとても美しさなった
あなたの主はざんげを受け入れたか

あなたが僕に出会った日
何かが心の中にうえつけられ
あなたが僕と話した日
何かが心の中に芽生えた
あなたが僕とつきあった日
何かが心の中に育ち
あなたが僕を見つめた日
何かが心の中でふくらんだ

そして つぼみは花となったか いや
あなたは蝶となって飛んでいった
主の御もとへ

あなたがいなくなった日
僕が死んだ日


25.依怙地

あなたはどうして僕を鞭打つのですか
僕が自分を大切にしすぎた罰ですか
僕も街ゆく恋人たちのように
夢の中で語らいあいたくもあります
そんな僕は 僕を手離さないかぎり
何も与えられないのですか

夢を見るには眠らなければなりません
その安らぎさえ あなたは奪ってしまった
僕はただ己れの手でつかむしかないのですね
いばらの道を選んでしまったのは僕
あのときは選ぶ権利さえ捨てることを
選ぶ皆が悲しかったんです

僕はいつでも依怙地で意地っぱりだ
二股の道にきたとき 自分の家の方へ
つきあわせようと我がままに
さっさと歩いていった
あなたを置いたまま


26.Fair Stage

僕は夢見る 僕の華麗なるステージを
僕の心の中の叫びが万感をもって
世界の隅々まで通じる日を
戻ってくる地を わらんばかりの拍手と歓声を
そして それよりも その中に愛に満ちたりた
人間たちの相互理解 一体感幸福が
実現という枠の中で 現実をぶちのめし
理想に手を伸ばす その一瞬の永遠性を

何と遠い日だ 声は枯れつきるほどにも出ない 今
何と地道な精進が課されているか
されど 僕の生命受けしゆえ 人は
ただ ここにあり
さらば 進むしかない
ならば 明るく一歩ずつ踏みしめて行こう
道端のなずな一つ 見いだしに


27.尋ねる

ゆふらん ゆふらん ゆふらん

あなたに愛はないのですか
僕の愛がどんなにささやいても 動じない
あなたに 愛はないのですか

いえいえ 人を愛したことがありました
今のあなたのような情熱な目で
今のあなたのようなうらみごとを
言っていたときも

そんな人がいるのですか
それゆえ 僕の方の窓は開けない
そんな人がいるのですか

今のあなたはご自分の不幸せを
嘆いていらっしゃるけど
今のあなたほど幸せな方はおりませんわ
愛されることは気持ちのよいことですけど
愛することこそ 生命なのです


28.叫び

生ったるい夜よ 砕けてしまえ
一文なしの僕に
メランコリーな感傷にひたる糧もない
遠い貴方をおいかける気力もない
眠りを誘う気だるい太陽よ
水っぽいやみを干しあげろ
精神がボロボロになっちまいそうだよ

酔っぱらった人間よ くだをまけ
わが主(みこと)なるかたぶつの機械よ
怒鳴りちらせ
上気した太陽の陰で演じてみろよ
性を貧る恋人達 十字架にくしざしせよ
赤子よ わめけ 世界を揺らせ
地球よ 地割れ 夜を去らせ
新しい御子を君臨せしめよ
甘たるい夜よ 砕けちまえ


29.酔狂

そうさ 心の片隅でいいのさ
僕の面影とどめてくれるなら
僕は何も言わず満足するさ
貴方が僕の心からあふれでて
それをこぼすまいと僕がどれだけ
苦労しているか知らない方が 結局いいさ
初めからそんな気じゃなかったもの
ただ 僕だけ一人 のりすぎちまった
あなたのついだ杯に 度を越してしまった
いつになったら冷めるやら
冷めぬなら冷めぬで それまたいいさ
酒宴に生きて楽しかろう
ただ あまり酔いすぎちまって
あなたを送れぬようになっちまったね
さようなら


30.愚痴

恋心は誰もあずかってくれない
夢よりもさびしいあなたをほかに見ていた

そうさ 俺には一人が似合うのさ
あんたを手に入れたらそのとき
俺は おしまいさ
放浪して 帰ったときにゃ
あんたは 手のとどかぬ人に
きっとなっているだろう

女の花っ咲かりも短いものさ
何も文句はつけないけど
幸せになれるだけ なってくれよ
ああ 腹の底から 疲れちまったよ
やりきれない
やっぱり やっぱり やりきれない
わかっていたじゃないか
覚悟していただろう

ブーケをつけた あなたを見た日


31.恋狂

ああ 白棒の木よ おまえには
僕の前に広がる大海の荒々しさを
それを渡っていこうとする僕の力強い決意を
僕のこの見にはあまりにあふれるのが
もったいなくて 活かしてやったもんだね
その僕が今日は 情けないくらいに
ズタズタの心をひきずって
弱音を聞いてもらいたくてきたのだ
笑ってくれ ののしってくれ
所詮つまらぬ男だったのだ 沈黙はあまりに苦しい
おまえは恋という廃物を知っているかい
そして、その魔物に踊らされつづけていた男を
知っているかい 僕だよ 僕だ あまりに若い
若くてわるいか わるいわけない わるいのは
押さえのきかぬ この心 わが身のせつなさよ
まわれ まわれ 地球よ まわれ
まわって まわって 時の流れに この悲しみを
散らしてくれ


32.憤り

わかっていたさ わかっていたさ
君の心に僕は住んでないこと
それなのに君は僕にやさしかった
君のやさしさにすがりついてきた僕だった
悲しいさ 悲しいさ 何だか無情に悲しいさ
君は舞台のヒロイン
僕の心の中も歩きまわる
好きなだけ踏みあらして
僕がつかまえられぬうちに去ってしまう
君は冷たい やさしいあまりに冷たい
君は僕に笑ってくれる、僕がそう言えば
しかし 僕は それより言いだせない


33.恋風

君を愛しはじめて七年目
ずいぶんといろんな風が
僕を吹いたけれど
通りすぎたら
いつも からっぽ
どんなに望んでも
つかめない風
されども されども
吹いている

一吹きごとに 心の炎は舞いあがる
もう七年だよ こんな毎日が
恋のたぎりが失せないのは
ありがたいけど
つらいったらありゃしない
片恋のせつなさは 今日も
風の上をかすめていく


34.ハートブレイク

君を見たときの驚き
僕の心臓が人並みなら
止まってしまっただろう
血がとくとくと体をめぐる
あつく あつく 息が苦しくなるほどに
君はほかの男に抱かれていた
そうさ 僕は いつも悲しみさ
夢に生きる哀れなもんよ
君はうっとりしていた
僕の心臓をぐさぐさと突きさして
あなたにとってこの上ない思い出
甘いひとときは
僕を責め苦の地獄に突きおとす


35.ある秋の日

こんなにさびしい酒場に一人
傷にしみいる秋風うけて
苦しむだけ苦しみゃ 楽になるかと
飲む金もなく よりつく女もなく
ただ 疲れはてて 羽を休める

そんなにしょげるなよ
何にもないとおまえは言うけど
若さがあるじゃないか
あるいはもしやと期待しただけ
無駄だった

恋しい人は一目も向けず
僕を通りすぎていった
恋するだけ恋すりゃ 思いつきるかと
何もかも投げだして愛したのに
ただ 疲れはてて 涙がかれる


36.雪

雪がぽつりとわびしそうに
降ってきました
僕は小さな手で
つつんでやろうと
必死に駆け回りました
やっと手のひらに入ったと
思ったとき
雪はもはや涙となっていたのです

僕は悲しくなりました
僕が余計なことをしなかったら
雪はもうどれだけか
空の旅を楽しめたのです

僕はただ冷たさを
美しく飾っている雪が
うらやましかったのです

永遠のあこがれ
かぎりなく雪は白いのです
地上についたら
だめなのです

だから、僕はやさしさの
ひとかけらをもたぬ
雪を追いかけていたのです


37.薔薇

僕がまだ14のときだった
僕は 一輪の薔薇に気づいた
美しきものに生得の反抗心を
持っていた僕は それを
蹴ちらかしたくてたまらなかった
しかし 薔薇はいばらの向こうにあった
丸腰の僕は憎しみをこめた目で
見つめるしかなかった

僕は我欲のため 毎日少しずつ
いばらを棒でとりのぞいていった
夏の直射のもと 僕は幼い
維持(意地?)だけを通しに努力をつづけた
冬の突風のもと 僕は
薔薇の健在を祈りつづけていた
いつのまにか憎しみは愛にかわった

僕は薔薇を見ているだけで精一杯だった
薔薇はより美しくなった
誰の目にも止まるようになった
僕は人の目をぬすみ
何度か夜中に手をのばした

しかし 薔薇は いばらより残酷であった
僕は幾度も傷つけられた
それでも僕の心は動かなかったのだ
薔薇は やさしい笑顔の中に鋭いとげを
隠しもっているのだ
それは美しさを守るためではなく
美しさそのもののもつ
本性であるのだ

僕の血は薔薇より赤くしたたった
僕は自分の命を薔薇に捧げた
倒れ伏した僕に 薔薇は一枚の花びらも
投げかけてくれなかった
しかし 僕の思いはもはや
憎しみには戻れなかった


38.Mountain Climbing

僕が上がるのはあの山だ
前人未踏の存在さえ知られていない
あの山だ
てっペンが星より高いところに
あるほど大きいから
人間の目の中には入りきれぬのだ

何やら ずいぶん上った人もいたらしい
誰も戻ってこれなかったという
そりゃそうだ だからこそよいのだ

でも僕はこの地にロープの先をしっかり
結びつけてのぼっていく
戻るためじゃない 君が いつの日か
ついてきてくれることを信じてだ
二人でのぼれるときを祈ってだ

天空は空気がいいぞ
月が下に見おろせるだろう
地球は何色をしているかな
たとえ これが求決であったとしても
僕は公開しないさ
ロープのもう一方の先が
あなたの手に握られていると思えばこそ

僕は安らかに上れるんだよ


39.自殺考<ともに生きて結ばれぬ場合>

君を殺して僕も死に 天国で結ばれようと
昔語りに考えてみたけど
天国に行きゃ それなりにいい男がいるし
その前に 行き先が別れちまいそうだ

君も殺さずに 僕も死なず結ばれるにはと
手間はかかるが 他の人間を皆殺して
二人っきりになりゃ
その前に君はまちがいなく死ぬだろうな

君を殺して僕しなずんば 僕は君のため
全くいないところで処されるだろう それよっか
君は殺さず僕だけ死ねば
君も喜ぶだろうし
やっぱり これしか なかろうな


40.別れのあと

あなたは自分の世界から
引きあげてくる
汗をふき人と楽しそうに笑っているけど
あなたの心がどんなに傷で
ズタズタになっているか
長年 その心を追ってきた
わたしにはわかる

あなたはそんな私の目に気づくと
昔のようなやさしさで
そっと目をそらした
別れという形によって 心が
分けられることはあるまいに

あなたは私にぽつりといった
僕は飛ぶ 果てしなく
あなたのところに 翼休めるひまもない
あなたは 私のことを考える心を
私のところへ置き去りにしたまま出ていった
それが苦しいなら 取りにくればいいのに
あなたの翼はもう戻らない


41.自分の姿

僕は自分がいやになって
それでも その影を見た
足は とてつもなく長かった
僕は希望に瞳をうるおした
しかし そのあと
僕の目に入ったのは
なんて 長い胴であったことか


42.悲しみの夜

夜 静まり返って まっ暗で
生きとし生けるもの 声をひそめ
ヤスラカナル眠りを 貧ぼる

否 僕には聞こえる この甘たるい夜を
涙でしめらしている 人の嘆きか
星は輝く 白く輝く 夢見る人は知らない
でも 悲しい人の目に光がにじむ
涙をぬぐってごらんよ
朝まで泣いていてもいいけど
涙が乾いてしまっちゃ
悲しみは 心の底にしまわれるよ
誰もいない 夜だもの
君のために
あんなにたくさん星がかがやいている


43.忘却

大人になっちまったとき
無邪気な愛は
たんぽぽ 風のように
フワフワ 飛び散ったのか

愛だと気づく前から
ずっと愛してきた
君は一度も僕を
かえりみなかったけど
一途な愛を捧げてきた

君は天使だった 神だった
僕の全てだった
いつも僕は一人だったけど
心の中では君が笑っていた

君からつっぱねられたあとも
僕だけは君をはなさなかった
それほどの愛だったのに
今はもう
信じられないぐらいに
一かけらの思い出も残っていない

遠い遠い雲に呼びかける
愛にかけた僕の心よ
戻ってこい

君が去って
そして
君を思う心が去って
そして
僕自身も去っちまった


44.ま、どんな

僕は海が見たくなった
そこでテクテク テクテク歩いて
太陽の上る方の向かった
どれだけ歩いただろう
潮風は強く鼻につけども
波の音が激しく耳をなるせども

どんなにどんなに歩いても
海は見えなかった
どんなにどんなに 走っても
どんなに

僕の頭の上をかもめがとんで
青い空に気をうばわれていた
僕はいつのまにか
大海をおよいでいた


45.再会

君は最初から僕には目もくれなかった
それでも僕は執拗なまでに愛しつづけた
報われぬ愛は僕を成長させた
天上の女神だった君を
幼子のように見えるほどに
そして
僕の愛は捧げられるものから
施されるものになり果てた

君は 古傷のように ときに
ひどく僕を悩ますことがある
しかし
それも実際は大したことがないのさ

僕の心があれほど愛に
情熱をかたむけられた
昔をなつかしんで うづくのさ

今日 君は 僕のそばにいる
それが 何になろう
失われたときは
二度とは戻らない

明日 君は僕を遠く離れる
それが 何になろう
すでに心 異郷にさすらえる
二人にしてみれば


46.現代人

僕らは温室に栽培された
冷たい風雪にもさらされず
害虫や病もよせつけず
暖かな愛の恩恵の中に成長した

太陽はいつも微笑んでいた
川のせせらぎが 呼んでいた
星が夜空に泣いていた
虫がすぐそばであえいでいた

そんなものをいいかげんにあしらって
僕らは 遠い異国の
お話しばかり聞いていた

誰よりも 喜びはあったけど
誰よりも 幸せではあったけど
何かしら欠けているものがあることに
気づくことはなかった

僕らは 不幸を知らなかった
骨の髄までしみいる悲しみも
胸のうち えぐる 苦しさも
心臓をもむような息苦しさも 怒りも
地球を串刺しにしたい やりきれなさも

僕らの顔にはしわがない
頭には白髪がない
何たることか 僕らは皆 同じ顔をしている


47.道

僕は舗道を歩いている
アスファルトの黒い固い道だ
どこまでも
ずっと伸びているもんだと思っている
横道にそれぬかぎり
安全と思っている

生まれたときから
僕はこの道を歩いているんだから

何の疑いもありゃしない
ビルの谷間をさっそうと歩き
からっ風もほこりも
こわいものなどない

されどこの道をはずれたところに
本当の世界はあけているので
いると 風がささやく
この道からみえる景色は
看版かもしれないと雲がたぶらかす
この道は 十字架と空がうそふく

それにしても
僕はこの道にほおをつけ
この道をさえ 確かめたことはない
僕の世界は全て虚構の産物


48.巨大なる偽り

雲の切れ間から太陽の一筋の光が
蝶を舞いあがらせた
それを追いかけた僕は
キャベツ畑をこえ
あぜ道をゆき
川野ほとりを歩き
木々とともに呼吸をし
幻想の世界に遊んだ

幻想―そうなのだ
蝶が消えてしまったとき
足もとにいつもの黒く固い
道が伸びているのに
めまいをおぼえた

僕は 横から
鋼鉄の親しき友に
砕けとばされてしまった
やっと やっと 自由になれた


49.両親

この広い世界に私を愛する人を
教えてみた
両手を両足を用意したのに
右手の指と人差し指
二本が曲がったあと
プツリと とだえた

私はひどく さびしくなった
人間って そんなものかと

そして こんどは
私の愛する人を
教えてみた
一人二人、三人と調子よくいかぬように
もったいぶって 考えてみたら

一人もいなかった
私はひどく なさけなくなった
こんな私を愛してくれる
たった二人の人間が
とても ありがたく 見えた


50.モットー

幸福という名の不幸に
別れを告げ
不幸という名の幸福と
ともにいこうと
現実という虚像に
甘んじず
理想という実像に
足をつけていこうと
喜び、親しみといった 人の求めるものに
背をむけ
苦しみ、悲しみといった人の嫌がるものに
面をむけ
一歩ずつ歩んでいこうと思った


51.月夜に(T)

月がブラックから切り出(cut)されて
ぶらさがっています
夜空の裏側は
あんなにも明るいものでしょうか

そういやあ
古びたナベふたの穴ばこに
もれくる光(燈)は
さびしくも笑っているでは
ありませんか

ところで 太陽は
元気にやっているのでしょうか
僕はこの頃やたら気がかりに
なりました
皆があまりにもっとも
というので
安心していたんですか
はたはた
幻想ではありませんか
そいつは
幸いあまりにまばゆいので
真偽のほどは
定かではありません
だいたい
どうでもいいことなのです
だから
平和なのです

僕だって
こうして
目を変てこな感染で
せっかくの月まで
見られなくなっては
もともこもありませんもの

ナベブタを持ちあげる
ちょっとのすきに
大きな手が好意的に
熱い無節操な太陽を
自動温度調節の電機具に
変えたような
気がするのです


52.月夜に(U)

月がブラックから
切り出されて
つり下がっています

夜空の裏側は
あんなにも
明るいのでしょうか

そういえば
古びたナベぶたの穴ばこから
もれしる灯りは
さびしくも
笑っているではありませんか

今も太陽は天気にやっているのでしょうか
僕には遠い昔に思えるのです
皆が見ているもの

あれは、幻想ではありませんか

いつのまにか
すりかわってしまった
精功な太陽に
目をやかれて
せっかくの月が
見られなくなっては
もともこもありませんもの

ナベブタを持ちあげる
ちょっとのすきに
大きな手が
暖かい太陽を
精巧な電燈に
衰えてしまったのかもしれません
幸いあまりにまばゆいので
真偽のほどはわかりません


53.月夜に(V)

月がブラックから
切り出されて
つりさがっています
夜空の裏側は
あんなにも
明るいのでしょうか

そういえば
古ぼけたナベぶたの穴ぱこ
もれくる燈りは
さびしくも
笑っているではありませんか

今にひびが入って
パカンと
夜空は割れそうです

そこにゆらめく
うめくのは太陽でしょうか
光のまばゆさに
誰もがそう思うでしょう
皆が見ているもの

僕は遠い昔のように思えるのです
それは幻想ではありませんか

皆が見ているもの
あれは幻想ではありませんか

いつのまにか愛を忘れた
人工の太陽に目をやられて
せっかくの月がみれなくなっては
もともこもありませんもの


54.虚脱(月夜にW)

月がブラックから
切り出されて
ぶらさがっています

夜空の裏側は
あんなにも
明るいのでしょうか

そういやあ
古びたナベぶたの
穴ぱこに
もれくる燈は
さびしくも笑っているでは
ありませんか

さてさて 太陽は
天気にやっておりますことやら
僕は 気分ゆううつ

あまりにもっともと
昼に生きている人が笑うので
かえって 幻想
僕 あやくなりました
ナベぶたを持ちあげる
ちょっとのすきに
大きな手があくまで厚意的に
熱い無節操な太陽を
自動温度調節の電気具に
取り変えたとしたら…
幸いあまりにまばゆいので
真偽のほどは定かではありませんが
ちょっと調子がわるいみたいで
そんな気がしたので
(それとて)
だいたい おづでも いいことなのです
太陽を忘れるほど
平和なのです

僕とても
こうした目を変にやかれて
せっかくの月まで
見られなくなっては
もともこもありませんもの
posted by fuhito at 16:54| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩Vol.9



1.悲しむなよな

そんなに悲しむなよな
俺だって 悲しいよ
叫び疲れて のど枯れて
結局  昨日とまた同じ
友もなけりゃ 酒もない
女もなけりゃ 飯もない
みじめだよなー
わかるよ わかるよ わかっているよ
いいかげん 自分を慰めていると
よけいみじめになっていく

でも 俺しかいない
いや 俺がいる
俺だけはわかっているんだ

雨が降り降り 雨が降る
その一滴一滴が 恨み言だとしたら
今日は何と 怨念に満ちた日だろう
あの中には 俺のもある たくさんある
ずっと ずっと 昔から
俺の涙は尽きなかった
ちょうど天にのぼって
俺に帰ってくるころだから

どら 出迎えにいってやるか
・・・そんな必要もないか
雨がつらい思い出 ぶら下げてこなくても
あのころ以上に 悲しみ溢れた
毎日をもらっているから


2.鳩が飛ぶ

鳩が飛ぶ 雨に打たれて 鳩が飛ぶ
今日こそは 注目を浴びるだろうと
鳩が飛ぶ 周りを見渡し 鳩が飛ぶ
能力なしの 弱虫ども
鳩が飛ぶ 満足げに 鳩が飛ぶ

誰もみていやしない たとえ
空をあおいでいる
人がいても 暗い空
なんで鳩がみえようか

それでも 鳩が飛ぶ
雨に叩かれ 鳩が飛ぶ
雨滴が顔にささる 痛さこらえて

鳩が飛ぶ 俺は飛んでいると 鳩が飛ぶ
ただ 己が納得するために 鳩が飛ぶ


3.ある恋

あるいは あの恋は
なんでもない すれ違いだったに違いない
それを これまた ご丁寧に
僕という男は はしゃぎまわって 顔ゆがめて
あ〜 こりゃ恋だなんて
無理やり決めちまったんだよ

今 思うと ずいぶん昔になっちまった
恋とやらもずいぶん無責任
いろいろな感傷をやたら強いて
人を悩ましやがって 挙句の果てに
たどって たどって 根源を
つかまえようと 追いかけてみれば

夢か本当か はたまた幻想か
思い出筋がぽつんと 途切れてやがる
忘れちまったよーって 投げ捨てておこうにも
なんだって そんなにしつこく付きまとう

あの人去って あの想い去って
取り残されちまった
俺にいったい何の用があるというのか
あの人が忘れた分だけ
俺が引き受けちまったわけでもあるまいし


4.街

幸せ探しに汽車に乗り込みました
そういえば ずいぶん素敵だけど
不幸に追いかけられて 街を捨てたのです
どうせいやな思い出しか 持っていなかったから

何も心残りはないけれど
街が 窓の後ろに流れていくとき
胸にかすかな 痛みが走りました

生れて今まで育った それ以上は
何のゆかりもない街だけど
憎むことしか知らなかった街だけど
闇に流れていく街をみていると
やっぱり 俺の街だとよくわかる

明日は見知らぬ街の中で
新しい生活が始まるさ
最後に一言 なかなか いい街だった


5.雨よ降れ

雨よ
そうだ 降れ 降れ
遠慮なんかいるもんか
どんどん降れ

悲しいのなら
涙出るだけ出して 流してしまえ
怒り狂っているなら
雷鳴響かせ 山も街も
すべて 流してしまえ

何もかも 遠く深く
海に沈めてしまえ
それでも 足りぬなら
地球など 真っ二つに
割ってしまえ

堕ちた楽園などいるものか
腐りきった人間などいるものか
流れに任せば 濁りゆくばかり
どうせ破滅する人類だ

追いつめ 切腹させるよりは
早いとこ 清い天上の水で
一掃しちまえ

雨よ
そうだ 降れ 降れ
お前をバカにした人間どもを
いなしてしまえ


6.おちぶれちまった人

おちぶれちまったって
あんたは自分をけなすけど
そんなあんただから
そっとなぐさめたくなる

あんたは グラス片手に
陽気に笑っているのが
一番素敵さ

ヘタな同情よしなよって
あんたは自分をつっぱなすけど
そんなあんただから
そのまま昔に戻れる

あんたがのぞいた世界が
あんたに教えたことは
楽することと賭けること
そんな世界に耐えられなかった

あんたはちっとも変わらなかった
何度か危ないこともあったけど
結局 人間の心の中に戻ってきた
さあ 乾杯しよう あんたが無事
おちぶれちまったことに


☆7.笑わないで

笑わないで
そんなに明るく
何もかも幸せ一杯
世が平和に満ちているかのように
笑わないで
まるで 何も知らない嬰児(みどりご)のように

あなたは笑う
あっけらかんとした表情で
あまり底ぬけに笑うものだから
あなたの周りの空気から
壁から 何から何まで 笑いが移って
ほら 僕まで笑いたくなってきた

笑いたい そんな誘惑に感じながら
僕は固く心を閉ざす
せめて笑える日がくるまでと
君は笑う そんな日が来るものですか

笑えるときに笑っておくのよ
でも 今笑ったからって どうなるの
笑っていなけりゃ
笑いも忘れるものよ

あなたもいかが
幸せと同じよ
僕は一つだけ
あなたの笑いを受け取った

それで十分すぎるぐらいだった
なぜって 今度はあなたが
笑わないでと僕に
頼んでいるのだから


8.なぜ走る

なぜ走る
そんなこと判らないよ
ただ 走っているのさ
なぜ走る
走っているってことが
わかるからさ


9.太陽よ

太陽よ 君は
そんなに美しく沈みながら
明日もまた天まで上るのか

月よ 君は
夜にロマンを与えているようで
ちゃっかり主人公におさまっている

星よ 君を
描いたデザイナーは
さぞかし 有能だったことだろう

海よ 君を
すっぱりと おさめられる
胃袋が欲しい


10.人間よ

人間よ 君たちは どこに進もうとしているのか
厳しい自然に これほど立派な道をつくりあげ
今だ 一息もつこうとしない

人間よ 君たちに 限りない前進を命じた
それほどの幸福はないと 私は信じていた
けれど それほどの不幸もまた なかった

人間よ 君たちの前進が 内面に向かうよう
私は海をおき 空をおき 止めるつもりだった
けれど 君たちは かまわず進み続けた

人間よ 君たちは 進むことしか知らない
願わくは そう遠くなかろう
人類の終着点にも その意気で
突っ込んでくれるように


11.だめだ

だめだ
君は20年生きてきて
今だ人生を歩めず

だめだ
君は今 燃えていなければ
ならないはずだ
あと何年も生きられると思うな

明日は身動きとれぬように
なっているかもしれぬ
それを否定できるものは何もない

たぶん明日も今日のように
終わるだろうという
漠然とした予感を抱いてはいけない

明日は君は
突っ走らなければいけない
さもなければ 両足を折って
動けなくなるだろう

少なくとも そう思え
だから 今日は安らかに眠れ
明日の活力のため


12.20歳

なんて重いんだ
もう動けない
遅すぎた

ここまで生きてきた
精一杯やったつもりだった
でも何をやったかといえば
何もやっていなかった

今からでは 遅すぎる
もはや 体は動かない
なんて重いんだ
この数字は

今からでも できることはないか
捜せば 捜すほどない
僕は生きたつもりだった
誰よりも生きたつもりだった

それが平凡だったんだ
僕は人並みほどにも
生きていなかった

人がそう見るように生きてきた
だから いかにも生きたように思えた
真に 生きたことはなかった
今こそ 認めよう

もう遅いなんていうのも
人と比べるからなんだ
絶対的に生きるのに
他人はいらない

やっと希望がみえてきた
薄い 薄い光だが
この年を原点において
今度はもう10年しかないと
生きてやる


13.生きるとは

生きるとは何ぞやと
やたら頭抱えて
考え込んでいるうちに
眠っちまった

気持ちよかった
何もかも忘れて
眠っちまった

こんなに眠れるものなら
この問題もそれほど難しい
ものではあるまいな

そうだよ そうだ
簡単だ
眠っちまえば
簡単だ

天井の下に
大きな子供が一匹
子供らしさを失ったのに
大人にはなりきれない

半端な半端な
小さな大人な一匹

うろちょろ うろちょろ
長い長い橋の上を
いったりきたり
なかなか真っ直ぐには
渡れない

それでいいんだ
渡っちまったら
橋なんて
なんて短いものなんだろう

青春なんて
青春なんだ


14.髪の毛

髪の毛をお伸ばしよ
サラサラ サラサラサ
風になびかせよ
ソヨサラ サラソヨサ

十分きれいになったら
水におひたしよ
ツゥー ツゥー
水におひたしよ
明朝までに乾くから


15.失った愚かさ

暖かい巣の中から見た空は
とてつもなく美しかった
それにあこがれこがれ
いつの日か
あの大空を我もの顔に
飛びまわれることを思い
一途に生きてきた

年は 待たずとも 流れ
僕も大空に飛び立った
飛び立ってみれば
空虚な空間だ

空のどこが青く 美しい
雲のどこが純白か
太陽なんて
別世界のものじゃないか

こんなものにあこがれ
一途に 生きてきた
その愚かさが
今は かえってうらやましい

空からみるちっぽけ巣は
まさに哀れを超えていた
愚かさを失う
愚かさを犯してしまったまで


16.波の追憶

ボクはいつのまにか
歩くのをやめて
列車にのっちまった
行き先のわからない列車に
どこかに着くだろうと
外の景色も見なかった

いつまでたっても
列車は止まらないものだから
僕は降りられなかった
今 考えてみりゃ ありゃ
あの時 僕は
青春を発ったのだ

波の間をやどかりが
歩いている
君には砂と塩水しか
わからないだろう
どちらもすこぶる
厳しいものだろう

波の上を僕が歩いている
僕には砂浜と海がわかる
どちらも案外
優しいものだろう

ここはやっぱり 君の世界
僕の住むところではない


17.列車よ

列車よ 歌うな
カタコト カタコト 歌うな
それでなくとも
僕は疲れているのに

列車よ 止まるな
カタコト カタコト 歌ってもよいから
止まるな

窓から絶えず
新しい風を入れてよ
さもなきゃ 僕は腐っちまう


18.海

積もりつもった悲しみ
溜まりにたまった不満
押し寄せる怒り
落ち込んだ 憂いの色の海

おまえは
青い空の中にも 嵐を見
嵐の中でも
青い空を見ていたのか


19.杉の木

なぜ お前は
それほど
まっすぐ
天に向かって
伸びるのだ

なぜ お前は
それほど
しっかりと
地に深く根をおろすのだ

なぜ お前は
それほど
心を少しも乱さないで
いられるのか


20.投函前後

手紙を書きました
何度も何度も書こうと思っては打ち消し
何枚も何枚も書いては破り
それでも書かずにいられませんでした
出してはいけない いけないとおいたまま
それでも出したくて出したくて

結局 胸にあて 自分の心で温め
奇跡さえ起こらぬことも わかりすぎているのに
最後の最後まで 手を離すのをためらい
あまりに胸が苦しくなって
その拍子に投函してしまいました

明日は貴方の手にわたるでしょう
貴方は何気なく裏を見
私の名前を見つけて不愉快になるでしょう
そしてきっと その辺に投げておくでしょう
そのまま捨てるのかもしれません

お茶を飲み終わって 手持ちぶさに
乱雑に封を切ってくれるかもしれません
細やかな字にうんざりして貴方は又
そのまま その辺においておくでしょう

もし もしかすると 少しは
気まぐれに読んでくれるかもしれません
でも何事もなかったかのように破って
くず箱に捨てるでしょう
それがわかりすぎているだけにつらいのです


21.報われぬ想い

ただ一人の姿だった
僕のすべてだった

そんな僕は貴方には
単なる一人の子供だった
君の添え物にも値しなかった

胸が 焦がれて 焦がれて 焦がれて
報われぬこと わかりすぎているのに
どうして むやみに焦がれるのだ
忘れようとすればするほど 強く浮かんでくる

ああ 君は幸せだ
こんなにも 愛されて
ああ 僕は不幸だ
こんなにも 愛しているのに


22.浜辺に一人

浜辺に一人 お似合いさ
こんなに広いのに
立っているのは 僕一人

海の向こうに君がいる
そんな気がする
海はあまりに広すぎる
僕はなすすべもなく 砂をにぎる

浜辺に一人 しようもないさ
君はいない

海の向こうに 君がいる
それを信じて 僕は泳ごう
どこまでも 行けやしない
力尽きるのは わかっている

でも この浜辺にいても
仕方がない
君はいないから
なら一層のこと

君を求めて求めて
そのまま 波間に沈んだほうが
どれほど楽かと
僕は海に突っ走った


23.たまらんなあ もう

たまらんなあ もう
すべて灰に帰しちゃった
あれほど苦労して築いた
あの街 この街
あの空 この海
きっとすてきな世界が
できるだろうと
夢見て 夢見て
気付いたら 皆 真っ黒け

たまらんなあ もう
何もかもなくしちまった
変な夢を追わず
あれも これも
あいつも こいつも
触れず 触らず
つきあっときゃ よかった
夢見て 夢見て
いつの間にか 一人ぼっち

たまらんなあ もう
何もかも 置き去りにして
一つの夢を追いかけて
そのときになってみりゃ
何も手に入っていなかった
考えれば考えるほど
悔いばかりの我人生

ところで
俺は変わりはしないや
なんて強がるのは 負け惜しみ
とやらに 違いあるまい


24.過去にしがみついて

過去にしがみついている男が一人
皆が明日を明るく描き出している中で
ぽつんと一人
日の暮れの街との別れを惜しんでいる

思い出に押しつぶされている男が一人
昔の女が忘れられなくて
何度も何度も手紙を書いては破り捨て
その破片を拾っては
セロテープでくっつけている


25.杯に口もつけたら吐きまくれ

杯に口もつけたことのない 僕だけど
もし酒が理性を失わせてくれるものなら
飲んで 飲んで 飲みまくりたい
そして 何もかも 忘れちまうんだ

君のことも もちろん 君とのことも
今日までと全く違った世界に
僕は重い肉体を脱ぎ捨てて
飛んでいくんだ

どこでもいい どんな地獄でも
君がいる この世界よりは
君がいる この生き地獄よりは

酔っ払いをさげすんでいた 僕だけど
もし苦しみが悲しみを覆ってくれるものなら
吐いて 吐いて 吐きまくりたい
そして 何もかも 出しちまうんだ

君のことも もちろん 君とのことも
今まで大事にとっておいた思い出も
僕は汚物とともに 吐き出してしまうんだ

できることなら できることなら
君に関わるすべてのものを
僕から出してしまいたい
でも そうしたら
僕も残れやしないだろう


26.恋が盲目というなら

恋が盲目というなら
僕はそれと反対の端に立って
君を見ていた
憎しみに近いほど 冷静に
欠点をあらいざらしに
何のためだったのか
君を理想に近く 育てるためか
注文を出しすぎたがために
せっかくの料理を台無しにしちまった

僕は君のそばにはいなかったけど
僕が立っていたのは 愛の裏側
もう僕は何もいらない
青い空も 緑の大地も
春も秋も夏も冬も
命をも返していい
ただ一瞬 彼女の心のほんの一部に
僕の入る隙間を与えたまえ
そしたら 僕は
十字架にかかって死んでもよい


27.夢の中でだけ貴方に会える

夢の中でだけ貴方に会える
そこでも僕は 顔を伏せて
貴方をまともに見られない
愛することは 罪なのか

これまであれほど苦しんで
なおかつ 逃げられぬ
引け目を負うているかのように
自由なはずの世界でさえ
僕は貴方に近づけない

貴方の声がピーンと響いて
聞こえてきたから
びっくりして 目が覚めちまったい
せつないのは
それほどにしてまで 恋いうる
僕の恋心

寝ちまった 寝ちまった
何もかも忘れるため 寝ちまった
皮肉だ 皮肉だ 何たる嫌味
夢の中にまで 貴方がいて
夢の中でさえ 僕は追いかけている

走っても 走っても 追いつけぬ
流れ星 あ! 落ちた
僕はぐっしょり 汗をかいちまったい


28.手紙を残したまま

手紙を残したまま
部屋を出てきた私
貴方の面影と
窓の外 流れる街の光
混ざり合っては 後ろに消え去る

明日から どうなるのか
わからないけれど
せめて今だけは 一人にしておいて
愛されて 愛されてみたくて
夢追いに出かけた私


もう唄いたくない いくら
貴方のことを唄いつづけても
貴方はますます遠ざかっていく
忘れようと 唄うたびに
貴方は私の心にますます大きく
高まり とどろく

さりとて 唄わずには
この胸のせつなさ
投げ出すやり場がない
ああ 何とはや 憎しみ足りぬ
我が不条理の心よ


☆29.放課後の残照

窓際にぽつんと 貴方が座っていた
夕陽の残り光が 薄紅に頬を染めた
貴方はさりげなく 荷物をまとめ
帰り支度を急いでた

僕の気配にツゥーと 目を上げて
かすかに微笑み浮かべて顔をそらした
貴方はもの静かに席を立ち
うつむき加減に 出入口に歩んできた

静まり返った教室の中から
気づまりを追い立てるように
貴方は足を早めた

僕の横を通るとき 僕は黙っていた
通り過ぎたあと 少し経って
貴方が言った
さよう・なら


30.たとえ どんな姿で

たとえどんな姿で現れても
僕にとって 貴方以上の女(ひと)はいない
そう 長い歴史がそうする
僕の華かしい苦渋に満ちた日々と
共にあった女(ひと)

青春がまたと還らぬ今
僕の愛せる人も ただ一人

大人になるのを嫌った僕たち
今 一人になっても
そのときのクセは抜けやしない

なぜ なぜに 手が届かない
テーブルを隔てた
その向こうに 以前と変わらぬ
笑顔でいるのに


31.愚かな心

ああ 生命 捧げてもいい
この指が 貴方の髪に一本でも
触れられるものなら

ああ さようなら 恋しき人
貴方は消えても
僕は貴方から 立ち去れない

星の明かり うっすら窓辺にさして
僕の想いは 貴方の庭園をそぞろ歩く
眠れぬ夜の物思い
思えど 思えど 何ともならぬ
それを知りきわめていながら
思わずにいられぬ この愚かさ


32.眠り続けよ

いったい何の因果なのか
貴方はこの静かな夜
ぐっすりと眠っているだろう
はせども はせども
届かぬ この想い

いや 待てよ
貴方も もしや 寝付かれず
慕っているのではなかろうか
想い 結ばれようか

いや まさか
その相手が僕であることは
万分の一もあるまい

さらば 静かに眠り続けよ
いつまでも いつまでも
何にも 悩まず
誰にも 思いはせず


33.憎んでいいですか

ある人を憎んでいいですか
WHY
その人は僕の愛を踏みにじったのです
HOW
血へど出るまで愛を言葉を吐かせ
それをうすら笑いにし 背を向けたのです
AND
僕は復習さえいとわない
憎みたいのです
FOR
僕自身のためです
己の愚かさに気付いたのです
AND
手段はないのです できれば
この片恋のつらさを
貴方にも知らしめたいのです
BUT
そうです できぬことはわかってます
彼女は気まぐれにも
僕を愛したりしない
仮にそうなったとしても
いや なるわけがないのです
AND
だから 貴方が僕に彼女を愛すべき
運命を授けたのと同様
憎ませてください
BUT
そう できないことはわかってます
誰よりも この僕には


34.満天下の戦士

もてるだけの力を出し切って
疲れ果てて 帰るとき
足は棒のように 痛みも感じず
ただ シャリシャリと 雪氷の道を歩む

新たなる試練へと向かう
ほんの一時の休息もなく
戦士は歩き続けねばならぬ
その戦士は それほどまで疲れて
なおかつ 歩き続けられるのは

そう 戦士の目の前にぼうっと
黄色く広がる煙が
愛する人の顔を 浮かべているから
それを戦士はいつも見ているのだ

次の火蓋が切られる その刹那まで
戦士は愛する人にだけ
気力をもって一言 告げる
ほら 星が あんなにきれいだ


35.恋の戦士

いつの日か 報われん
いつの日か 報われん
戦士は祖国のためにという名のもと
愛する人のために 戦った
己の愛を守り抜くまで
命を懸けて戦った

それなのに あんまりじゃないか
命を懸けたこと 己のために
それはそれなりの価値はあったさ

でも あんまりさ
愛が壊れちまった
何が残っているんだよ
君がいなくて どこに僕がいるのか

勝利を胸に秘めて
力尽きるまで 戦った

貴方を思い浮かべて戦った
戦に破れ 貴方は去り
僕に残るのは
あの苦しい行軍を支えてくれた
あなたの面影


36.創

あの切り立った崖っぷちに
一輪咲いた花を取ってほしいと君は言った
僕は君を知っていた
少なくとも君が僕を知っているよりは

あの崖の真下の岩に
幾人の前途が絶たれたことか
男の呪いがしみこんでいることか

あの花は枯れることを知らない
君にさぞかしふさわしい花だろう

さりとて 僕は弱虫だ
聞いた端から 足が震えている

あの花を君と思って摘んでこようか
それなら 少しは勇気が出そうだ
君はうなづいた

半ば上ったころだろう
あと少しと 見上げたところで
僕の体は空に投げ出された

一輪 花が見え
一時 君が見えた

それから ずいぶん長い時間たった
君の笑い声が 谷間に響いていた
美しく 快く 響いていた


37.海 SEA

 夜の海が好きなのです
 誰もが寝静まった この夜更け
 小言を聞いてくれるのは
 貴方だけなのです

 夜の海は静かなのです
 悲しみに沈んでいる人も
 眠れるように
 心地よい波を立ててくれるのです

 夜の海は悲しい色に
 染まっています
 どんな深い悲しみも
 引き受けてくれるのです

 夜の海は悲しい人にはわかるのです
 月の元に
 波が繰り返し悟すのです

 貴方の涙は砂にしみていく
 悲しみを引き受けて
 黙って耐えているのです


38.父

貴方は寝ている子犬が
かわいくて かわいくて
膝の上に乗せようと 抱き上げた
子犬が素直に尾を振り
やさしく自分を見つめ返してくれることを
心のどこかで期待しながら

しかし 子犬はうなった
噛みつこうとした
自分の生活を妨げるものとして
貴方をにらみ返した

貴方は怒った
決して愛が安っぽかったわけではない
愛ゆえに 真実が見えなかったのだ

子犬は子供よりも純真だった
ぶたれても 蹴られても 自分を主張した
あげくの果て 子犬は幼き息を引き取った
貴方は自ら掘った 気づまりの悪さに
背を向けた

妻に勝ち 子に勝った貴方も
この小さな魂にはかなわなかった

愛と思えばエゴである
犠牲と思っていた方が
まだ悲劇は救われる


39.思い出

思い出をこの世に残していく
たとえ肉体は滅びようとも
お互いの胸に分かち合った日は
貴方のものとなって 生き残る
貴方の命 ある限り

貴方が死んだら 僕の思い出など
何の要りようがあろうか
貴方の知らぬ僕の思い出に
今さら何の未練があろうか

後生なのは
貴方に対する僕の思い

これほど強いものが
果たして貴方の中で
どれほど 生き続けるのか

これほど強いものを
果たして貴方は
覚えていてくれるだろうか


40.南海の孤島の砂浜に

南海の孤島の砂浜に寝ころんで
毎日 海と空を見て暮らしていたいな

灼熱の太陽が 僕の体を照り焦がし
強烈なスコールで
僕の体から蒸気が上がる

熱にあげられ 雷に打たれ
肉体はボロボロになって
ポロポロにおちていく

白く固い精神だけが 感覚もなく
浜辺の砂の中に粉と砕け
混じっちまって ときたま
キラキラ キラキラ
輝いてくれればいいもんだ


41.幸と不幸

「心が開いているときだけ この世は美しい」(ゲーテ格言集)

とても明るいおじいさんがいた
おじいさんはいつも子供に言っていた
心をいつも開いていなさい
そうすりゃ、何もかもすばらしいものだから

子供たちにはわからなかった
すばらしいというのが何なのかわからなかった
しかし 子供たちは知っていた
すばらしさを体で感じていた

おじいさんは言った
いつまでもその心を忘れるでないよ

子供は聞いた
心ってどこにあるの
おじいさんは胸に手をあてて言った
ここだよ ここだ

おじいさんは余計なことをしてしまった
魚が水の中にいることを最後まで
気づかぬのと同様

子供たちはわからなかった
それをあまりくどくどいうものだから
子供たちは思った

胸のところに心というものが入っていて
それを開くと とにかくよいんだ
幸せとかになれるらしい

子供たちは幸せを知らなかった
幸せなど健康と同じで持っているうちは
気づかぬものだから

ある日 おじいさんが不幸になった
病いを患い 床についた
子供たちはよろこんだ
自分たちの中には
誰も幸せを喜ぶことのできる
不幸なことがなかったからだ

おじいさんはすっかり無口になって
子供たちをうらやましそうに見ていた

子供たちには的ができた
待ちかねていた的ができた

おじいさんがフラッと立ち上がった
その一瞬 一番大きな子供がナイフで
おじいさんの胸を突き刺した
赤い血が噴き出した
皆がどっと喚声をあげた


42.一枚の銅貨

ある落ちぶれ貴族が
街角で銅貨一枚を拾った
彼は手持ちぶさな時間を少しでも
つぶそうと 近くの賭博場に入った

彼はその一枚をルーレットの黒においた
紳士、淑女、見物客のうち
彼同様、貧しい野郎は笑った
銅貨一枚ぐらい 誰でも持っていたからだ

その一枚が二枚になったとき
笑いも二倍になった
その二枚が四枚になったとき
その四枚が八枚になったとき
笑いは半分ずつになり
その八枚が十六枚になったとき
ほうーっというため息がもれた

彼は銅貨を銀貨に代えた
見物客は彼の後をおって
隣の台に移った
そこでやっていた 紳士、淑女は
銀貨一枚 彼がおいたのをみて笑った

そして同様
笑い声は ため息に代わり
彼は銀貨を金貨に代えた

次の台で彼は金貨一枚を置いた
誰も笑わなかった
そこでやっていた紳士、淑女は
こんな男に大勢の見物客がいるのが
腑に落ちなかった

彼の金貨が二倍ずつ増えるにつれ
人々は畏敬をもって
彼を見るようになった

彼が目をあわせた紳士は
照れ笑いをし 淑女なら
コクリと頭を下げるのだった

彼は持ち金全てを毎度賭けていた
彼は考えていた
どうせ銅貨一枚だったんだ


皆は彼の度胸と運を褒めていた
彼のテーブルに金貨が積み上げられていった
後から来た観客は
どこの王様であろうかと思い始めた

支配人は恐れおおくも
一張羅を彼に タキシードを差し出した
彼の心の中は平静だった
確率は銅貨一枚のときと
変わっていない

まわりで騒いでいる人間どもが
バカらしく見えてきた

彼は少し眠ってしまった
その間も勝負は続いていた
観客に囲まれ 息苦しくなったし
何より昼間からぶらついていたから
疲れたのだ

一段と高く上がった
まわりの歓声で 彼は目を覚ました
みると机の上に 山というほど
金貨が積んである

支配人が恐る恐る頭を下げて願い出た
「すみません
次の一回に勝たれると 店がつぶれます
どうか引き取り願えませんでしょうか」

彼ははじめて金貨の山を
自分のものとして計算しはじめた
奇跡的な確率で 勝ち続けて
これが全て己のものなのだ

彼は欲に目がくらみ残酷になった
観客の声に応じる英雄として
使命に燃えていた

ルーレットは止まった
彼は紳士淑女にあざけ笑われ
身包みはがれ 放り出された

彼は落胆して家に帰った
妻と子供がいつもの笑顔を向けて迎えた

彼は使命を思い出した
この妻子を食わせることだ
妻はあまりにしょげている夫をみて
何があったのかと聞いた
彼は答えた

いや なに せっかく拾った銅貨一枚
ルーレットで取られちまった
そんなことでと 妻と子供は
貧しさも逃げていくかと思うほど
大笑いをした
彼も一緒になって笑った


43.保存法

百姓が野菜を長持ちさせようと思案した

太陽は 日干しにすればよいといって 熱をくれた
海は 塩焼きにすればよいといって 塩をくれた
山は 缶に詰めればいいといって 鉱石をくれた
大地は みそに漬ければよいといって 大豆をくれた

その娘が その感激を いつまでも残したいと考えた

日干しにしてしまっておいた感激は
すっかりあせたものとなった
塩漬けにして ずいぶん苦くにがいものとなった
缶詰めにして 加工された新鮮味のないものとなった
みそ漬けにして 加工された新鮮味のないものとなった

いつのまにか その感激は 発酵して想い出となった


44.砂山

幼子は波打ち際に
砂をもって 山をつくる
波が来るたびに
そのふもとは とけ 山は崩れる
少し年上の 兄弟たちは
波の届かぬところに 山をつくる

波は舌打ちをしながら
やってきては 引き下がる
その腹いせにか 幼子の山を
一気に飲み込んだ

少し年上の 兄弟たちは
飽きて 消えた
幼子の山を笑いながら

幼子は 口をとがらせたか
べそをかいたか

いや にっこりと笑って
また 山をつくり始めた
波うち際に


45.月と太陽

月があんなに奥ゆかしく輝くのは
きっと 太陽を待っているからでしょう

太陽は純情すぎるから
あんなに熱くなるのです
月に惚れているからでしょう

それなのに それなのに
月の方から輝くときはない


46.生

祭りが終わった
夕陽が沈んだ
涙がこぼれた


あまりに重かったので
中をのぞいてみた
からっぽだった


47.希望

この世は闇に覆われている
でも あそこを見よ

丸く切り抜かれ 光がもれている
よくよく見よ
小さな穴からも 絶えず光がもれている

だからこそ
こんなに 足下が明るいのだ
ほら水たまりの中にも
希望がある

手でつかもうとしても壊れるから
自分の心の中に
ゆっくり 写しなさい


48.コーヒーカップ

コーヒーカップに
砂糖を入れる
さらさら さらさらと
溶けていった

僕は悲しくなった
砂糖と塩を間違えたことに気づいた

あ コーヒーカップに
入っていたのは紅茶だ
posted by fuhito at 16:48| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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